【Field report】高知県東部のリバーシーバス 秋〜冬パターン

写真/文 松井謙二

徳島道から高知道に入る頃には山間は黄色やオレンジ色に染まった紅葉が美しかった。
「今年も残すところ後2ヶ月か、1年はあっという間に過ぎていくなぁー」とか考えながら毎年大アユ釣りで訪れる嶺北吉野川上流に向う時に降りる大豊インターチェンジを過ぎると南国インターチェンジには30分もかからなかった。

国道に出て海岸線を東へ、室戸方面に走る事1時間で安芸市内に入る。「土佐レッドアイ」の長野氏、内川氏、大坪氏に会うのが楽しみだ。コロナ禍に入ってから3年振りの安芸である。

私はコロナ禍になる迄は毎年夏に、アユ釣りで有名な高知県東部の安田川にあるキャンプ場のコテージにアユ釣り仲間と宿泊して高知の漢達とバーベキューするのが恒例だった。皆んなそれぞれ酒や食べ物を持ち寄りバーベキューを楽しみながら、釣りの事、仕事の事や人生についても語り合い、当然話は尽きる事は無かった。

空のビール缶は大型のポリ袋に早いピッチで溜まっていき、その後は焼酎を酌み交わし、事が終わるのは何時も午前様であった。高知の漢達はめっぽう酒が強い!だから私の翌日のアユ釣りはいつも二日酔いだった。それでいて土佐のいごっそう達はとても優しくて釣りに熱い。私がくる時はいつも一席設けて歓迎会をしてくれるのだ。本当にありがたい。こんなに嬉しい事はない。

さて、前置きが長くなってしまいましたが、今回の取材は「土佐レッドアイ」のメンバー三人と高知県東部の河川で落ちアユパターンのスズキ釣りの取材をする予定だったが、大坪氏は家族の看病と仕事が忙しく、長野氏は急用が出来て初日の取材は内川氏だけになってしまった。長野氏とは最終日に会えるとして、アユ釣りの名手の大坪氏とは少しでも会いたかったので取材前に家に寄らせていただいた。

来年こそは安田川で一緒にアユ釣りが出来る事を願って、内川氏と待ち合わせしている「道の駅 大山」に向かった。国道に出て東へ向かう事15分、内川氏は新しい軽自動車で待っていてくれた。そして、道の駅の崖下にある大山港に係留している自慢の漁船を見せてくれた。

「来年こそはこの船で上杉氏のキハダのキャスティングの取材を是非やりましょう!」内川氏は最近この船で遊漁船を始めたらしい。そして、内川氏の軽自動車の後をついて走り本日の取材となる川に向かった。

川に到着したのは夕方4時を回っていた。まだ明るいのでかわの右岸側の道から川の状況を観察する。しばらく雨が降っていないので川の水量は少ない。そして、少し濁りが入っている。平日は上流で工事をしているらしく、鮎師がよく口にする友釣りが可能な笹濁り程度だ。

「この濁りが吉と出るか?凶と出るかですね!」

今日の満潮時は室戸岬で午後6時32分で前日が大潮からの中潮だ。夕方から日没にかけて川の水位が高くなるので潮廻りはバッチリだ。

11~12月この時期はアユが遡上する河川の多くはアユが産卵するために河口から近い汽水域まで下ってくる。一雨ごとに川の水量が増えたら川の中流から川を下ってくるが水量が少ないと下る事ができない。

また、台風が来て川の水量が一気に1〜3メートル増水したらアユが河口から海へと流されて、それを捕食するためにヒラスズキやマルスズキが回遊してきて河口付近のサーフでもよく釣れる。そして、汽水域でのアユを捕食するためにそれらは川の中まで入ってくる。

マルスズキは淡水圏でも餌を求めて川を登る。島根県の江ノ川では河口から30キロ上流でもマルスズキが釣れるのだ。

一方でヒラスズキに関しては「土佐レッドアイ」のメンバーの話によると、満潮時に近づくと海から川の汽水域まで入ってくるがマルスズキの様に淡水には登る事が無く潮が引いてくると海に戻るとの事だ。汽水域に入ってくるサカナはヒラセイゴクラスが多いが80センチオーバーも釣れるのだ。また、ヒラスズキは川の水温が低すぎると川に入ってこないらしい。

車を河原に停めて内川氏はタックルを用意する。ロッドは8.6フィートのシーバスロッド、リールは3500番、ラインはPE1.2号にリーダのフロロカーボン5号を1ヒロ取っている。二人共、ウェーダーを履いて浅瀬を横切り左岸の河原へと向かった。瀬を渡っていると14〜16センチぐらいの小型の数匹のアユが走った。

川の中の石は小さなアユのハミ跡がところどころ付いていて、大きな石はピカピカに磨いている。アユ釣りは10月中旬には禁漁になったが、この石を見るとまだ友釣りでも十分に釣れそうだ。だけど、もう11月に入るというのに産卵のために上流から落ちて来たアユの気配は無い。

「まだ水温が高くてアユが上流から落ちてくるほど水が出ていないからか?ベイトとなる落ちアユがいないのに今日は釣れるのか?」と考えながら左岸の河原に着いた。

「この瀬尻から狙っていきます。右岸側の流れの芯は水深があり石やテトラも入っているのでポイントを探りながら下流に歩いて行きましょう!」と内川氏はリップレスミノーの9センチをセットした。

川の中央に立ち込めばフルキャストしたら対岸に届いてしまう距離だが、川の中央に立ち込んだ内川氏はややダウンクロス気味に距離を押さえてキャストして、流れの芯に点在するポイントにルアーが上手く泳いで行く様にロッドでラインをコントロールしながらゆっくりとゆっくりとルアーを泳がす。リールのハンドルを止めても流れを受けてリップレスミノーは泳ぐので長い時間、ルアーをサカナに見せる事ができるのだ。それは3投目だった。

「ガバ、ガバガバ!」いきなりのヒットに私は驚いた。水量も少なく落ち鮎はいないのに、川の中のストラクチャーには小型のアユを待ち伏せているスズキがいるのだ。内川氏は左岸の浅場まで上手くサカナを誘導して50センチクラスのマルスズキをずり上げた。「やりましたね内川さん!まだ陽も落ちていないのに。あと2〜3本釣れたら今晩は安芸の居酒屋に早く行けますよ!」とにかく内川氏も1匹釣れたので嬉しそうだ。

そして内川氏はファーストヒットした浅瀬の落ち込みのポイントから5〜6メートル下って今度は大石が入っているポイントにリップレスミノーを撃ち込んだ。流れの中でラインがなじんだら手にルアーの重さだけが感じる様な超スローリトリーブで水面直下のルアーをさかなにしっかりと見せる。

「ガバ〜」と再び夕暮れの静けさを破って水面に大きな波紋が広がった。ゆっくりと川の中央から岸に向かって歩きながらサカナとの距離を詰める内川氏。ルアーのフックがスズキの顎をしっかりと捉えているのを確認すると水際までずり上げて下顎にボカグリップを掛けて持ち上げた。

こいつも50センチ近いマルスズキだ。

「内川さん、だんだんと生ビールが近づいてきましたよ!この感じならあと2本は確実に釣れそうですね!」

内川氏は川の中でのスズキ釣りはあまり大きなルアーは使わない。高知県東部の河川はあまり大きな川は無いので飛距離は要らない。もちろん、河口やサーフは別だが主に使うルアーはTKLM80 90 フィードシャロープラス128 155 TKF130など水面直下をゆっくりと泳がす事の出来るルアーを使用する。川の中のポイントはほとんどレンジはシャローだ。

そして完全に陽が落ちて、薄暗い中でヒットしたのは40センチほどのヒラセイゴだった。完全に陽が暮れると暗闇の中ではポイントが見えないのでキャストは難しい。投げ過ぎると対岸の木や草にルアーが絡む。それを怖がっていたら正確にルアーをポイントに打ち込む事が出来ない。明るいうちにポイントをチェックして立ち込む位置、ルアーをキャストするポイントを見てその距離感を掴んでおく事がヒットに繋がる。

1匹目の瀬落ちのポイントから30メートル位下っただろうか。今度は暗闇の中で「バシャバシャ」と大きな魚が水面で暴れて水面を叩く音が鳴り響いた。

「松井さん、こいつは太いな!」と内川氏

ジージーとドラグ音を立ててリールからラインが滑る様に出て行く。明らかに今までのスズキとは違う。もしかしたら80センチオーバーかもしれない。内川氏は浅場に立ち込んで魚を岸際に寄せようとするが再びラインが出て行く。そんなやり取りがしばらく続いたが最後には魚が対岸の葦の下のオーバーハングした流れの中に入ってしまった。そして水中にある大きな木の枝にリーダーごと絡んでしまった。

それでもラインを張ればロッドの先に魚が暴れる振幅が感じられる。魚がルアーから外れていない!と確信した内川氏はラインを巻き取りながら対岸の流れの中のスズキの元に向かった。腰より高い水位の中で木の枝に絡んだリーダを外している時に魚が暴れてルアーが外れてしまった。残念だ。興奮して内川氏は戻ってきた。

「太いヒラスズキやった。80センチぐらいはあった!」

ルアーをよく見るとフックが外れたのでは無く折れていたのだった。

しばらく河原で休憩して内川氏は新しいリップレスミノーに付け替えて二人で下流に向かった。そして内川氏は本日4匹目となる丸々としてよく超えたマルスズキを釣り上げるた。5本のヒットで4本のスズキをキャッチした内川氏と私は、磯のヒラスズキ釣りが大好きなアユ釣りの名手の有岡氏も誘って安芸の居酒屋に繰り出した。流石に取材も上手く行ってビールの旨いことと言ったらー

「内川さん!今日の釣りの反省会です。あのデカいヒラスズキを獲っていたら100点満点でしたが。でも良い取材が出来ました。内川さんの感想は?」

「潮廻りがとても良かったです。川の水量が少なくてもポイントの潮位が上がってくるので、スズキもそれにつられてどんどんと川に入ってきたんでしょう。今日の川の場合は大きな石やテトラも入っていて流れの変化があるところが多くてスズキがアユを捕るのに待ち伏せできるとこが多いのと丁度、上流で工事していたので濁りが入って明るいうちから2本のマルスズキを釣る事が出来たのか嬉しいです。80センチのヒラスズキは逃がしたけど、松井さんいい時に来ましたね!」と上機嫌の内川氏だった。

そして翌朝私は小田太蔵氏との高知県西部の磯のヒラスズキの取材で2日後の夜に再び安芸市のビジネスホテルに帰ってきた。そして翌日の夕方に前回とは別の川の河口で夕方4時に内川氏と長野氏と待ち合わせた。内川氏は朝に河口をチェックすると水量は雨が降っていないので少ないが潮が満ちてきたら川から海に入る水位はあるのでスズキは川に入っているとの事。ただしこの川は前回の川とは違い石が小さく流れの変化がある場所を探してルアーを通さないと釣れないと言う。例えば瀬尻の絞りこみなどでスズキは暗くなるとアユが流れてくるのを待っているのだ。

その日は夕焼けがとても美しかった。こんなロケーションの中で高知のアングラーは釣りが出来る事を羨ましく思った。あまりにも夕日の闇と明のコンストラストの美しさにロッドを河口の石の上に置いて長野氏と内川氏の写真を撮り続けた。河口とサーフではヒットこそ無かったが車に戻る途中に内川氏は言っていた瀬尻の絞り込みで良型のヒラスズキをヒットさせたが惜しくもフックアウトしてしまった。

両氏は11~12月の雨で水が出た時は河口周辺のサーフにヒラスズキ、マルスズキが回遊してくる時は波が高い日も多くルアーの飛距離が不可欠なのでフィードシャローの128 155などを使い、ミノーでの反応が渋い時はフィードポッパー120やリップルポッパー140などを使う。

台風などで水が出たら川からの強い流れや波によって河口の地形が絶えず変化するので地形の変化と流れをよく観察してベイトがどこに溜まるのかを考えてキャストする事が大切だと言う。波が大きい時は引き波に足を取られるので立ち込まない様に注意をはらう。また、内川氏はサーフではレバーブレーキ付きのリールを推奨する。足元まで寄せた魚を引き波に取られるのでドラグの調整だけでは特に大きな魚はばれてしまう事多い。魚を引き波に持って行かれても直ぐにラインを出せるのがレバーブレーキ付きのスピニングリールだ。

来春は稚鮎の遡上時の河口での取材を是非やってみたい。