小売店さんやユーザーの皆さんにもたまに言われることで、最近ではネット上でも、タックルハウスの製品は廃番が少ないという声が見られます。概ね好意的に捉えていただいているようですので、一安心。もちろん、私たちは一度リリースした製品は廃盤にならないよう努めています。今回はその理由をお届けします。
工業製品としての進化
ハンドメイドから始まった日本のルアー。黎明期は、個人で作られたものが多く限られたお店でしか手に入らない、いわば工芸品のようなものでした。時代を経て釣り人が増え、プラグに関していえば、木材からプラスティックへとボディの素材が変わり、プラスティックのボディの設計も人の手による図面からコンピューターによる3DのCADへと代わり、金型や成型の精度も高まり、内部設計も進化し、今や数多くの会社が工場で作っている立派な工業製品です。
工業製品にはモデルチェンジがつきものです。自動車や家電製品などは性能の向上やユーザーの好みの変化で、世に出てしばらくすると、新しくなります。たとえば、携帯電話のカメラ機能。初めて世に出たのが、20年少し前。それからスマートフォンが登場し、今ではプロ用の機材を使用したかのような映像作品を作れるほどの機能、性能を持つモデルもあるほどです。自動車でも数十年前の高価なスポーツカーの性能を凌駕する車が、誰でも手に入れることができるようになっています。
K-TENを世に送り出した時は、そのメカニズムにより飛距離という機能を味方につけ、まずはその性能を大きくアピールしました。実際に当時は多くの方にお使いいただき、それなりに評価もいただきました。その後耐久性向上のため、ワイヤー変更を行っています。管理釣り場向けトラウトプラグのシケイダーでは、時代の要求もあり、シングルフック化のためのボディ再設計を行なっています。
もちろん、これらの製品改良だけでなく、泳ぎの性質とボディ形状との関係や、ウェイトの素材、キャスト時の飛行姿勢等々、性能を高めるため工業製品としての品質向上のため、新製品の開発では、既存品の性能を上回るべく努力を重ねています。
魚はルアーの新旧を知らない
こう言っては元も子もありませんが、魚たちはそんな私たちの努力は知りません。つまり、最新のルアーで釣れることもあれば釣れないこともあります。最新モデルを使って釣れない時に、古いルアーを使って釣れることもあるでしょう。
では魚が釣れる条件とは、なんでしょう。泳ぎなのか、発する音なのか、光なのか、もちろん正しい答えは出せるものではありませんが、釣り人側では、対象魚の習性や天候、フィールドの状況を考えて、正しい答えを導くために手持ちのルアーを選択します。
雑誌やSNSの情報、ショップの店員さんの意見を参考にルアーを選ぶこともあれば、それまでの経験からルアーを選ぶこともあります。思い通りに魚との出会いにたどり着ければ、嬉しいですし、その確率を高めるために、ユーザーの皆さんと同様に私たちは試行錯誤を繰り返します。
お気に入りルアーは人それぞれ
キャストの数が増え、魚との出会いを繰り返すほどに、きっと皆さんのお気に入りのルアーが出てきます。一定の条件下、このルアーを使って、こうやってリトリーブするとこのタイミングでアタックしてくる。思い通りの釣りが展開できれば、そんな嬉しいことはありません。そうしたパターンが一つだけではなく複数導き出されていけば、自信も生まれますし、長きにわたって釣りを楽しむことができます。もちろん、お気に入りのルアーを大切にお使いいただければ、それはメーカーとしてもありがたいことです。
メーカーは、製品をリリースする際には全てのルアーがみなさんのお気に入りとなっていただける事を願って開発にあたります。もちろんリリース以降ずっと売れ続けてくれることは、私たちにとって一番ありがたいのですが、なかなかそう上手く行くことはありません。逆にそうでないことがほとんどです。
冒頭では廃番を避けたいとしましたが、私たちが心がけているのは、求める方がいる限り、市場に送り出した製品は可能な限り販売を続けるということになります。もちろん、残念ながらこれまでには姿を消した製品もあります。ウッドモデルでは、品質の差の少ないボディの調達にコストがかかりすぎるようになってしまったというのが大きな理由です。そのほか売れ行きが芳しくなく、やむなく再生産をすることなくカタログから去った製品もあります。それでも、ただ発売から時間がたったことだけを理由に販売を止める事は避けています。そんな理由をいくつかご紹介できればと思います。
◯性能評価に時間がかかることがある
今年で20年を迎えたローリングベイトは発売当初、その見た目のためか、販売に苦戦していた製品でした。他のメーカーであれば失敗作として早々に廃番となってしまっていたかもしれません。しかし、独特の泳ぎとフィールドテストの結果からどうしても諦められない製品でした。その他にもリップレスミノーやコンタクトフィードシャロー、フィードポッパーといった製品群も、こうして時間をかけて育てていただいたアイテムで、登場時より継続して支持してくださった方のおかげで、全国に広がっていった製品です。いっときの売り上げで判断していたら、今の評価はなかったのではないかと思います。
◯見過ごすことのできない局所的な需要
港湾シーバスのクルーズシリーズは、一度廃番とはしたのですが、ユーザーの方からのお問い合わせに加え、とある地域の小売店さんのご協力もいただき、昨年より再販売を果たしました。
面白いことに、同じ対象魚向けのルアーでも、地域によってご注文をいただくルアーの種類やカラーには偏りがあります。それはその地域の魚の特性なのか、釣り人の好みの違いなのか、それとも地形や海流、フィールドの状況の違いによるものなのか、色々理由は考えられます。いずれにせよ特定地域やショップから、定期的なご注文が入るルアーを、会社の売り上げ全体の比率が低いからという理由だけで廃番にする必要はないと考えています。
◯対象魚の拡大、人口増加への期待
今ほど海のウルトラライトゲームの人口が多くなかった頃にリリースした、キー・パプース。当時は、淡水魚に比べてパワフルで大きな魚が釣れるのが海のルアーの魅力として語られていました。もちろん、それも事実ですが、海はフィッシュイーターの宝庫。堤防から気軽に楽しむ釣りがあっても良いのではないかと発売しました。当時はごく一部の方が楽しんでいた釣りですから、出荷数はそれほど多くありません。しかし、ウルトラライトゲームへの期待を持って作り続けてきた中、少しずつユーザーも増え、おかげさまでで20年を超えても未だにご支持をいただいています。そしてキー・パプースあったからこそ、身近な場所で楽しめるアイテム、そしてSHORESシリーズのデビューに繋げることができました。
◯全てのルアーが唯一無二
私たちは、基本的に既存製品と全く同じコンセプト、同じ機能を持つルアーを新製品として発売することがないよう心がけています。長さや形状、ウェイトが似ていても、その泳ぎの質は変わります。つまり、世に出た時期を問わず同じ性能を持つルアーがないということです。それは、魚へのアプローチの種類が多いほど、出会いの可能性が高まると考えているからです。一つの製品が廃番となると、一つのアプローチ方法が減ってしまうわけです。これも廃番を避ける理由の一つと言えます。
実際は、全く同じものを作るのは、不可能とも言えます。基本性能を変えることのないよう行ったリニューアル時に、旧製品の在庫のお問い合わせをいただくことがあり、さらには、新製品出荷後に旧製品の注文が入ることもありました。つまり、リニューアル、またはバージョンアップのつもりでも、お使いになる方にとっては、別物となってしまったわけです。メーカーとしては戸惑いもありますが、全く同じものをお届けしているわけではない以上、お使いになる際には何らかの違いが生じていることは否定できません。
ユーザーの皆様の考え方、釣りのスタイルはお一人お一人違います。そしてそれぞれの方が導き出した正解とも言えるルアーももちろん異なります。私たちも釣りを楽しむので、お気に入りのルアーが手に入らなくなる悲しさは知っています。そんな思いもあり、よほどのことがない限り、生産・販売の中止はないよう努めています。また、いつまでも支持されるというのは、ルアーを製造する私たちの喜びでもあります。
工業製品とはいえ、単純にモデルチェンジ、代替わりして行くのではなく、古くからある製品も新製品と同じ土俵で戦えるものというのは、少し珍しいのではないでしょうか。
一度発売したものを、新製品が出ても並行して長きに渡り生産をし続けるというのは、効率だけを考えると最善の手だとは言えないかもしれません。ただし、生産を続ける以上ボディを作る金型を廃棄することもありません。少し前の大量生産大量消費が良しとされていた時代から少し変わりつつある今の世の中において、こんな考え方もありではないかとも考えています。
近海仕事人センターバランスが廃番になってしまったので、某老舗ショップに各店在庫を集めて貰って買い漁りました。ちょっと地味ですが、なんでも普通に(これがとても大事)釣れるので、復活を祈っています。それまで在庫が保てばいいのですが・・