和歌山 タチウオのショアデイゲーム

写真/文 松井謙二

20代の半ばに初めてシーバスロッドを買った。

ダイワの「アモルファスウィスカー シーバス 11フィート」である。

当時は営業で釣具店や問屋さんに本を搬入したり、広告の打ち合わせを行っていた。

なじみの釣具店の担当者に「神戸港で80センチのシーバスを釣るのにいいロッドはどれですか?」と尋ねると、そのロッドを選んでくれた。

当時の価格で40,000円ぐらいしたと思うが、かなり高く感じた。

安月給だったが、まだ、独身という事もあり思い切って購入したのだった。

その頃は秋になると神戸港沖のポートアイランドの水道にベイトとなるイワシがかなり入ってきて、仕事を終えて大阪から阪神高速神戸線に入って神戸の京橋インターで降りた。

その日の風向きによってポートアイランドに渡り北公園側でキャストしたり、神戸大橋を渡らず橋の真下の埠頭に車を乗り入れてシーバスを狙った。

当時のシーバスルアーはラパラやロングA シーバスハンターなどで、何度か通っているうちに70センチクラスと60センチクラスを2本釣り上げた。

でも、それ以上に面白かったのがダイワのファントムジグやタックルハウスのタックルジグで指4本クラスのタチウオが結構釣れた事だった。

特に、タックルジグで遠投してテンションフォールで誘っていると、「ガッン!ガツガツー!」といかにもタチウオの鋭い歯でジグを噛んでいるバイトがあり、良い日に当たれば指4本クラスのタチウオが1時間に5〜6本釣れたのであった。

私は、特に食べる事に関してはマルスズキよりもタチウオの方が断然好きなので、いつしかシーバス狙いがタチウオ釣りが本命になってしまった。

あのイカつい顔に似合わない白身でふわふわ、ホクホクの身とパリパリの皮の塩焼き。刺身、煮付け、唐揚げ、味醂干しと、どんな料理にしても美味しい。ウロコが無いのもいい!頭だけ切り取り、適当にぶつ切りしてご近所さんに配れば、それは喜んでくれるのだ。(焼くだけでいいからね!)

2021年 初秋の和歌山はタチウオが波止から絶好調だった。

私は和歌山県紀ノ川市在住の金岡 祐司氏にタチウオ釣りの取材をお願いしたのだった。

「今、和歌浦、水軒、下津とどこでもタチウオは釣れてますが、人気が高くて夕方からはエサ釣りの人がいっぱいで、ルアーでは釣りにくいので昼間にルアーで釣れるポイントを探しておきます!」と金岡氏。

そして、昨年の9月21日に取材に出かけたが、その前週に台風が通過して、台風が来る前にあれだけ釣れていたタチウオが沖にでていったのか?嘘のように釣れなくなってしまい取材は難航した。

そんな昨年の苦い思い出から私たちのタチウオ釣りの取材は台風14号が近づくまでに決行する事になった。多くの魚の場合、台風通過後は海が安定するまで釣れない事が多いが、タチウオの場合はショアー、オフショアーに限らずそれが大きく現れる。

9月16日 午前6時に和歌山北インターで金岡氏と待ち合わせて彼の車にカメラとタックルを積み込み海南港に向かった。海南港は和歌浦湾の最奥に位置する港だ。

「タチウオは日が昇って明るくなってくると湾の深いところに入ってきます。海南港はタンカーが入ってくるほど水深もあるので、タチウオをデイゲームでルアーで狙うなら絶好のポイントです。昨年に行った下津のポイントも水深があるのですか、台風でタチウオもベイトのイワシも港から出て行ってしまい釣れなかったんですね。」と金岡氏

私たちは少し地磯を歩いて水道のポイントにキャストしやすい磯の突端に出た。

「潮位が高いですね!まだ満潮時まで時間がありますがタックルとカメラバッグはなるべく高いところに置いておきましょう。」と金岡氏は少しでも波が来ない場所に荷物を置いた。

そして一投目はP-BOY バーチカルの25グラムをキャストした。

「やはり夜の釣りとは違いタチウオがうわずっていなく、遠投が効いて、早くタチウオのいる深い層にルアーを落としたいので、フォールの早いジグがデイゲームの釣りでは使いやすいし、パイロットルアーとしてもタナを探りやすいのでもってこいです。」と金岡氏

フルキャストしてジグが水面に落ちると始めはフリーフォールでジグを中層まで早く落とし次にラインを張ってテンションフォールさせて底を取る。張ったラインが「フッ」と緩むと底にジグが着いた証拠で、それからは軽くロッドをジャークさせて誘いをかけてジグを底から1〜2メートル上げてそのタナをロッドを立ててジグがフラフラと泳ぐように引いてくる。アタリが無ければ小さなジャークを入れて、その繰り返しでタチウオを誘う。

「来ましたよ!これはタチウオです。」と嬉しそうな金岡氏。

水面から抜き上げたタチウオは朝の光にシルバーメタリックが反射して、その輝きがとても美しい。

P-BOYジグのトレブルフックの2本がしっかりとタチウオの顎を貫通していた。

「あーホッとしました!今日は間違いは無いですよ!」と金岡氏

「いゃー、私も本当に嬉しい!後5本は頑張ってな!」と激を飛ばす。

そして、その後は2投に1本タチウオがヒット。タチウオは底から2メートルまでの層で確実にヒットする。サイズが指3本クラスになれば中々の引きを見せるので金岡氏は楽しそうだ。

「良かったなぁ台風14号が近づく前に取材に来て!この調子でルアーも色々と変えて使ってね。」

そして彼は「スチールミノー31グラム」「タイジグスリム40グラム」「ローリングベイト77」「P-BOY キャスティング25グラム」を使って次々とタチウオを釣り上げた。それぞれのルアーで2〜3本のタチウオは釣っている。クーラーの中にはもう20本ぐらいのタチウオが入っている。

私もスチールミノーで遠投する。ルアーが着水したらラインを張ってテンションフォールで底に落としてロッドを立てて底から2メートルぐらいを意識して泳ぐようにリーリングする。

「松井さん、足元の手前15メートルぐらいに切り立った磯があるから、そこにルアーが来るまでに巻き上げないと根掛かりしますよ!」とアドバイスをもらう。

「ゴッゴッ」とルアーが磯に当たっていると感じて速急に巻き上げ回収する。これは気が抜けない。金岡氏もその磯で根掛かりさせていたのだった。

2投目、スチールミノーが定着して巻き上げてすぐに「ガッン!」というアタリで今年初物のタチウオが上がってきた。

3投目、アタリが出ないのでしつこくリトリーブしていたら案の定にスチールミノーが磯に掛かってしまった。

底を釣るルアーの釣りは難しい!ルアーの沈むスピードに泳ぎの特性を身体で覚えてコントロールしないといけないし、1番大事な事はルアーをトレイスする底の地形をしっかりと把握しておかないとルアーをいくつもロストしてしまう。

金岡氏は特性の異なったルアーを上手く泳がせて根掛かりを避けてすべてのルアーでヒットに繋げたのは流石だった。

彼に今回はどのルアーが使いやすかったか?聞いてみた。

「P-BOYバーチカル」「P-BOYキャスティング」そして「タイジグスリム」とすべてジグだった。その事はやはり今回のポイントの地形にりあったのだ。

自分がキャスティングする磯の先15メートル位に見えない急激に落ち込んだ磯がある。

まず、足元までルアーをトレース出来ないのでなるべく遠投する必要がある。なるべく長い時間タチウオにルアーを見せたい。底取りしてボトムから少し上をゆっくり泳がせる。そして、その沈み磯の手前で素早くルアーを回収しないといけない。となるとリップのある「スチールミノー」「ローリングベイト」などは巻き上げも遅くなり根掛かりする確率が高くなってしまう。

アピールする時間も短くなってしまうのだ。

夜でタチウオが上層〜中層にいる時や昼間でも底の変化が少ないところなら「スチールミノー」「ローリングベイト」で面白い釣りができるだろう。

今回はジグが活躍したがショアからのタチウオ釣りにはジグにアシストフックは不要でテールフックのだけでバレは少なく十分だと思った。

今回、金岡氏から頂いたタチウオがあまりに美味かったので、また、タチウオ釣りに出かけたい。

ホクホクのタチウオの塩焼きにスダチを絞って日本酒を呑みたい!

シンキングミノーもタチウオのレンジが浅い時は使いやすいルアーだ。