サラシ…自選エッセイ集【28】―S

週刊つりニュース

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1996年十月に(株)週刊釣りニュースさんの発行した媒体に掲載されたものです。

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◇サラシ
サラシといえば、磯で見掛けるとおり、波が岩を越えたり、ぶつかってできる泡の集まりのことだ。
当たり前の現象なので、これを興味津々で眺めるのは、磯のルアーマンとメジナ釣り師ぐらいだろうが、ベテランでもサラシの深さや厚さを知っている人は少ない。
海は荒れ気味で、一見、辺り一面白くサラシているから、海面から底近くまで、あるいは少なくとも2メートルぐらいは泡が入っているように見える。
ところが、思った程、泡は深くには達していないものだ。
実際に潜って見ないと、判ることではないので、これを知っているのは、海女さんとサーファーぐらいだろう。
サーファーは沖へパドリング中、大波を越えきれないと判断したとき、ボードをノーズダイブさせて、波のパワーをやり過ごす。下は静かとということを知っているわけだ。
泡というか、空気というものは、凄い浮力なので、そうそうは潜れないのだ。
だからヒラスズキは、サラシの中で小魚を待っているわけではない。その下にいて、必要なときに一瞬だけサラシに突っ込んでくる。

昔、白間津というところで、未熟なヒラスズキが、岩上に取り残されたのを見たことがあるが、彼等にとっても、波やサラシそのものは危険なわけだ。
サラシは、下から見上げると、白く輝いていて、しかもそれほど眩しくはない。小魚のシルエットは、想像以上に良く見えるのだ。

ただし、ここにミノーを通して釣ろうとすると、サラシの濃度に応じてミノーの深度が浅すぎては発見されない恐れがあり、深すぎては、本体丸出しで見破られやすくなる。
サラシの中でルアーをリトリーブすると、海水の密度が少ない分、ルアーに受ける抵抗が軽くなり、そこで各ルアー特有の性質が現れてくる。
静水で、このルアーは何メートル潜るとかいった単純な深度ではないので、ルアーの設計では、随分と苦心した憶えがある。静水、流水、サラシ、塩分濃度、そしてラインの太さや入水角度が違えば、同一のルアーでも潜行深度は変わるものなのだが、その差の大小は、ルアー形状や浮力設定で調節が効く。
K-TEN系ミノーは、サラシの濃さと厚さで、深度が毎回変化して、サラシに紛れるでもなく、下へ出きってしまうこともない層を泳ぐことができる。
また、サラシが覆うどのタイミングで投げて、リトリーブするのかは、奥深く、これも一律ではないところが楽しい。普段から、意識してタイミングを変えてみるのも勉強になるはずだ。後は若干の運と、腕次第である。

人間から近づかなくても、昼間、向こうの方から来てくれる魚は、あまりいないが、ヒラスズキは、サラシという条件付きながら、その珍しいタイプの内のひとつである。

追記。〔一匹、例外があった。サラシも無いのに向こうから近づいてきた魚がいた。
ボートでシイラを追っているとき、ボートぐらいの巨大なブルーマーリンが斜め後方からやってきて、ギャフの届くところを、一分間ほど、イルカのように併走したことがある。
大きすぎて何も出来なかったが、その目はボートではなく我々を見ていたように感じた。いったいあれは何だったのだろう。〕  終わり。

Posted by nino