Q&A…達成感について

 モニターのKさんから質問がありました。(下のヒラの写真もKさんからです。K2F142で。)
※この前のコラム「メダルに相当すること」に共感しました。人生の後輩として、質問させてください。二宮さんにとって、「ルアー作成での達成感(モノつくりにおける達成感)」と、「心に残る一匹での達成感(釣りにおける達成感)」に共通するものはありますか?それとも、両者はやはり異質な感情ですか?
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 ウーム、難しい。(^_^;)
 ある思いが適った時、という点では共通しています。これが結論ですが何だか国語の解答みたいですね。折角だからもう少し考えてみます。長い文章になりそうです。
 
 私はルアーをこれまで40種余り設計してきました。もちろんそれぞれに達成感はありました。そして、平等に魚のほうも思い出の上位40匹を頭の中で反芻してみると…。
 …気付きました。
 
 まず、ルアー作りにおける達成感が最も強かったのは、年月を掛けて漸く市販に漕ぎ着けたウッドのMKF135。そして、デカ過ぎと言われつつプラスチック化したBKF140の時。これは、何から何まで初めてだったからです。出来たときはホッとしたことも憶えています。
 それに比べ、リップレスミノーは発売当初、自信が揺らぐような批判的な意見が多く聞こえてしまい、本当の達成感を味わうことが出来たのは、数年後、評価が定まり他社からどんどん同タイプが出てきて、大き目のオリジナルが売れなくなってからです。(^^;)
 このように作った時点で、評価を聞くまでもなく、ヤッタと思えるものもあれば、ジワッと後になって来るものもあり、様々なのです。その点は魚におけるそれとは異質です。
 よく作者として、どのK-TENが好きなのか聞かれますが、それは自らの子供に順位を付けるようなもので答えようがありません。強いて達成感で順位を付けるとすれば、完成までの困難さによると思います。これは魚の場合と共通しています。
 
 次に釣りにおける達成感を中心に思い起こすと、まず初めてルアーで釣ったスズキ、かと思ったら、そうでもない。これは別の感情が勝ってました。
 やはり重心移動ルアーの実用化に成功して、それを入れたルアーで初めて掛けた60に満たないヒラフッコの時が一番でした。続くのは、いつも89センチ止まりだった三匹のヒラ。サイズは劣るけどトンデモナイ、一匹のヒラ。トッププラグで狙い続けて数年後のヒラマサ。二回の退院後に釣ったワラサとマル。等々。若いとき海外遠征にもよく行っていたから、其方のほうからもと思うけれど、短期間のせいか達成感というより満足感とか敗北感とかが先にあり、この場合の順位には入らないようです。
 もちろん自分で記録物が釣れればそれなりの気持ちになることは予想できますが、今だと、例えばK2Fで私がランカーを揚げるよりも、友人や何処か遠くの誰かが釣ってくれて、その報告を聞くほうが私自身の達成感は上のような気がしています。
 そこが長くルアー作りをしてきたものの後天的に身に付いたサガなのかもしれません。
 
 私は達成感(昂揚感)を求めて、若いときは、山でも尾根筋から登るより、岩ルート、雪ルート、未知のルートを好みました。釣りでも同じようなところがありました。
 目標を高く掲げ、困難を極める程に大きな達成感を得られると信じていました。事実、体力に恵まれていた頃まではその通りでした。             しかしこの頃、加速していく時間の中で、体力も衰え、後、何本のルアーを作り、何本のイイ魚を釣ることが出来るのか考えると、もっと静かな達成感というものがあるような気がしてきました。(この辺りは歳故のこと、気にしないで)
 
 そして、冒頭の質問、共通か異質かを端的に答えると、歳を取るごとに段々異質ではなくなってきた、ということになります。… 
 ここからは、質問から少し離れて、達成感について想うところを書いておきます。
 考えてみると、年齢や経験に応じて、その時々での自らの想いが何なのか、何を願い、夢見ているのか、確認しながら進むことは大切です。
 魚のサイズであれ、ルアーであれ、もしかすると他の幾多のことについても、それは同じだと思います。
 そして、其処までやってみて、それでも状況によっては諦めざるを得ない時が来るかもしれない。でも心配しなくて大丈夫。きっとある種の貴重な感情が残るはずですから。
 また、前記の心構えをしておかないと、達成感と表裏の関係にある燃え尽き症候群が待っています。前者が大きい程これもまた強烈です。
 目標達成後の意欲の減退は、運動選手、大物を釣り上げた方、仕事と、そこかしこに見ることが出来ます。
 目標にしていたサイズのヒラを釣った後、未だに釣りを再開しない人もいます。
また、それ故にバラシや敗北は憂えるばかりではないことが解ります。
 私でも、釣りでの意欲の喪失は、ルアー作りと共倒れになる恐れがあります。(喪失していてもルアーを乱発できるところもある。モチベーションは様々。(^o^))
 
 だから私は、釣りバカの部分を維持して、ある方法をもって、ある種のヒラに逢うことを願い続けてきました。
 大事にしたい部分なので、あえてフザケタ表現をさせて貰いますが、それは明るい時間帯にムロフシコウジ(砲丸投げ)さんみたいなヒラスズキに出逢うことです。こうゆう、おそらく耳石と尾鰭の発達したヒラには昼間の荒れた海でしか逢ったことがない。それにこのタイプに超大型は稀です。このブログ内でもこの辺りのことは散りばめて書いてあります。
 
 K2F142は市販され大勢の人に使われるので、様々なことを想定し、出来るだけの配慮を尽くしてありますが、なお個人的に大切にしたい部分もあるのです。未だに会えない相手に会うための、陰りのない方法論を込めてあるのです。

Posted by nino