サイズ、表示と実際

 我々がルアーを選択するときの理由のひとつに、サイズがあります。 
 90㎜とか125㎜とか、5㎜刻みの表示が多いですが、Mを発表した頃から108とか147とか、末のミリ部分を5以外の数字で表記したシリーズも各社から出始めました。
 私がMで末尾8を指定したのは、例えば148という数字を耳にするだけで、ルアーが特定でき、区別分類がしやすいこと。それに外車のネーミングに328、206(車好きなら車種がわかるでしょう)とかが使われる意味を考えてのことでした。
 代名詞になるまでは時間が掛かりますが、いったん定着すればアルファベット1文字か数字だけで認知されるようになる可能性があります。数字や英字一字では商標パテントが取れないのに、より成熟した車業界では、先行したメーカーの数字配列は真似されることはありません。仁義のようなものです。法よりも強い、互いの遠慮があるのです。(車業界に限られるみたい)
 ところで話をルアーのほうに戻すと、各メーカーで同じ90㎜という表示でも実寸はマチマチなのが現状です。ワイヤー部分まで入れた全長であったり、K-TEN系のように本体サイズそのものであったりします。コンセプトが被る後発のライバルルアーは実寸を僅かに小さくしてくるのが通例となっています。
 昔からルアーは釣れないときほど(ルアーマンの意識を辿ると)小さくか、細身が支持されてきました。魚の反応が薄いとき、大抵サイズを下げるのが普通で、サイズアップは余程の理由がないと手を出さないものです。
 そこで、ルアーのサイズにボリューム(体積)という概念を加えると、サイズ表示は大きくても細くしさえすれば、購買をためらわせずに済むようです。だから市場には大きいというより長いミノーが多いのでしょう。(例えばTKLM90とM128とでは表示に開きがあってもボリュームは変わりません。むしろ90のほうが動きもありアッピールは大きいぐらいです。広い意味での大きさということでは同格になります。)
 表示サイズだけでは現れないものがあるのです。
 
 また、BKF115(上写真手前)はミノーとして現在でも最大級のボリューム感を持ちます。実験を重ねて、これ以上太くすると魚の反応が変わるギリギリを狙いました。サイズ表示のわりに細かい釣りには向きませんが、無理なく大きめのフックが使え、大場所での一撃の強さはトップクラスです。(今後二度と作れそうにないルアーのひとつ)
 そして、他に私の設計したもので言えば、140㎜以上は小さく見えるようなデザイン上の処理をしています。本当は大きく太いけれども、前後を絞って反射光を抑えたり、反射のピークを線状に、曲面を歪曲させ三分割して、一度に全体が光らないようにしているのです。130㎜以下はサイズなりの効果そのままという感じです。
 
 例外があるとすれば、今度のK2F142になります。(上写真中央)
 これは若干細身にしたこともあり、小さく見せることには配慮していません。むしろ反射光の大きさではBKF175㎜(上写真奥)を上回る一瞬があります。
 それ故、気を使ったのは反射の仕方(流れ方)です。鋭い反射(平面鏡のような)と柔らかな反射(凸面鏡の端のような)とを曲面の構成を考えて、動いたときに斜め下から見て丁度良い塩梅にしたつもりです。
 若いときに、海に潜って下からルアーや小魚を眺め続けたことがありました。遠くだとボーッとしか見えないそれらは、アクションや造形、射し込む光線角度等の違いによって、実寸より小さく、あるいは大きく見えたものです。
 それに海は荒れるほどにルアーは感覚的に小さくなります。一面の大サラシのとき、140㎜でも100㎜ぐらいに感じるものです。
 
 このようにルアーのサイズと言っても表示以外に様々な要素が絡むので一概に何㎜のルアーがベストかは言えないものです。 
 ただし、スズキ類を漁師的な目的で(飛ばすとか、大型狙いとか、好みとか、想いとかは無視)数を釣るだけなら、平均して内湾で90㎜以下、しかも沈むもの。外洋でもせいぜい120㎜といったところが適当な数字だと思います。
 では何故、今更142㎜でボリューム系のルアーを作るのか?
 それは、私が漁師ではなく、一匹へのアプローチ次第でその価値が変わることを幾例も見てきたから。また、千載一遇のチャンス(それは魚だけとは限らない)をルアーが原因で失いたくないし、失わせたくもないからです。 

Posted by nino