ベイトリールについて

 熊本のMさんからのリクエストです。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
…略…僕はベイトリールが好きで不利な部分はわかっていますが、使用しております。…略…ラボにてベイトリールの見解を書いていただけると嬉しく思います。…略…
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇Mさん撮影
 
 Mさん、お待たせしました。思い出たっぷりの写真数点もありがとうございました。
 始めにお断りしておかなければならないのですが、私はこの十年、ショアーからだとほとんどスピニングを使用しています。だから、最近のベイトリール事情には詳しくないのです。それでよろしければ、ということでお応えさせて頂きます。
 
 私が海でベイトリール(ABU等)を度々使用していたのはK-TEN誕生以前のことです。まだ外洋で使える専用のロッドも、満足できるドラグ性能をもつスピニングも無いに等しく、リーダーすら知りませんでした。
 愛機ロディの交換部品が尽き、やがてスピニングのペンや旧ダイワSSシリーズ等を手にしてからは徐々に使用頻度が減っていきました。
 大きな理由は外洋での風速十メートル以上の逆風を、当時の私の技術では克服できなかったことと、毎回の分解整備が面倒なためでした。それ以外は特に問題はなく、優れたスピニングがでるまで使っていました。
 そもそも、ベイトリール(以後ベイト)にしたのは、外洋の、あるヒラスズキポイントを攻略するためでした。其処では魚がヒットしたとしても手前にハエ根があるため、たまに根を覆う波に乗せて強引に取り込む必要がありました。5、4メートルの振り出し石鯛竿を使った事もあるぐらいのところでした。これは5キロのヒラを抜き上げたとき、釣趣に疑問を抱き一度で止めましたが。
 
 私にとってベイトのメリットは指ひとつでイザというときに瞬間フルロック、あるいは解放ができることだったのです。これは指で直にというところが重要で、鈍いロッドを介さないので魚の力をダイレクトに感じることが出来ます。スプールを手で押さえるとか、レバーブレーキでは味わえない感覚です。
 ときには強風下だと糸鳴りが凄いことも相まって、切れる寸前のラインの悲鳴まで指から聞こえてくるかのようでした

 また古いABUはドラグが作動すると、良質なクリック音が小気味良く響くので独特の使用感がありました。後年、予備として買った6500Cからこの音が消えていたので如何にガッカリしたことか。 あのような精度の裏付けがある音なら現在のスピニングにも欲しい機能だと思っています。中途半端なチリチリ音とか、節度のないズリーッとかより、もっと快感を増幅できて、夜間の釣技を補助できる程カッチリした音を発生できれば需要があるはずです。
 
 その他、両軸の特性として、コンパクトであること、ドラグ作動時に糸ヨレが出来にくいこと(絶対の優位性)、ライン径が太くなっても飛距離に影響が出づらいこと、ロッド側ではなくリール側で小技ができること等が挙げられます。それはそのままスピニングに足りないことでもあるわけです。
 
 このように、たった二つのデメリットを除けば、キャスティング用ベイトリールは充分に実用的だと思います。聞いたところでは、最近のリールは海水に強いものもあるし、古めのABUにも改造パーツがあるそうです。となると残る大きな課題は唯ひとつ。誰もが悩むバックラッシュです。 ……
 その対策は投げ方、ロッドとの相性、ライン特性、海況等により様々です。既に淡水のベイト使用には慣れているBバス経験者が多く、大抵の対策は周知されていると思いますので、ここでは、ルアー側、特に重心移動タイプのルアーの見地からバックラッシュ防止に役立つ注意点を挙げさせて貰います。
 
 ベイトリールは、ラインの放出具合をサミングによって微妙に調節できることにメリットがあります。しかしこの技術は固定重心ルアーの飛行姿勢を正すためには有効ですが、重心移動ルアーでは一層の注意を要することなのです。
 重心移動ルアーは、飛行中、慣性で錘が尾部に仮固定されている状態ですから、このとき、下手なサミング(段付き)をしたり、ラインに咬み込みがあったりすると、小さなショックが伝わって錘が頭部に戻ってしまい失速します。(スピニングでも同様の現象がある)サミングするときは放出中の全スピード域でソフトにスムースな操作を心掛けるようにして下さい。そして飛距離の調節は出来るだけ一回で済ませることです。(長い一回と短い一回があり)神経をサミングショックを消すことに集中するのです。
 仲間内のベイトに慣れたBバスのベテランでも、海特有のライナーキャストが難なく出来るまでは時間が掛かっています。あまり言いたくないのですが(笑)、K-TEN系のように着水後の戻りレスポンスまで配慮したルアーより、戻りの悪いルアーのほうが、この点では簡単だということになります。
 それでもK-TENを使って頂けるのなら、ある程度の慣れと練習が必要かと思われます。
 静かな内湾やボート、小河川なら操作を柔らかく、スムースに。繊細且つ大胆に。こうした気の使い方で充分かもしれませんが、外洋のショアーではここに、ベイト投法上では御法度の、力強くというのが加わり、少々厄介です。 
 しかし、簡単便利な釣りだけでは物足りないというアングラーも多いはずです。スピニングの性能が上限近くまで達し、改善の余地は少なくなりましたが、ソルトのキャスティングベイトリール関連の製品はまだ品数も少なく進歩の可能性があります。今後はショアーソルトでも道具の充実が伴えば使用者が増えるものと考えています。 
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
 一番上の写真はMさんが、ベイトリールで釣った良型のスズキ。TKLM120。
 以下の写真は私の、ベイトリール用の新旧ロッド数点。7f~11f。自作や改造品、改悪品、オーダー品。試行錯誤の名残り。残骸。
 
 11fカスタム。変則的に石鯛投法で投げる。各ガイド中間点に着けたラインの竿触れ防止リング。テフロンパウダーをエポキシで固めた。
 
 最後の写真は、先月見た、最も穏やかだった午後の海。海と空の境界が融けていました。慰め。一服。 

Posted by nino