【Field report】高知県南西部の磯ヒラスズキ攻略

写真/文 松井謙二

サラシの厚さを見てTKF-130とBKS-125リップレスを使いこなす

高知県取材の2日目。

前日の内川氏との川スズキの取材が大変上手く行ったので、昨晩は内川氏と安芸市の居酒屋で遅くまで飲んでしまった私だった。それでも今日から高知県南西部の磯でヒラスズキの取材を行う小田太蔵氏の高知市内の自宅には安芸市内のホテルを出発して午前8時過ぎに着いた。

「松井さん!昨晩は内川さんと飲みようと言っていたからうちを出発するのは昼ごろと思ちょったよ!」と小田氏。

「昼に着いたら今日は取材でけへんやんか!」と私

小田氏のタックルや着替えを私の車の中に詰め込んで彼の運転で高知道に入り西部に向かう。高知道の最終の窪川、四万十中央インターを降りて国道56号を西へと走る。黒潮町の海岸線に入ると思いのほか波があった。2〜3メートルあるウネリが海岸線から見える磯にぶつかり波飛沫をたて白いサラシが広がっている。

「松井さん!三陸沖に低気圧があるから東ウネリが入っていて今日、明日と波が無くなる事は無いですよ!」と小田氏

磯ヒラスズキ釣りには波が不可欠だ。何か期待が持てそうだ。

小田氏とは6年前に私達が安田川にアユ釣りに来た時内川氏の自宅で釣り仲間を呼んで歓迎会を開いてくれた時に、私と大坪氏とで「小田君はまだ若いし、釣りのセンスはいいから、是非、アユ釣りをやれよ!」と口説き倒したのだった。

「アユ釣りは自分がハマったら怖いし、サオも高いから金が掛かるし!」と言って首をタテにふらない彼に翌日、伊尾木川でアユ竿を持たせたのだった。そして、私は家に帰ってから、少し古いが大切に仕舞っていた9.5メートルのアユ竿を彼に送った。そして、翌年からアユ釣りの名手大坪氏に弟子入りして、今ではドップリとアユ釣りにハマり私より遥かにアユ釣りの腕を上げてしまった。最近では夏場の休日はすべてアユ釣り。それが終わると奥さんと一緒に毎週、登山を楽しんでいる。そんな彼とヒラスズキの取材に行くのは別冊の「The BlackFin」の取材の時からだから10年ぶりか?

小田氏のホームグランドである四国西部の磯ヒラスズキ狙いのフィールドはメジャーポイントとマイナーポイントの場所があり異なった2つの楽しみ方が出来ると彼は言う。メジャーなポイントは土日ともなれば人の出入りがあり、魚がルアーを幾度も見ている魚がスレたポイントでルアーの選択からキャストのタイミング、トレース、アピールする技術など、色々な面で自分を試せるフィールド。

もう一方はマイナーポイントで人の出入りが少なく、自分で開拓したポイントも多い。そんなフィールドのヒラスズキは当然ルアーを見たことの無い魚も多く、比較的に良型も多くルアーへの反応がいいのだ。

ヒラスズキ釣りにハマり出した頃は、海岸線を1人で釣れる時も釣れない時も歩いて、自分一人だけしか知らないポイントを探そうとやってきた。友達同士でもあまりポイントを教えあったりしなかったけど、やはり各自が凄いポイントに入っていた。

自分で見つけたポイントで1匹を手にするのがこの釣りの醍醐味だと彼は言う。

四万十川を越えて海岸線を見ながら南西へと走る。小田氏は川の河口の道路脇に車を停めた。サーフィンのロングボートを積んだ車が2台止まっている。道路脇からその岬を見ればグーフィ(自分が波に乗ると左へ崩れていく波)のオーバーヘッドのセットが入って来ている。

「今日は夕方までここの半島をずーっと歩きながら釣りをしましょう!」と小田氏。彼はウエットスーツとライフジャケットに私はアユ釣り用のウエットタイツとライフジャケットに着替えた。

小田氏のタックルはロッドが11.6フィートのヒラスズキ専用ロッド。リールはレバーブレーキ付きの5,000番にラインがナイロンの16ポンドをビニニツイストでダブルラインを作り10~15センチ取ってナイロンの16号のリーダーを1.2メートル取りオルブライトノットで結束している。

「今は磯ヒラでもPEラインを使う人が多いです。PEは確かに飛距離も出るし、伸びが無いので感度も良いですが水に浮くものが多いし、波の中で釣るヒラスズキ釣りにはラインが波に取られて持って行かれやすく、根に掛かればPEよりナイロンの方が外しやすい。ナイロンラインを昔から使っている人はルアーが泳いでいる感度も充分取れるし、小さい魚がルアーの後ろで反転したとか、前あたりも取れます。感度の高いロッドなら手の感覚で水の中の情報は十分取れる」と小田氏は語る。

2人で海岸線の道路の坂を300メートルほど登って畑が広がる農道を通り半島のてっぺんまで上がった。そして山道に入り海に出るために蜘蛛の巣だらけのけもの道を下って行く。多分、彼はこの道を今までに幾度も通って釣りに来てるのだろう。

「松井さん、やばい台風で道が無くなってます。」

「え〜」それでも道なき道を進んで行く小田氏に着いて行きなんとか海岸まで出る事が出来た。

「夕方4時ごろまでゆっくりと磯を歩いてポイントを探っていきましょう!」

と言う事は今、丁度お昼前なので釣りをしながらこの半島を河口まで歩いたら4時間ぐらいかかる!と言う事だ。

コンビニで買ったおにぎりを食べながらポイントに入ってくる波の様子を伺う。思っていた以上に波が高い。東からのうねりはセットのピークで3メートル近い波が入ってくる。そして、その波のサイクルが早いのでポイントにサラシが広がり落ち着くこともなく次々とその上から波が崩れていくのだった。

「思っていた以上に波が高いからポイントが絞りにくいですね!波が高すぎるとポイントがぼけてしまうような感じなんです。結局、ベイトが落ち着いておる事が出来ないからスズキも自分のスポットに入ってステイしにくいんです。ただこんな状況でもカタクチイワシやキビナゴのべイトが大量に入って、鳥も多くて海に突っ込んでいる時はどこに投げても釣れるのですがそんな事は滅多に無いです。まぁやってみましょう!」と彼は磯の上を忍者のようにテンポ良く歩いて行く。流石に登山とアユ釣りで鍛えた足腰だ。そして、常に波の状態を見ながら万全の注意を払いながら、安全にキャスト出来る磯の高場に上がる。

彼の使用ルアーはシャロー系がほとんどだ。トップ、ミノー、シンキングペンシルなどを飛距離や水深、地形によって使い分けている。キャストのタイミングは波のくるタイミングや波長、波の静まる時間が何秒あるかなど考えて、出来るだけ大きなサラシが広がり波の静まるタイミングでベストなポイントにルアーをキャストするのが本来の釣り方である。

しかし、今日は波が高い。また、セットで入ってくる波の感覚も短いのでサラシが広がり落ち着いている時間は無いのだ。

小田氏はそんな中でも少しでも波が静まった時を狙ってポイントにルアーをキャストする。波長が短く次から次へと波が来るのでロッドを立て気味に構えてラインが波に持って行かれる前に軽くロッドを煽ってスラックを修正する。このラインメンディングの際は出来るだけルアーを引きずらないようにする。言い換えればルアーの移動距離を出来るだけ短くする事を心がける。この時にルアーがズレたり移動距離が大きくなればミスバイトに繋がりやすいからだ。当然、波が大きいほどラインメンディングは難しくなる。狙うポイントを見極めてから、波のこない高場の立ち位置から波のタイミングを見て時間を十分かけてキャストして魚にアプローチするのだ。

波の高い時も波が小さい時もヒラスズキ釣りは的確なタイミングで一投を大切にしないと釣れない。常にこの一投がヒットに繋がるように全神経を集中させる。そして、小田氏はこの半島のゴロタ浜や磯の上を西へ向かって歩きながらポイントを見つけて、そのスポットに1番ルアーを通しやすい立ち位置を選び、波のタイミングを測り再びキャストする。

数カ所のポイントを叩いたがヒラスズキのバイトは無い。

「松井さん、次のポイントは少し泳いで磯に渡り磯の先まで行くから無理しないでここから撮影しといて!」と彼は海に入って少し泳いで磯に上がり素早く歩いて先端に出た。

遠くからカメラのレンズを通して見ていた彼が泳いで渡った磯の先端は、波の崩れ方、サラシの広がり方、海溝や磯の地形を見ていると、彼がこの半島のポイントで実績を1番あげている場所であると思った。サラシの大きさから見て、ヒラスズキの付き場が多くありそうだった。

30分位経って彼は戻って来た。

「あ〜ここで出なかったら今日は難しいですね!この場所を過ぎると河口までは南向きで波も小さくなり小場所が多いですが、良さそうなとこだけ攻めて車に戻りましょう!」と小田氏。

川に飛び込んでウエットスーツの塩気を落として上がってきた彼の顔は、釣れなかったがやり切った感で清々しかった。

その後、私達は夕方6時前には土佐清水市のビジネスホテルに入りシャワーを浴びてから、近くの居酒屋で反省会をした。

「今日は波が高かったので狙うポイントの中でも水深があってサラシが分厚いところを選んでルアーを通したが、ここは出るやろ!と思いきやベイトがいないので、自分がスズキがおると想定したポイントにはまったく魚が入ってなかった。」と小田氏

「同じ半島のポイントでもここは満潮時にいいとか、干潮時にいいとかもあるよね?」と私

「それはあります。ただ言えるのは自然条件の中で100回そこに行っても波の方向がちょっと違えば釣れる潮位も変わってきます。よく似た条件の日はありますが、まったく一緒はまず無い。その時の自然条件に合ったポイントに魚が付くので少し変わります。だから何時も釣れるポイントよりも30回目の釣行でもっと釣れるとこを見つけたりする事もあります。ずーとヒラスズキ釣りをしていたら釣れなかった理由が、絡んだヒモがほどけるように分かってくる事があります。波の向き、潮位、波の高さ潮の流れ、ベイトと全ての条件が自分のデータの中で良い状況下が魚が釣りやすいわけです。」

「ヒラスズキを釣るためには1番何が大切?」との私の問いには

「1にベイトがいるか?これは絶対不可欠。2は波、3はサラシの状態を読んでルアーを動かすレンジとヒラスズキの動き」との事だ。今日はベイトがまったく見当たらなかったのだった。

翌朝8時にホテルを出発した。

「今日は何処へ?」とハンドルを握る小田氏に尋ねる。

「昨日のポイントはベイトの姿がまったく見れなかったので、今日は高知で1番南西部の大月のポイントに行ってみようと思います。」

「叶崎」の展望台に車を停めて波の方向と大きさをチェックして海岸沿いの山道に入った。

「こんな所に神社があるで!今日の取材の安全と釣果を祈願しよ!」と2人で「月山神社」の社に手を合わせた。

帰りに、報告に立ち寄った時に知ったが「月山神社」は家内繁栄、海山安全、豊作大漁を祈願する人が多い神社であった。

車は狭くて長い山道を抜けて開けたゴロタ浜に出た。昨日よりも天気が良く暖かい。波の大きさも少しサイズが落ちている。これで磯廻りにベイトがいたら良い条件だ。早速、2人はタックルを用意してゴロタ浜を歩いてサラシが広がる磯に向かった。

磯の高場から磯の回りを観察する。

「松井さん、ベイトがいますよ!あそこに。」と指差して教えてくれる小田氏。

よく見ると黄色っぽい小さな魚の群れが磯の回りにいくつか見える。

「あの魚もヒラスズキは捕食するの?何という魚?」

「コベラジャコと呼んでいる数センチの小さな魚です。」と言って彼は今一緒にいる磯の先端に行って波のタイミングを見てTKF-130をキャストする。

今日は大きな波で2メートル程でサラシが広がりポイントが落ち着いたところで狙いのポイントの奥にルアーをキャストする。

TKF-130は小田氏の定番ルアーでサラシが厚くても薄くても自分が考えるルアーの動きを演出しやすい。ヒラスズキに関して言えば早く巻いて釣れる魚は誰でも釣れると言う。

ただ、今この状況で釣るとしたらベイトは何時も尻尾を振って早く泳いでいない。一瞬、フィッシユイーターから逃げるために早く泳ぐ事はあっても、いつもは波があっても比較的穏やかなところに数匹の群れでいる。

だから、群れから逸れて追われて逃げているベイトを演出するためにルアーをポイントの少し手前で大きくワンアクション入れた後にルアーをゆっくりと漂わすようにポイントに送り込んで使う。そうする事によりレンジ操作と自分が理想とする魚に食わせる動きを出しやすいのだ。

ルアーをとにかく動かし過ぎると釣れない。ルアーを動かさずにレンジ、水面下30センチを引くことが出来るのが腕と言う。

このTKF-130はそれが最もやりやすいルアーなのだ。

サラシが薄い時は水面直下にルアーを通し、サラシが深くて厚いのならもう少し深いレンジを引く。結局はスズキが水面で食うと言う事は見切りしにくいレンジであり、捕食しやすいレンジと言う事だ。

最初のポイントでは2度小型のヒラスズキのバイトがあったが、このポイントは後でゆっくりと攻める事にして小田氏は対岸にある独立した磯に泳いで渡った。そしてノコギリの歯のような磯の高場を歩いて行き先端に出た。その沖は波が沈み根にぶち当たり大きく広いサラシが広がる。いかにも、数匹のヒラスズキがいそうなポイントだ。

波のタイミングを計りサラシが広がり落ち着いた3投目、小型のヒラスズキがヒットした。磯際に寄せてフックのかかり具合を確認してから磯の上に抜き上げた。

「ヤッタ〜!」小型だかシルバーメタリックに輝く美しいヒラスズキだ。

1投目にTKF-130でバイトがあったがサラシが薄いのでBKS-125のリップレスに変えた。これは小田氏が20年以上前からリップを削って使っている最もお気に入りのルアーでシンキングながらゆっくりと巻いてもあまり沈まない。使いこなせば動きはナチュラルでレンジ操作がしやすいし、波動を小さく見せてサラシが薄くても魚に食わせやすい。

今日は大きな波が来ないので薄いサラシは広がるけどルアーの動きを少し抑えた方が良いと思いBKS-125を選んだとの事で、ただこのルアーを使いこなすにはルアーを操作している時の手の感覚が大切でロッドの感度も必要になってくるのだ。写真を撮り魚をリリースしてから再び彼は独立磯の先端に立つ。

再びBKS-125をサラシの中のポイントにキャストする。2投目、ルアーにバイトした魚に大きく合わせたがフッキングならず。

4投目、今度はしっかりとルアーを食わせた。魚は何度も水面に出てエラ洗いを繰り返す。

興奮して私はカメラのシャッターを切る。

「バレるな!バレるな!絶対に獲ってほしい。」

波打ち際でも海面に出てエラ洗いを繰り返す。しかし、BKS-125の3本のフックはしっかりとヒラスズキの顎を捉えていた。

そして、波打ち際まで降りていった小田氏のグリップがしっかりと魚の口を捉えた。

「ヤッター!」磯のてっぺんで万歳を繰り返す小田氏。

私もこんなに嬉しい事はない!「でかした!でかした!」

しっかりと小田氏とヒラスズキの写真を撮り、魚に感謝してリリースした。

その後は私は小田氏のロッドを借りてTKF-130の泳がせ方を教えてもらった。一度ヒラスズキがルアーに乗ったがすぐ様バレてしまった。

その後、彼はレジスタンス バルチャー120でサラシの薄いところやサラシの切れ目にキャストしてトップウォーターゲームを楽しんでいた。

「バルチャーのドッグウォークで3回もバイトがあったよ!」と2人共に楽しんで清々しい気分で車に戻った。

「やっぱり釣りの前に月山神社でお祈りしたのが良かった!」と帰りも立ち寄って、今度は賽銭箱に百円入れて取材の大成功を報告する2人だった。