磯ヒラレジェンド 辻本 隆のサーフ攻略
写真・文 松井謙二
ーそこまで磯のヒラスズキに夢中になったのは、どんな部分に魅力を感じたのですか?
辻本 まずは目が大きく魚体が美しい。マルスズキより体高があり迫力がある。
そして何よりも日中のゲームで狙える部分が大きいです。
当時のマルスズキ主体のSWゲームは夜釣りがメインでした。
それが磯のヒラスズキは昼間にやれる。この釣りがいっそう楽しくなりましたよ!
磯では勝負が早いのもいい!10投、投げれば結果が出る。
次々に新しいポイントを探し歩くのが楽しい。行けば行く程にポイントが読める。
特にヒラスズキ釣ではこれが顕著なのもいいです。
前文は1995年 今から25年前の「SW ゲームフィッシングマガジン」の辻本氏への私が行ったインタビューである。
氏は誰もが認める関西でのヒラスズキ釣りのパイオニアである。
当時、南紀の磯で大型のヒラスズキを数多く釣り上げた。
95センチ 8.3キロのヒラスズキで、IGFAショア部門16LBラインクラスでワールドクラスに認定された。
まさにレジェンドだ。
辻本氏は11年前に高知県須崎市に移住した。一度、7年前に高知市在住の小田 大蔵氏のヒラスズキ釣りの取材時に四万十市の磯まで駆けつけてくれたのだった。
今回、この取材で7年振りに会った辻本氏は自宅にて、鰹のたたきと刺身、そして、飲めない氏がビールまで買っていてくれて歓迎してくれたのであった。
本当にありがたい。懐かしい友と会って話せる事ほど嬉しいことは無い。
当然、昔話は尽きない。
でも、どうして辻本氏は住み慣れた岸和田を離れて田舎暮らしに踏み切ったのだろうか?
近年、リタイヤして田舎暮らしする人が多い中、その経緯を聞いてみた。
「2003年からサラリーマンを辞めて、岸和田の実家で「アカメ」と言う居酒屋を始めたのですが、なんせ1人できりもりしていたので8年間まったく釣りには行けなかったんです。
それだけでは無く、お金の事や仕事の疲れから、少し気分が沈んでいたんです。
そんな時に、当時お客さんだった奥さんに自分の悩みを相談していたら、彼女も都会暮らしには結構なストレスを持っていたので、これから先は2人で田舎に行ってゆっくりして暮らしたい!と言う話になりました。
最初は南紀方面も考えていましたが、もっと自然が残っている高知県がいいかなぁ?って。
私は昔から高知県にはヒラスズキやアカメ釣りに行ってましたが、奥さんは一度も行った事が無かったんで、一度、旅行で行ったらとても気に入ってくれました。
須崎市の役所で住居の斡旋を受けて、役所の人が借りれる家を何軒か案内してくれたんです。
その中で、街中から新荘川沿いを車で10分、120坪の平屋が25,000円の家賃でありました。
家には畑もあり、そこに決めました。
近所に魚を釣って持っていったら、周りはすべて農家なので、翌日に野菜をいっぱい持ってきてくれるんです。今でも野菜は買ったことがありません。
祭りがあるので、近所の人と交流も盛んで、家に鍵をかけて出かけたことはありません。
都会の騒音、人混み、渋滞といったストレスはまったくないし、須崎市は物価も安いので本当に暮らしやすいです。」と辻本氏。
アユ釣りするのに歩いて3分。おまけに大自然の中で海釣り、川釣りが楽しめる。
元気なうちに一度、そんな釣り天国に住んでみたいけど、嫁さんに言ったら多分
「あんただけ行っておいで!」て私は言われるでしょう。
翌日、11月23日の午前5時30分に氏の須崎の自宅を出発。車を西に走らせること1時間30分
で四万十市の最初のポイントに着いた。
丘の上にある駐車場に車を止めて、そこから海に出る階段を降りて行く。
階段を覆った木々を抜けると目の前に、朝日に輝く広大な青い海の中央に浅い磯が連続する美しい風景が飛び込んできた。
たまに、弱い北西風が頬に当たるのが気持ちがいい。
今日から二日間 レジェンドの釣りが見れるのが楽しみだ。
「やはり、低気圧が昨日に通ったけど北西の風で波が消されてますね。私も歳をとったから今までみたいに崖を登ったりする危険な地磯は安全性を考えて行かなくなりました。高知の磯のポイントは浅いところが多いでしょう!このポイントのように磯がサーフに繋がっているポイントも多いんです。潮が引き始めたから小さなうねりが残っているので、確率が低いけどヒラスズキを狙ってみましょう」と辻本氏。
ケースの中から「フィードシャロー128 プラス」を選んで磯に上がり安全な立ち位置からポイントの波の広がりを待つ。ヒラスズキが付いていそうなポイントに4~5投して、反応が無ければ他のポイントに数投キャストする。ダメなら少し歩いて新しいポイントのキャストしやすい位置に移動して、再び波の広がりを待ちポイントにルアーを丁寧にトレースさせる。
その繰り返しで磯のポイントを広く1時間ほど探ったが反応は無かった。
「ダメですね!サーフでヒラメを狙いましょう!」と辻本氏の見切りは早い。
多分、彼はこの磯で釣れる条件を把握しているのだろう。
昨晩の話の中で辻本氏は、和歌山や高知の磯のヒラスズキにおいてはある程度のやり切った感が自分にはあって、潮位、波の高さ、ベイトの3つの条件が揃っていれば、かなりの確率でヒットに導く事ができると語った。
それよりも11年前にここ須崎に移住したときは、まずは家から近いポイントの開拓を始めた。
近くのサーフや河口で、面白いように大型のチヌ(クロダイ)が釣れた。雨が降って濁りが入ったらヒラスズキ、マルスズキ、昼間にはもちろん、ヒラメ、コチが釣れる。チヌ狙いのタックルにアカメがヒットして捕れない事も多かった。
須崎市は丁度高知県の中間の位置で、車で少し西に走れば外洋に面した美しいサーフや河口を持つサーフといくらでもポイントが点在する。
砂浜、砂利浜、ゴロタ浜、河口や磯に続くサーフ、狭いサーフ、広大なサーフと変化にも富んでいる。
磯は地形が変わらないから条件が読めるし、波が高い時は危険をおかしてまで釣りをしようと思わない。歳の事も考えて無理をして釣りをしなくなった。
そうは言っても磯のヒラスズキは現役で、釣れる条件が揃っていれば、今もめいっぱい楽しんでいる。
自分の釣りの楽しみ方はポイント開拓が1番好きで、それは30年前の南紀の磯のヒラスズキと変わらない。
高知に来てからはサーフの開拓が楽しくて仕方がないのだ。
パターンを見つけて、そこばかり行っていると飽きが来るから、また、違うサーフを探す。
誰もが考えつかない発見が1番楽しいと語る。
「磯とサーフではヒラスズキの狙い方は異なる事が多いのでは?」と言う私の質問に辻本氏は、サーフも磯も実は一緒でベイトが集まっているか?流れの変化はあるか?ヒラスズキやヒラメが何処でどんな時に餌を獲るか?を考えたらサーフもまったく一緒。
でも、難易度の高いのは磯よりサーフで、磯は地形が変わらないから魚の付き場は変わらないが、サーフは低気圧や台風で大きく地形が変わるし、大潮、小潮でも地形が変わるので幾度にポイントが変わる。
それが読めないと出会い頭で釣れる事があっても数は稼げない。
サーフでサオを出すタイミングは満潮からの潮が引いて波が立つ時で、潮位を前日に調べておいて、引きに入るタイミングでサオを出す。
サーフでは好天だとサカナの警戒心が強いので、それを解くための多少の波気、サラシに変わる濁り、そして、流れを起こす潮の動きが大切で、流れがあるからベイトが溜まってポイントができるのだ。ヒラメ釣りもポイントの見方は一緒である。
高知のベイトはイワシやキビナゴが多い。夜は浅いところまでベイトが入ってくるから、ベイトが入っていればヒラスズキは釣れる。
初日の朝は磯からサーフに移動してヒラメを狙ったが不発。その後に前日にベイトが多く入っていて青物が釣れたサーフに車で移動したが、強い濁りが入り青物は釣れなかった。
足摺方面のサーフは諦めて、再び四万十川を渡り東に車を走らせて、夜にヒラスズキが良く釣れるサーフに向かった。
日が完全に落ちた夜の8時過ぎにゴロタ浜のサーフに降りた。
見上げれば満天の星が広がり、時折り雲に隠れた月が顔を出して水面を照らし幻想的な世界を生み出している。
辻本氏はこんなに素晴らしいロケーションの中でいつも釣りをしているのだ。
夜のサーフゲームでは波が見えないので波打ち際から離れてキャストする。
一投目は正面、ニ投目は右、三投目は左と投げ分け、サカナの気配が無かったら7〜8メートル移動する。その投げ方を繰り返しテンポ良く探っていく。
より広くサーフを歩き、キャストはサカナがどこにいるのか?を考えて遠投して広い範囲を探るのか原則だ。
自分の足でそのサーフの状況を把握して基本は浅いところを探す。
大きいサカナほどエネルギーを使わず捕食できる浅いところでエサを待っている。
浅いところは、水面にボトムにエサを追い込みやすいからだ。
辻本氏は釣り場には多くの種類のルアーを持たない。同じルアーをカラーを変えて2〜3本持って行く。左上から2本が「フィードシャロー128プラス」フックは4番に変えている。その下2本が「TKLM」でヒラスズキ専用で魚が大きい時はフックのサイズをワンサイズ上げる。 右側の2本がヒラメ釣りで活躍した「コンタクトノード 130」でポイントが深い時はDタイプも使う。カラーはナチュラル系の日中は光物、夜はグローでベイトの小さな時はクリアを使う。
サーフでの辻本氏のタックルはロッドが10フィート リールが4,000番 PEラインの1.5号を150メートル巻いてナイロンのリーダーを1メートル取り付けている。
ナイロンラインの方がフロロよりも柔らかくて伸びるのでなじみが良く、キャスト時のトラブルは無いしルアーの泳ぎもいいのだ。 そして、辻本氏のサーフゲームで必要不可欠なフェイバリットルアーが「フィードシャロー128プラス」と「TKLM120」のどちらもリップのほとんど無いルアーである。
サーフでの釣りは足場が低いのでルアーが見にくいし地形も分かりずらい。
そして、ヒラスズキやアカメを釣るとなると、ベイトが入ってくる夜の釣りとなる。
つまり、釣りをしている時のポイントの情報は、すべてルアーの泳ぎから感じとらないといけないのだ。
リップのあるルアーはローリングする。ローリングするルアーは流れが変化する水の層をそのまま突き抜けてしまう。
上記の2つのルアーはリップが無いのでローリングしない。だから、流れの変化に敏感に泳いでくれるのだ。
サカナは流れが変化するところで食ってくる。この2つのルアーは流れの変化のあるところでサカナが食うアクションを自動的に作ってくれるのだ。
言い換えれば潮の変化で流されて、泳ぎが変わったイワシやキビナゴを演出してくれる。
「ああ泳いでるなぁ〜」と言う速さで巻くだけで釣れる。
また、そんなルアーだから水中の流れの変化や情報を確実に教えてくれるのだ。
それは、このようにミノープラグをキャストする釣りも、オフショアのジギングでも水中の情報を取る手段は一緒なのだ。
一つのルアーを使い込んでいくと、その動きが、手に伝わる感覚がわかるようになってくる。昼間の釣りでルアーの動きを目で確かめて、その時の手に伝わる感覚を掴むと、夜のサーフゲームでルアーが今どんな状況かを知る事ができるだろう。
それでも、ポイントがかなり遠い時にはK2F142T1を使う。
シンキングルアーは使わない。根がかりして、リーダーを結び変える時間が無駄なのだ。トラブルで集中力と時合いを逃す事を氏は極度に嫌がる。
「ヒット!」辻本氏の声が暗闇のサーフに響いた。 砂利に足を取られながら走って行くと「フィードシャロー128プラス」のフックがシルバーに美しく輝く60センチオーバーのヒラスズキの口の下を捕らえていた。
その後も辻本氏に私にヒラセイゴがヒットした。 高知のサーフのポテンシャルの高さが証明された。
翌日、24日は再び国道を西に走り興津方面のサーフにヒラメ狙いで出かけて、満潮から引きに入る午前8時過ぎに到着した。
広大なサーフの上空に西から雲が流れてきて、その雲の間からところどころに日が差し込んで海面を照らしていた。
辻本氏が私にヒラメ釣りのアドバイスをくれた。
「こんなに広いサーフでは足でポイントを探るのが1番です。7~8メートル歩いては正面、左右に合計3投してバイトが無ければ、また7~8メートル歩いて投げるのを基本にしていますが例えば、サカナがヒットしたけどバレた時や潮の流れが変化している場所、また、ルアーを投げたらベイトが水面に跳んだ場所などは、そのポイントの波が駆け上がってこない砂の上に○でも✖️でも竿尻で大きく描いておくんです。再度、戻ってきた時にキャストします。 ヒラメはあまり大きく移動する魚では無いので、バラしてもそのヒラメがルアーにヒットする事は度々あります。」との事だ。
確かにサーフならではの釣り方だ。ヒットしてバレたら❤️マーク書いて受けを狙いたいが! カメラバッグをサーフの中心の階段に置いて、辻本氏は東へ私は西へ歩き始める。
アタリは無いのだがルアーが波打ち際までくると、たまに小さなベイトが跳び跳ねた。 1時間経って2人はカメラバッグのあるサーフの真ん中まで戻ってきた。
「小さなベイトがルアーに驚いて、たまに飛び跳ねるですが!」と私 「そうでしょ!ベイトがいたら期待持てますよ!」と辻本氏。
辻本氏は「コンタクトフィード128プラス」ではアタリが無いので、フィードより少し潜る「コンタクトノード130F」にルアーをチェンジした。
そして、再び2人が歩き始めて直ぐに辻本氏に50センチ級のヒラメがヒットした。
カメラバッグを持って走って行くとノードの3本フックがヒラメの口の外側に掛かっていた。
ヒラメやコチは底にへばり付いているので、少しでもヒラメに近づけてやろうとルアーを変えたらしい。
その後、またしても辻本氏に同型のヒラメがヒットした。足元までくる波に乗せて砂浜にずり上げた。
辻本氏の目尻が垂れた。
その顔は昔、南紀の磯で、日本海の隠岐島の磯で釣り上げた80センチオーバーのヒラスズキをもって私のカメラに写る辻本氏と一緒の顔だった。
磯もサーフも常に新しいポイントの開拓に精を出す辻本氏。南紀のヒラスズキレジェンドは高知のフィールドでも健在だ。
とても面白い記事でした。サーフは回遊待ちの運任せな釣りのイメージがあったがプロになるとここまで戦略的に釣りをするのかと驚きました。
ルアーセレクトもシンプルで魅力的でした。今ではミノー以外にも多くの種類のルアーがありますが敢えて数種類のミノーに絞り徹底的に使い続ける。道具を熟知して使いこなすルアーフィッシングの面白さに気づかされました。
こういうインタビュー記事を是非また読んでみたいです。