ルアーとギャング…自選エッセイ集より【13】

SW,岳洋社

 今年で十四回目のシーバスパーティを終えて帰って来たところだ。前夜は相変わらず、ほとんど寝ずに酒を飲んでいた。帰宅途中、睡魔に襲われ、堪らず車中で休んだら、顔にハンドルの跡が付いて困った。私の車はリクライニング出来ないのだ。
それにしてもプレ大会を入れると十五年目になり、当然、初期からの参加者も歳を取った。三十代の私は、まだ毛髪も健在だったし、徹夜が続いてもハンドルの上で寝るようなことは無かった。
◇誰もが通る道
新たに出会う人は、大抵若いルアーマンとなった。彼らとは、世間一般の事についてはズレを感じるが、昨今のルアー事情について忌憚無く話し合うと、共感できるところも多い。共通の相手であるスズキが、そう易々変わることはないからだろう。
それに同一人物を、一年おきに十五年以上見続けていると感じるのだが、ルアーに関しては、誰もが通る道というのがあるのかもしれない。けっして一本道ではなく、枝分かれもするが、進む方角は同じという道だ。
何かしらのチャンスにルアーに興味を持ち、漸く、あるいは呆気なく、釣れた一匹が始まりとなる。釣れた時の感触が忘れられず、なんとかもっと釣りたいという一心で、ルアーは?ロッドは?ポイントは?と情報に飢える。ここから数年間に居る者が、たぶん一番ルアー誌を読み、ルアー用品を買う。
やがて仲間も増え、コンスタントに釣れるようになると、誌面に望む情報が少なくなってくる。用具選びにも宣伝に惑わされず、自分の好みが優先されてくる。この頃になると、仲間内でのリリース談議にも熱が入る。行き過ぎた考え方に反発しつつも、仲間や情報に揉まれてリリースする機会が多くなってゆく。
諸事情が許されれば、そこそこのスズキを釣ると次はシイラだ、マグロだ、GTだと興味を広げて忙しくなる。
ここまでに自分のスタイルやテーマが見つかっていると幸運なのだが、いずれにせよ遠からず落ち着く時が来て、良き先輩になる。多くのルアーマンが、そんな道を辿っているのだろう。
ルアー誌は、しばらくは読者と共に成長する。しかし行き過ぎると中心となる購買層を外してしまい、部数が落ちるから、内容が一巡すると、何年かごとに初心者向けに戻ることがある。ルアーそのものも同じようなところがある。
しかし、これらを嘆くにはあたらない。ルアーの世界を経済的に、かなりの部分を支えているのは、ベテランよりも、そのジャンルの釣りを始めてから数年の人達だからだ。ベテランは主に情報や精神面で貢献しているということだ。
◇ギャング釣り
知り合いに、かつて引っかけ釣りをしていた人がいた。ルアーに興味を持ち、パーティに参加するうちに、自然にリリースまでするようになっていた。魚と人の痛みを両方知っているから、実に良い先輩になった。リリースをルール化した大会なら来なかった人物だ。だから、間口の広いパーティを維持しているとも言える。
ルアー界でのリリースの議論は活発だが、私には元々兄弟間の言い争いのように聞こえることがある。放っておいても互いの背中でも見ていれば、行き着く先は同じで皆、自然に不必要な数の魚は放すようになる。
本当に交流や対話が必要なのは、進む方角の異なる、例えばギャング釣りに代表されるような釣り方を良しとする集団の方だと思う。九十九里浜にはこれの遠征組がよく来ていて、その仕掛けは強烈だ。六号PEラインで手製のギャンク針。これで浜をウエーディングして隙間無くジャークしている。一団が通過すると、ルアーで細々と釣っていたポイントは壊滅状態になる。中には熊手のような天秤に幾つもの錨針、冗談かと思ったが真ん中にはルアーまで付けている人もいた。正に根こそぎ。彼らは、こうした釣り方にも楽しみを見い出しているから、そう簡単には聞く耳を持たないだろう。また、釣る方法以外はマナーの良いグループもいる。定期的なゴミ拾いやリリースまでしているのだ。彼らは最も産業廃棄物を出さない釣りだと言っていた。一理あるような気もするが、私は、他のジャンルの釣りに対しての影響が大き過ぎるという点で嫌いなのだ。
説得が無理なら、自発的に考えてもらうことが近道かと、パーティに招待してみようかとさえ思った。ルアーマンにも志向性はギャンク釣りに近い人がいるから、案外、進む方向の差は小さいのかもしれない。突然招待したら、仲間が嫌がるだろうなと思案中である。
◇おすすめ
お気づきだろうが、私は強制されるのも、するのも苦手とする。ただ、ここまで辿ってきた道は、出会いに恵まれたこともあり、良かったと思う。そこで読者方々の釣りが、より豊かなものになる助けとなればと、お勧めを幾つか書いておく。
▽山登り
海とは対極にあるような例えもあるが、長く平行して馴染んだ者には、互いの楽しみを倍加するように思える。釣りは、どうしても人より大きいとか、数が多いとか結果重視の側面が強いが、山は、たとえ目的が達せられなくても、行動日全体が良き思い出になる。
未経験なら、安全に梅雨明け直後の天候が安定しているとき、ちょっと高めの、空気の違いが歴然と感じられる所へ登ってみるといい。
▽餌釣り
若い世代だと、いきなりバスからルアーを始めて、餌釣りをほとんどしていない人がいる。やはり経験として餌釣りの難しさと、簡単さを両方味わっておいたほうがいい。ミミズは完璧な生分解ワームだし、イソメはワームより丈夫だ。たまたま始まりがルアーからだったというだけで、本来、餌釣りのほうが向いている人が相当数いるように思う。
▽ルアー作り
不器用でも、コピーでも良いから自分でルアーを作って、一匹釣ってみること。どんな大きさの魚でも、初めてルアーで釣った時の感激が蘇る。
▽サーフィン
上達と共に昂揚感が深まってゆく。それと、波に揉まれて木の葉になった自分に慣れておくと、いざというとき慌てないですむ。
これらは、私の心の内にあるギャング釣り的志向を、沈静化することに役立ったことである。
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2004年1月に岳洋社さんの「SW」に掲載されたものです。先日、サーフショップに入ったら、すごく懐かしい匂いがしました。現役は少ないですが、ルアーマンにも元サーファーは、けっこういます。

Posted by nino