コラム…ベルサイユのヒラ【2】
五月になると、我が家にバラが咲く。母が植えた一本の小径の赤いバラを、花瓶の中で根の張り出しを待ち、それを庭のあちらこちらに植えて増やしました。
かれこれ二十年。園芸家からすれば、放置に近く、適当に刈り込みをしているだけです。それでも毎年、花数見事に咲きます。雑草のよう。
もっとも、庭の五カ所に植えた中で、二カ所は数年保たずに枯れました。そこは日当たりも申し分ないのに何回トライしてもダメでした。
残ったバラは、余所の家の花期より少し遅れて咲きます。セオリーとしての肥料をやっていないこともあるのでしょう。毎年、気候に左右されて満開の時期が変動します。
それで気付いたのです。庭の三カ所でずれて咲くバラが、全部満開となる日に房総のとある磯に行くと、決まってヒラが待っていることを。普段、そんなに釣れるところではないので始まりは偶然のこととして気にもしなかったのですが、日を開けずに釣行していた頃なので、年を重ねるうちに、このバラとそこのヒラが連動していることを確信しました。大釣りになるか数匹なのかは、当日の風の具合によるのですが。
友人のKさんが、どうしてもヒラを釣りたいというので、理由を言わずにその日を指定してみました。当然釣ってきました。
人工的に手を加えない花というのは、咲く前に準備期間があり、咲き始めもあるきっかけがあります。人工的に外気温と日照時間を調節することで、花期を決めることも出来ますが、自然はフェイントだらけで一様ではありません。狂い咲きもありえます。普通は、変動する気候の流れ全体で花たちなりの判断をしています。
それにしても、陸上と海中では季節の推移が異なっているはずです。それなのに外気の変動に付いてくる…。理由を探しました。たぶん、サラシにいるヒラは、魚類の中でも珍しく、外気の影響を受ける場所を好む魚だからだと思います。
外気でかき混ぜられているサラシは、水温に敏感な彼等にとって、特別な場所です。極短時間で外気に近づく温度もそうですが、もうひとつ、バラのニオイとは言わないまでも、磯端に吹き渡る五月の新緑の風のニオイを彼等も嗅いでいるかもしれない。
…注!ニオイについては少々ロマンチックに過ぎたようです。ただ、魚の嗅覚は優れているとされるので、そう思いたいだけかも。…実際の五月の磯は、昼間最も潮の引く季節なので、全般に浅い房総の磯は、それまで海面に隠れていた海草類が露わになって、独特のニオイがします。 また、ヒラが生息する(世代を重ねられる)北限といわれる房総では、どうもヒジキの分布とヒラが連動しているようなところがあり、それより北上すると、海底の植生が一変して、ヒラもいなくなります。
元々、同じ自然界に居る魚のネーミングもサクラマス等、他の事象の名が冠せられることが多く、季節的な連動はよくあることです。一部の植物が、もっとピンポイントでマッチしているのかもしれない。
あの頃、取材を受けて、タックルボックスという雑誌にベルサイユのヒラ(ベルサイユのバラという漫画、宝塚の劇があったから)という題の記事になりました。編集方針が、ほとんど面白おかしく、ときに真面目という雑誌でした。質問に答えて出来てきた記事にビックリ。アンドレには参りました。
あれから何年経ったのか…。近頃、家のバラとヒラが連動しなくなってしまいました。同じ場所に行っても、イナイ。どちらがズレたのか?今年は両方です。ヒラは陽気さえ良ければ、少数なら絶え間なく居る感じもあるけど、まとまって動いているようには思えないのです。抱卵も個体によって、数ヶ月も差がある。
異常気象とか温暖化ですべて済ませるのは、まだためらいがあるので、もう少し先まで判断保留のまま通ってみることにします。ヒラスズキが我々と同じニオイを感じていると信じて。
ディスカッション
コメント一覧
こんにちは。K-TENラボを頻繁に読んでいますが、こんな面白い記事があったことに気付きませんでした(°▽°)。私も大人になるにつれて、日照量、降水量、風向きや陸地の環境が海に及ぼす影響の大きさを実感しています。でも、法則を見つけるのが難しいです。魚は気象に敏感でいないと、飢えたり、病気になったりしてしまうのでしょう。こいうことを知ると、ちょっとした土地開発が将来的に与える影響が心配になります。
shota さん、こんにちは。
人生の長さからして本人が直接法則を知ることは稀だとしても、勉強したり、季節の流れを体感しつつ釣りに向かうだけでも ‘もしかしたら?と思えることは多々あります。
そうしていると気付くことも多くなり、心配もそのひとつなので大切な事だと思います。