反マニュアル…自選エッセイ集より【12】
先月のNZ遠征では、船に十日も乗りっぱなしであったが、荒天に阻まれて三日しか満足な釣りができなかった。
本命ポイントは外したものの、そこはさすがにNZ、初めて行ったミドルセックスバンク(スリーキングスの先)というところでは、二十キロを超えるヒラマサのスクールに会うことが出来た。
この遠征は調査目的のため、スタッフは多いものの、メインの釣師は私だけだ。
恵まれているようだが、代わりがいないため、少々のアクシデントは無視して続行する覚悟がいる。今年は、移動中、小さな町で奥歯を一本抜いた。
そのかわり、有り余る時間と豊かな海のおかげで、釣技や道具を色々と試すことができる。リーダーの太さ長さ、ドラグのこと、フックのこと、ルアーのことなど、より知りたいことは幾つもある。
◇マニュアル
最近、海のルアー関係のマニュアル本や記事が多数出回ってきた。この釣りも成熟期に入ったことを伺わせる現象である。しかし成熟期と聞くと、同時にその先の衰退期を連想してしまう。
マニュアルを構築した諸先輩は、試行錯誤して、この魚にはこの釣り方、このタックルと結論してきた。その過程には本来の楽しさがあったはずだ。一方その結論だけ見せられた人は、ウマクなるのも目的を達成することも早くてすむが、気をつけないと良いことばかりではない。マニュアルとして簡単に得られるものは、また簡単に失うこともできるということだ。
◇反マニュアル
そこで、大切なものを失わないために、参考になるか判らないが、私の釣りの一例を道具選びを含めてあげてみる。
先のNZでは、良い機会なので、同サイズの魚に日頃確信の持てない幾つかの疑問をぶつけてみた。
まず、もっと双方に無理なくランディングできないものかと試してみた。青物も大きくなると少々ドラグを締めたぐらいでは、走りが止められない。根の心配があれば、フルロックに近いドラグ設定をしなければならず、百ポンドリーダーすら切れてしまう。
そこで、根の薄い所で、止まったときにリフティングできる程度の弱めにしてみた。すると、走る距離は、それほど変わりがなく身体の負担も少なく、快適なやり取りができた。
やはり、この日、この場所で、二十キロ台のヒラマサにはベストのドラグ設定というものはあった。強引に早く取り込み過ぎると血を吹いてしまうし、こちらも体が保たない。また、遅すぎる取り込みも弱ってしまい、リリースが難しかった。
次に、取り込む方法として、シンプルに竿尻を下腹に当ててやり取りすることと、単純なギンバルベルトを付けた場合と、太股上にギンバルが位置するスタイルの三方法を試みた。
これだけでも、同じ魚が二倍も強くなったり、弱くなったりする。私だと、一匹ならシンプルな方法を好むが、二匹目はベルトが欲しくなる。
さらに、通常フックのみと、アシストフックのみと、両方と三種を交互にして釣ってみたり、リーダーを変えたりと、ここぞとばかりに試してみた。
そのうち、バランスの良い道具立てと、釣技が解りかけてくる。しかし、これとて時間が経つにつれて、潮流が早くなり、抵抗となる太いリーダーを、細く短くしないと、ジグの着底すらままならなくなった。また、鮫がくれば、すべてを優先させて早い取り込みのできるタックルを選ぶことになる。
スズキ釣りも同様だ。
サーフのスズキなら、ロッドが9~11フィート。使いたいルアーの重量でも、風向や荒れ具合でも変化する。それに、普段ヘビーな釣りが多いせいか、短いロッドだと、楊枝を振り回すようで、どうもしっくりこないという理由だけで、ロングロッドに持ち替えるときもある。
ラインはコチ混じりの日なら、あえて直結の細目の10~12ポンド。リーダーを付けるなら、メインラインが 8~16ポンドとして、その倍ぐらいのものを、エラ切れ防止の30㎝の短いリーダーから、魚の体長分の120 ㎝まで。
投入回数が多いときは、トラブル回避のため、ラインシステムをガイドに入れないように、タラシを長くして投げている。
これらも、ライン負荷に応じて、あるいは頻繁にラインを巻き変えているときと、何日も続けて使うときでは異なってくる。
磯のスズキなら、場所と状況に応じて、もっと様々だ。リーダーは取り込み場所や根や風の状態、波の具合で、1M~4Mと定まっていない。何度も痛い目に遭い、幸運も味わっているので、一様ではすまなくなったのだ。
私でも、マニュアルを書けと言われれば(出来るだけ避けてきたが)、オススメの釣り方からタックルまで示すことはできる。ただし、それは平均した一式を書くにすぎないのだ。実際は見てのとおり臨機応変といえば聞こえがいいが、アレヤコレヤといまだに試しているばかり。これが絶対だなどといえるようなものは、ほとんどない。
相対的な事柄の多い世界では、いちいち自ら考え、工夫しなければならず、メンドウだとは思う。しかし、それは自由ということの本質でもあるから、居心地は悪くない。
さて、明日はどんなルアーを投げようか…。
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2000年9月に岳洋社さんの「SW」に掲載されたものです。ニュージーランド北島のほうは何回かに分けて、ほぼ全域回ってみました。魚の多さには感心したものの、魚種は少ないようでした。日本の魚の魚種の多様さといったら、世界でも珍しいのでは。
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