【Field report】和歌山県紀ノ川 サツキマス攻略

写真/文 松井謙二

紀ノ川は奈良県と三重県境の日本最大雨地帯と知られる大台ヶ原を水源として紀伊半島の中部を貫流し、奈良県では吉野川と呼ばれ和歌山県境の橋本市からその名を紀ノ川に変える。
北に金剛山、南に高野山を控えて、その間を西へと流れ紀淡海峡に注ぐ全長136キロの一級河川である。
多くの支流、河川が合流する事で水量があり、その流れの中に多くの魚種が生息する河川でもある。
特に昨年は多くの稚鮎の遡上が見られて、秋に大型の鮎がよく釣れた。
私自身も9月に毎週紀ノ川に通い大アユ釣りを堪能したのだった。

そんな、紀ノ川に通っているうちに紀ノ川漁協の方々とも親しくなり、「ルアー釣りをするのなら5月には50センチを超えるサツキマスが遡上するので一度狙ってみたら!」と持ちかけられたのだった。

5月に入ってトラウト大好き人間のサクラマス、サツキマス釣りに精通している京都市在住の吹田元路氏を誘って初めて紀ノ川のサツキマスにチャレンジした。
実は昨年、この紀ノ川で吹田氏を誘って一緒にアユ釣りをしたので、彼は紀ノ川の流れの特長や石の大きさ、サツキマスが釣れそうなポイントをおおよそ掴んでいるのだった。

5月15日 日曜日、紀ノ川に行く道中に助手席に座っている彼がポーチからiPad miniを取り出した。そして、Google Earthで紀ノ川の航空写真を開き、下流は葛城町龍門口橋から上流は高野口町までの川沿いを拡大してポイントのチェックを始めた。

遡上してきたサツキマスを狙うポイントは例えば堰堤の下流域であったり、早瀬の流れが絞り込まれた淵やトロ場の頭だったり、そこに大石やテトラの様なストラクチャーがあればなおさらいいのだ。大型河川の中流部は水量があり、サツキマスが一旦止まりそうな場所を狙うのが基本だ。
Google Earthで川の写真を部分部分で拡大して見ればポイント選びも一目瞭然なのだ。
但し、そのポイントに入川するのに車を何処に停めるのか?が問題だ。
4WDの車なら紀ノ川はアユ釣りが解禁されれば、河原に降りる道のゲートが開かれるので入川可能だが、河原に降りれないポイントは地元の人の迷惑にならないところを探して車を停める事が条件だ。

サツキマス釣りの初日はアユ釣りで何時もオトリ鮎を購入する、紀の川漁協理事の谷澤氏のお店、喫茶「TOMO TOMO」で川の状況とポイントを教えていただく。

「今日は前々日からの雨で水が高くて濁りもあるので、ちょっと難しいかもなぁ!九度山の道の駅に車を停めて丹生川の出会いを狙ってみたら!丹生川は濁りが無く水が澄んでいるから、アユでもマスでも濁りが出たら濁りが無いとこに溜まるからな。」と谷澤氏

車で15分ほど上流に走り道の駅に車を停めて河原に降りる。
なるほど、支流の丹生川の水は増水しているものの全く濁りが無い。
本流はやはり50センチほどの増水で濁りが強い。
川に立ち込んで50センチの川底がなんとか見えるぐらいだ。

吹田氏は水の澄んだ丹生川の流れの中にキャストする最初のルアーを「バフェット シンキング65のシルバーブラックを選んだ。

吹田氏曰く「まずは魚にルアーの存在を知らせる事で、水が澄んでいる時や晴れてル時はシルバー、ナチュラル系のカラーを選び、濁りがあったり、朝、夕まずめはルアーの色を蛍光色、チャート、オレンジ、グリーンなどのアピール系の色を使う」
それらのルアーをなるべく狙いの魚が付いているだろうと思うポイントに丁寧にルアーを通す。
本流筋に出てからは濁りがあり水深もあるのでルアーを「ビットストリームSMD83 ゴールドブラック オレンジベリー」に変えてキャストしながら川の出会いから60メートルほど下ったが水温もかなり低く魚の気配は無かった。

再び車に乗って上流の九度山橋を渡って右岸がわの土手の道に出た。車を停めて上流にある堰堤の下流100メートルから立ち込んで、本流を下りながらルアーを流れの芯の向こうにキャストしていく。
対岸に魚が着きそうなテトラが並んでいるが、水位が高くて腰まで入ってキャストするもテトラの側まで届かないのだ。
昼からも参拝橋下流やゴルフ場裏、大門口大橋下流とポイントを移動してキャストを続けたがサツキマスどころかウグイやよくルアーに反応するニゴイもノーヒットに終わった。
私も吹田氏もサツキマスのポイントは熟知したので、再び、1週間後の日曜日に水が引いて条件が良さそうならもう一度紀の川に訪れる事にした。

翌週 5月22日 日曜日 吹田氏と再び紀ノ川で待ち合わせた。

水位は平水よりも10センチ高で濁りは無い。一日中晴れて最高気温は28度になると言う事で状況は良さそうだ。
朝一番に大門口大橋の下流のポイントに入る。
瀬尻からトロ場に繋がる流れに3投目のキャスト!すると瀬の中心で「ドスン!」とヒットした。一瞬流れの中でシルバー色の輝きが見えたので、丁寧に川岸に寄せて取り込んだ魚はシルバーに輝く30センチほどのウグイだった。
吹田氏も70センチ近いニゴイがバイトしてきたの事。
今日は魚の活性も高そうだ。
2人で上流に移動する。

先週は水が高く竿を出せなかった参拝大橋の下流に立ち込んで1時間ほどキャストしたがノーヒット。
場所を変えようと河原の道を下流へと走る。
「なんか昨年は工事していてアユ釣りの時に入れなかったけど、一つ気になるポイントがあるねんなぁ!」と吹田氏
そのポイントは水量のある瀬尻から水深が少しづつ深くなるトロ場から長い淵に続く。

そして、対岸には魚が着きそうなテトラが50メートルほど続いているのだった。

吹田氏は「ツインクル シンキング 鮎カラー」を選んで上流の瀬尻からトロ場へと続くポイントに丁寧なアプローチを見せる。
先週の水が高い時もそうだったが、彼は増水で流れの芯には魚はいないと判断して、流れの芯からポイントを外して、なるべく緩やかな流れの脇や大石やテトラの裏、淀みなどにルアーを正確にキャストしてリトリーブした。
とにかく、魚にルアーの存在を知らしめるために、ここぞと言うポイントの上にルアーをとレイスする時はリールのハンドルは回さずにルアーのリップが流れに当たり、ラインが流れに乗ってルアーを引っ張るだけで十分にルアーは泳ぐ。
それを繰り返してサツキマスがいそうなポイントの上でルアーをじっくりと魚に見せてアピールしてたのだった。
トラウトでもヒラスズキでも魚がルアーの存在を気づかなければヒットは無いのだ。

「渓流でも魚がルアーの存在を知ってもそれをチェイスしてくる確率は2〜3割ぐらいで、10匹の魚が10匹とも反応する事はまず無いと!」吹田氏は言い切る。
「でも、何かのキッカケで魚に急にスイッチが入る時がある。それは自然条件ならば雨が降ってきた時とか水位が少し上がった時で、魚の目の前でルアーの通る角度や方向性が変わった時も急にヒットすることがある」と言う

立ち込んで同じ位置から3投、違うアピールの形でポイントにルアーを通してまた、1メートル下がる。
ポイントが深い場合にはディープタイプを多用する。
そして、そのポイントに入っての3投目だった。

「こいつはサツキっぽいでー!」と彼の声が響いた。

ゆっくりと落ち着いて、ロッドを立てる事無く、焦らずゆっくりと魚を浅場に導く。
浅瀬の流れの川岸の際にはダテの葉が群生しているのでネットは不要だった。
吹田氏はシルバーの輝きをダテの葉の林の中に滑りこました。
「やったー紀ノ川で初めてのサッキマスだ!」 他人が釣り上げた魚でも、サクラマス、サツキマスとなると自分の事以上に嬉しい!
一年に一度見れるか見れないかの魚だからー。

初夏の太陽にあたり輝き続けるシルバーボディは宝石の様に美しい。32〜33センチといった大きさで、時間を忘れてカメラのシャッターを切った。

その後、もう一度2人で立ち込み釣りを始めた。
吹田氏が私の下流に入り「バフェット シンキング65」をキャスト。
彼からのアドバイスで私は「ビットストリーム SMD83」をキャストする。
2人で並んで同じポイントを攻めていく時は同じレンジを攻めない。
カラーも違う方がヒット率は上がるらしい。
すると、すぐに吹田氏に先程より大きなサツキマスがヒットしたがバレてしまった。
私のロッドもヒット直後にティップが跳ね上がってしまった。
昼休みを長く取り再びキャストを続けたが魚の反応は無くなった。

この日、2人はかなりの手応えを掴んだので、翌週の5月28日の土曜日も紀ノ川に繰り出した。
2人共に撃沈!サツキマス釣りはそんなに甘くは無い。