作らなかったものについて
K2Fのモニターに応募してくれたKYさんから質問いただきました。
直截にはK2Fに関係のない解答になるかもしれませんが、長年に渡ってのタックルハウスへの応援に感謝いたします。
■質問要約■二宮さんにとって、バイブレーションはどのようなポジションですか?また、ウッド版以来作っていないようですが、気になっていました。理由は?
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始めに、たぶん、この解答、長文になることが予想されます。(カクゴシテネ)誤解のないよう詳しく説明します。
◇作らなかったものについて
我々が活動したこと、やってきたこと、作ってきたことは判り易く、残りますが、もう一方の隠れて見えない、あえてやらなかったこと、作らなかったものにも等分の思いが込められているものです。(ヨクゾ、キヅイテクダサイマシタ)
具体的に私の場合、小さくていち早く沈むもの、シンキング専用型、ジグミノー、TKLM80(たくさん売れそうですが)等を作っていません。「追記 これを書いてから8年後に作りました。せめてと思い、TKLM80で得られる私個人の利益(歩合のようなもの)は全て魚族保護や環境保全のために真面目に活動されている団体に永続的に寄付しています。」
また、多彩な海ルアーを展開しているタックルハウスはルアーメーカーでありながらこれまでワーム系を作っていません。そのノウハウや力が有りながらです。
そして、かつて大手の漁具メーカーでも大量捕獲用の網だけは、先代の言い付けで作らないところがあると聞いたことがあります。
これらを醒めた感覚で聞けば、そこでやらなくても必要なら他でやるのだから、自己満足に過ぎない、となります。また、状況によってはいつか手を出さなくてはならないときも来るかもしれません。
でも、理由があって出来るだけ堪えることが無意味だとは思えません。…
◇登山より
元々、私がルアーFを始めた(戻った)とき、一種の登山の昂揚感に匹敵するものを求めていました。
登山の素晴らしいところのひとつ、それは登る方法を自ら選択できることです。同じ頂きに立つにも尾根ルート、垂直の岩ルート、花畑ルート、降雪ルート等とあり、何を選ぶかはその技量と希望に応じて自由です。
さらに内容まで吟味すると、他人には易々とは伺えない難易度の階層があります。ハーケン無しなのか、無酸素なのか、独りかパーティか、初見ルートか下見有りなのか、無限の選択があります。
通底してある暗黙のルールは、出来るだけ即時的な結果を求めず、補助に頼らず登ることなのです。登頂という目的を果たすだけならヘリコプターでいい…。
山を諦めざるを得なくなったとき、通常の釣りに満足出来なかった私は、ルアーFという、どう考えても生餌と比べてハンデのある釣りの方法が気に入りました。山の考え方と似ていたからです。
それでも、ごく初期の私は、釣りたさ一心に何でも試していました。ワーム、ジグミノー、生餌そっくりのルアー、漁具までもです。
そのうちに実力が付いてくるとそれらに頼らずとも結果が得られるようになってきました。またそのほうが燃えることも実感しました。自作したルアーを世に問える頃になると、若く今より頑固だったのと外洋志向が強まり、いつのまにかフローティングルアーしか作らないようになっていました。また、海水に浮くという条件内で、元より不利な軽いルアーを遠くに飛ばすという困難な課題に挑戦することが楽しかったのです。たまに沈むルアーが必要ならラ◇ラがあるので買えばいいや、という感じでした。
フローティングルアーだけだと取りこぼしがあるのは当然です。しかし、それだけでもある程度釣れてしまうのもスズキでした。丁度良い釣れ具合だったのです。
魚を絶やさないための禁漁区というのがあるように、禁漁レンジがあると思えば気が楽だと解釈していました。いくら釣ろうとしても限界は近くにあり、魚は減らないだろうと。 ある意味で禁漁範囲を狭めることの出来た重心移動システムの威力で釣りまくったことに、若干の後ろめたさを感じていたこともあります。後人のために、先人が自然に痕跡を残すことは避けようという山の教えが身に染み付いていました。
◇その後
そして、この辺りの頑なな考え方は、K-TENを発表してから十年余りも続いていました。ユーザーさんからの要望でシンキングと表示してあるものも作りましたが、当時はフックを取れば浮くものしか作っていませんでした。
KYさん、あの最後のK-TENバイブレーションもフックを取れば海水に浮きます。
また、ルアーロストした後、自分の設計したものが海底に横たわったままになることが、どうにも納得出来なかったのです。
あれからまた年月が経ちました。私も大人になって丸くなり、また、世界中方々へ行き、様々な釣り人に会って、頑なな思いは少しだけ変化してきました。
各地域でFルアーだけでは余りにもチャンスが少なくなるようなところを見聞し、ユーザー、友人からシンキング系統も是非にという要望があれば、制約の中で作るようになりました。でも、相変わらず決心がいるのです。
自惚れと言われようと、知識を得た今の私が、小さめの沈んで良く釣れるルアーを開発すれば、根こそぎルアーが出来てしまいそうです。今の世の中、私が参加しなくても放っておけばそういうルアーが溢れる方向に行っています。これ以上作る気にはなれないのです。
ここで、矛盾に気付くかもしれません。私はタックルハウスというルアーメーカーに所属しています。私が作りたがらないジャンルのルアーもラインナップして、若手が作ったRベイトというヒット作もある。それらからも収入を得ているのでは?ワガママでは?(これはかつて友人に言われたこと)
我が儘は自認していますが、私の収入はほぼ設計したもの一個に対しての歩合なので、少し事情が異なります。
収入を上げたいだけなら、とっくに売れ筋サイズ、ジャンルのルアーを手掛けています。また、それ故に作らないでもすむというある程度の自由さもあるのだと思っています。何よりタックルハウスの懐が深いということと、会社として要求されるラインナップを実力のある若手設計者に任せられることにも助けられています。
◇本当のダメージ
誤解して欲しくないのですが、私もたまにRベイトやバイブを使いますし、ワームを使う友人もいます。ただ、そういったときは一、二匹釣ったらその方法はお終いにしています。今の年齢に達してのことなので、こうした自分の釣りを他人に強要する気は更々ないのです。
こうした気持ちになったのは、魚にとって、本当のダメージは何処にあるのか、考えてきたからです。
例えば、初心者や仕事が忙しくて満足に釣行できない方がルアーを投げる場合、やっと釣れた魚をリリースしなくても、絶対釣れる殺魚ルアーを使ってもフィールドのダメージは少ないでしょう。またツッパリルアーばかりだとキツイです。
しかし、たくさん釣る方法を知り、それを実行出来る方(私も含む)がいれば、それはこれから後に続く若い釣り人のチャンスを潰さないように自制心が必要と思います。ルアー選択もそのひとつです。リリースするからといって限度を超えて釣るのは楽観的に過ぎます。
宣伝で釣りまくる人は例外として、普通、年期の入ったルアーマンになると、余裕があり、良い意味で飽きてきて魚を捕る数は減ってきます。同じ大きさの魚なら初心者が釣ってくれたほうが喜び具合が大きく価値が上がることを知っているものです。
◇作り手として
私は、釣り人として、また作り手として何が出来るのか考え足掻きました。稚魚放流に関わり、リリース方法の確立を模索したりもしました。でも余り堅苦しくなるのは勘弁です。一方でルアーFはどの釣りよりもおおらかであって欲しいとも願ってきました。
設計した幾つかのシリーズは、私なりの考えで、想定した範囲内ですが、全力で出来るだけ釣れるルアーを作ろうとした結果です。
足りない部分は承知しています。でも、一生飽きずに釣りを楽しめるぐらいの力はある。それは私がこれから証明してみせます。情熱を持って研究すればするほど魚を減らすだけなら、それは本末転倒というものでしょう?
もしかすると、私は一生掛けて中途半端な理想を完結しようとしているのかもしれない。それでも、進む方向だけは間違えたくなかったのです。たとえ、作り手としての私がこの先、千人万人続くとしても、魚は次の世代に必ず残される方法を実行すること。キザだけど、その先に永遠が見えるような気がするのです。
KYさん、バイブレーションに限らず、作らなかったものについて、長々と述べてしまいました。(引かないでネ(^o^))バイブを多用すると言っている方に、失礼にならないよう言葉を濁すわけにはいきませんでした。
バイブ系の力をそれだけ認めているからこその話としてご理解下さい。滅多にない休日に、Fルアーで歯が立たないとき、魚を見たいと思うのは当然です。私もそういう立場にあれば多用するルアーかもしれません。
いつかKYさんの産まれたばかりのお子さんが大きくなって、親子で綺麗なスズキが釣れますように…。
ディスカッション
コメント一覧
shortyさん、お答えします。過去の雑誌をざっと振り返ってみました。たしかに重心移動ルアー=プラグが目立って取り上げられていました。しかしバイブやジグ系は当時もボートや少しでも深い所では多用されていました。当時の紙の釣りメディアに書く人はネット時代に比べて少なく、誰でも参加してたわけではないので幾分偏った情報だったのかもしれません。急速に普及していったのはもっと簡単に安く釣りたいという自然な欲求からだと思います。
私自身はその先にあるものが恐ろしくて、上の記事にあるように次世代に魚をそのまま残せる方法の一つとして自制心を持ってルアーを選んで作ってきましたが、ネット時代に他人にそれを強要することはできません。一生を賭けてルアーを通じてヒントを残すつもりです。
何をしても釣れたほうがエライと考える方はいます。一方で既にEU圏内から始まった有害物質、鉛等の規制からして普及させる以前に鉛を含むルアーや釣り具を拒絶する方もいます。日本はこの分野は遅れがちですが、誰でも参加となってやり過ぎたとき、残念ながらかつてあった自由は法律で規制されると思います。
ご返答ありがとうございます。ここ15年の変化は本格的な釣り人口が増えた分、安い道具を薄利多売する傾向にあると感じています。リトリーブで釣れるバイブレーションの普及はその流れなのかもしません。
バイブレーションについて気になることあるので質問させていただきます。
2000年~2007年くらいの釣り雑誌や録画した釣り番組をいくつか所有しています。この頃私は魚が好きな小学生だったので釣り関係の情報を集めていました。これらを大人になって読み返して気になるのがシーバスフィッシングでバイブレーションがあまり使われてないことです。当時の読者アンケートのルアーランキングにも重心移動系のミノーばかりでバイブはほぼありません。鉄板バイブに関しては2010年くらいまで皆無。比重が高いバイブはナイロンラインでも飛距離が出て巻き抵抗も強いので重心移動ミノーに比べて扱いやすいと思います。ここ15年くらいで急速に普及したのに理由があるのでしょうか。