あなたの良き思い出のために

 K-TENには、90年から幾つかの機種の内壁に、題の文字が入れてあります。ご存じの方も多くなりました。
 始めは透明カラーを出す予定はなかったので、塗装が禿げるまで使い込んだ人のみに見えるようにしたつもりでした。 特に気に入ったものに入れたというわけではなく、できれば、設計したもの全部に入れたかった。でも、実際は開発状況で余裕があったときしかできませんでした。(ユメが少しコワレた方がいるかもしれない。スミマセン) 
 文字を決定する前には、何日も考えたものです。一度入れたら変更できないし、変な言葉を入れたら後悔するでしょう。
 だから、特別の言葉を見つけるため、その時まで自分が書いた、中学生ぐらいからの文章を読み返してみたのです。
 何十年も経ってから読むと、恥ずかしくなる言葉があるものです。それは、大人を気取って書いたもの、無理に難しい言葉を捻り出したもの、気の利いた決まり文句などでした。
 反対に、素直な本当の気持ちや、拙くても真実の言葉には長い年月に耐える力が在ることを知りました。大人になってから読んでも、当時の思いがそのまま伝わってきました。
 そこで、一生消えない文字を入れるからには、その時点では、少々照れ臭い言葉でしたが、今の本当の気持ち、製作意欲の源泉のひとつをルアーに込めようとしたわけです。
 それが、「あなたの良き思い出のために」でした。正しい選択だったと、今、思います。

Posted by nino