新年

 あけましておめでとうございます。旧年中はたいへんお世話になりました。

 今年はタックルハウスが40周年となります。それを記念して企画した事の中にK-TEN BOのリニューアルが含まれます。

 私が本格的にルアーを作り始めた頃はまだ登山を趣味にしていて自然保護意識の高い仲間の影響もあって、必然的に目指すルアーはそれに則ったものになるはずでした。
 しかし、当時メインの磯スズキ狙いで使っていた自作のウッドミノーは岩に軽く当っただけでも消耗が激しく、プラのように厚いコーティングも剥がれました。併用していた丈夫なロングAのほうは1本でシーズンを通せましたから本当に自然に優しいのはどちらであるのか海を見つめながら納得したことを覚えています。自作ミノーのプラスチック化は悲願でありました。

 しばらくしてタックルハウスと巡り合い、ようやくプラ化の目途が立った時、関係者にはフローティングのみ作らせてほしいと言いました。発売後も数年はそれで進んでいたのです。理由は簡単で、自然の中に自分の痕跡は残さない、という山の教えが身体に染み付いていたからです。またルアーは軽くするほどに何かにぶつけたとき破損しにくくなります。

 その後は徐々に必要や要望に応じてシンキングも作るようになりましたが、沈んだり消耗の激しそうなものはできるだけ避けてきました。(参考 ブログ内 作らなかったものについて)
 30年の間には流行は移ろいます。その度にもっと細身に、もっと飛ばして、もっと安く、泳層を浅くして、フックを3個にして等の内外の要望を聞いても抗ってきたのはBOの姿だけは変えたくなかったからです。
 今日まで私が設計した新しいルアー達と比べても環境に優しいという点では未だに最良のものだと思います。

 30年前のルアーが現役で使えるとのユーザーの声はとても嬉しい反面、商売としては下手との指摘もあります。しかし、環境に優しいはずの天然素材を用いたルアーでも破損しやすかったり劣化が早ければ当初願っていた目的を失うでしょう。まして激安だからといって紛失を恐れず投げられるルアーが増え続ければ、将来必ず大きな代償を払うことになります。
 昨今のSDG`s、持続可能な未来、プラスチックは悪といった世論に照らしてみると、今こそBO本来のコンセプトが生きる時と考えました。

 リニューアルといってもBOの形態が大きく変わることはないのですが、長年使用して炙り出した改良点を新型に投入します。次代を担う若い方々にはこうした考え方で作ってきたものがあることを知ってほしいし、先々の釣りの参考になれば、と思っています。

 まずはBKF175から始めます。そして一定の需要がある現行のシンキングタイプはそのまま残しますのでご安心ください。今年も記憶に残る魚と体験に巡り合いますよう願っています。

 

映像で見えてくるもの、見えにくくなるもの

コロナ禍にて一都三県に緊急事態宣言が出されて、また引き籠りに突入しました。いい機会と解釈して落ち着いた時間ができると再び制作困難なルアーに着手しそうな自分がいます。

 

140Gの発売前はその大きさとヤヤコシサからTKLMの仲間として受け入れて貰えるだろうか心配していました。が、杞憂で済みました。

この数年のyoutube等でさらに大きなプラグで釣れる映像がたくさん流れたおかげなのか、140Gを含め全般に大き目なルアーの販売が好調でした。さらに魅力あるルアーを作ることでお礼としたいと思います。

振り返ると、3本フックのMKF170を発売した88年当時はコノシロパターンという用語も無く、秋からのビッグプラグによる釣りは限られたユーザーのものでした。98年に出したBKF175でさえ、これを投げられるロッドがまだ少ないのに行き過ぎではとの声があったぐらいです。雑誌等でビッグルアー特集があっても、シーバス専用としての盛り上がりはいまひとつでした。(写真は当時の雑誌広告)

まだまだ140mm以下が主力だったのです。BKF175はその後しばらく他の大型魚に助けられて生き延びることになりました。シーバスが巨大プラグに反応する様を実際に目撃しないと信じられなかったのでしょう。

(リンク アザー2 ルアーの太さについて)

それが、高性能で安価な小型ムービーカメラができてからは実釣映像が溢れ様相が一変しました。今では多くのルアーマンが躊躇いもなく投げています。映像の説得力はスゴイなと改めて思います。

重いルアーが定着してくると自然にベイトリール使用が増えていくでしょう。スピニングだと指がヤバイとかの実用面もありますが、バス釣りと同じ理由でベイトを選択してみたくなるわけです。スピニング、ベイト双方に有利不利がありますから行ったり来たりするのも楽しいものです。

それらを後押しするコノシロの寄り(接岸)は、漁業資料によるとこの30年緩やかに減少傾向にありますが、実感としては当日の寄りの増減のほうが目立つせいか相変わらずのように見えます。ビッグプラグの威力を体験すると水中のコノシロの煌めきにトキメキを覚えて、それだけで興奮できるようになります。

しかし、この間に大切な釣り場そのものが半減しました。要因は様々でも立ち入り禁止場所は増えるばかりです。コロナでブームが来たとか、浮かれている場合ではないのです。

それに現場の人の密度と、釣りから得られる深い感動は反比例するところがあります。浮世からつかの間離れて、一対一で純な自然と遊ぶなんてことが難しくなってきました。

またネットでは、意図的な検索システムによって意見や居場所が片側に寄りやすくなるエコーチェンバー現象なる用語まで産まれています。思惑のある過剰な情報によって、集まりやすい場所や考え方ができるのは分かりますが、その中の表現に、こうすれば絶対云々とか必ず釣れるとかの言葉使いを大量に眼にします。受けもいいみたいで、私だと一生に数度しか使えそうにない言葉なのでビックリしています。

そしてネット映像やCMに押されている物売りシステムの先輩であるTVCMでは、何かと制約や放送倫理ができていて、苦し気な表現になっています。特にサプリメントや美容が分かりやすい。元々元気かキレイなタレントに大きな文字と声でその効能を謳わせていて、同時に画面の端の見えにくいところに小さく、これは個人の感想です。とか効能を保証するものではありません。とか一瞬映して責任を回避しています。まるで生命保険とかのミクロの文字で書いてある保証説明みたい。ネットでもメジャーなほうからこうした動きになってきました。

一番肝心なことは、小さく、静かで、見えにくいところにある。って変だと思う感覚は忘れたくないです。

さて、現在のルアーフィッシングで小さく静かで見えにくいところにあるものって何?

個人によって趣味嗜好は異なりますので、一概にどれとは言えませんが、あなたにとって大切なことはあると思います。すぐ思いつかなければ問いかけから始めてみてもいい、これが望んでいた釣りなのか?とか。どうか探してみてください。

私はといえば、いくつか見つけました。もしも映像内で声高に話せばとたんに言葉の意味と価値が彷徨うような事になります。それは静かに何かに寄り添うほうが似つかわしい。

例えば、その作ったルアーは終いには何処に行くの?・・・子供や孫に残したい写真やルアーって?・・・そんな素朴な問いから得た大切なものです。今もそれに沿って作り続けていることからも金銭より上位にあるものです。

 

 

新年

あけましておめでとうございます。

 

昨年の出来事はかなりの制約をもたらしましたが、一方でそういう時期だからこそトライできたこともありました。

本年はそれを生かすべく頑張りますので引き続き応援をよろしくお願いいたします。

TKLM140G 潜行深度について

TKLM140Gは基本的にはシャローミノーに分類されます。0~80(100)cm。ノーマルリトリーブで30~50㎝というところだと思います。

ただこれだと普通のミノーの表示なので、ここから一歩踏み込んだ事を書いておきます。ハンドメイドをしている方にも有用な知識なので役立ててください。

シャローミノー専用として、もしもTKLMタイプの水受け面の上部に上方向の水流を抑える角度の受け面を設ければ、もっとイージーに浅場を引けるようになりますが、そうすると潜りたいときに潜れず、浮かせとかの任意の誘いがやりにくくなります。また泳ぎの柔らかさを追求しているので流れが衝突するデザインは避けてきました、

頭部を斜めにカットしたような水受け面を持つ純粋なリップレスミノーは、リップ付きのミノーと比べて頭部周辺のデザインによる水流の乱れに影響を受けずに直接一面で水を受けることになります。(他形式のリップレスであるTKRは上下2面で受けています。最近はこのタイプも増えてきました)

 

この一面で受けることの単純さで理論的な設定がやりやすいわけです。潜行深度でいえば、浮力と頭部カット面角度の他に、ローリング要素の往復運動幅あるいは角度、時間内の振幅回数等で調節できます。

TKLM140Gは速く引いたとき、ほぼ160度(図参考)のローリングの振り幅、角度があり、遅くなるほど角度は狭くなります。ここがポイントで潜ろうとする力が働くのは主に中心線からの振り幅が左右40度ぐらいの間が最大になるので、それを超えて回り、残り60度ぐらいの間はあまり潜る力は無くなります。

 

つまりTKLM140Gの挙動で言えば、引くスピードを上げてローリングの振幅角度が広くなっている(派手に泳いでいる)場合は、潜る力のある40度間を高速で通過してしまうので、左右に向かう力のほうが勝るようになり、潜らなくなります。

反対にいくぶんゆっくり引くと、潜る力のあるローリング角度40度内に長く留まるので深く潜ろうとします。

このルアーはフローティングであり、デッドスローにも対応するため超スローでは水面近くを維持できますが、そこから先のスピードでは大半のルアーとは逆になります。

 

しかし、ちょっと考えてみれば、この性質はシンキングミノーに似てくるので理解してしまえば非常に使いやすい。振り幅を抑えるぐらいの中速で任意に潜らせ、デッドスローで浮上、速く引けばそれ以上は潜りません。(タイムラグがあるはずなので10㎝程度の誤差はあるかもしれません)

ポイントを丁寧に攻めるとき、根掛かりの回避、寄せ波での泳層キープと調節、ドリフトでの自由なレンジの演出、ナブラ打ちでの落ち着いた攻め(鳥を数メートル避けてもアッピール力でカバー)、サラシの厚さ対策、といった局面それぞれで新鮮なアプローチができるでしょう。

このように多方面且つ総合的にコンセプトである着水後の可能性に詰め寄ったルアーです。今日から出荷が始まりました。クセはありますが、調教すれば素直な奴です。よろしく育ててやって下さい。

 

追記 (他のTKLM3機種もこのような性質がありますが、オニギリ状断面にして頭上部の水受け面積を狭めてあるのでわずかに潜ろうとするぐらいです。それぞれに望む動きを出すために動きの中で水受け面からの水流の方向を調節しているのがTKLM系ということになります。)

 

追記----------------------------------

発売後、早速嬉しいご報告をいただきました。中に本記事の内容に関連した釣り場や環境下での釣果があったので掲載させていただきます。

↑ 四国のお店からお客様が購入された当夜に型の良いアカメが釣れたと聞きました。私もトライしたことのあるサーフからなので情景が想像できました。シャローミノーとしては波を追い越さずに位置キープできる性質がお役に立てたのかも?と思いました。おめでとうございます。

 

↑ 谷澤様、プロトタイプファイルに投稿ありがとうございます。順番があるので先にこちらで紹介させていただきます。詳しいご報告内容は後日あちらに掲載させてください。拝見した内容によるともうこのルアーの性質を熟知されているような使い方です。まさに川から引き出したという感じです。記事がでればきっと皆さんの参考になるはずです。おめでとうございます。

 

↑ 加地さん、いつもありがとうございます。

潮流の速いゴロタ場での釣果を聞き安心しました。こちらではなかなかあのような場所や状況が無いので未だ試せずにいた場所柄です。

これからもよろしくお願いします。

 

↑ 坂本さんからデッカイヒラスズキが釣れたと歓びのメールが届きました。南房を周り某磯で4つ出した中の最大サイズ。

昼間に140Gの挙動を確認して、狙い通りに釣れたとのことです。新調のロッドにも活が入りましたね。おめでとうございます。

 

坂本さんは後日、同場所近くの小浜で良型ヒラメも釣れたとのこと。ん?これ140Gの大きさとパースペクティブからすると、けっこうなサイズです。このルアーでは初のヒラメ報告になります。ありがとうございました。

 

 

以後、ご報告いただいた釣果はプロトタイプファイルに掲載しています。釣り方等参考になることが多いです。ありがとうございます。

 

TKLM140G 出荷開始

お待たせしました。明日よりTKLM140Gの出荷を開始します。オーダーを頂いたK-TEN系お取り扱い店様には順次配送されますので、今週末頃にはお届けできる予定です。

 

限定カラー

発売記念限定カラーは内部を見たいとのご要望が多かったので、ホロクリアと背腹のみクリアの2種になりました。

ファイヤーボーンカラーは、骨まで燃え尽きそうwということでネタも入っていますが、特徴的なローリング角度を視認するためのテストカラーでもありました。

 

イメージとの違い

尾から戻って磁着する球はコロコロと転がっているイメージですが、あれは説明用であって実釣では磁石が衝撃で割れないように鉄板を挟む必要があるほどカッ飛んで戻り、ブチ当たって磁着しています。その分、ガウス加速器にもパワーが加算されるわけです。

元々、球タイプの重心移動はウエイトルームを走るとき、摩擦の発生個所は1~2か所の点接触だけなので、円柱状等タイプの線~面~多点で接触するものより戻りやすいのです。むしろ早く戻り過ぎるときがあるのでBKRP140R3のようにわざわざ型を変えて遅らせようとしているぐらいです。今回も微妙なスロープで調整しています。(実釣ではゆっくり転がすことのほうが難しい)

 

着水直後のために

このルアーのコンセプトのひとつに着水直後の釣果アップがあり、一見時流から外れるようなセッティングを施してあります。

そのため、投入時振り被ったとき、ルアーが踊っているような投げ方だと安定した飛行姿勢をとれないかもしれません。飛行姿勢は空中で飛距離をあまり阻害しない程度に頭を支点に尾が小さく回転するぐらいを狙っています。最後部のオモリは軽い鉄球になります。(磁石に着いているタングステン球だけが黒いのは錆ではなく間違えないように着色してある)

 

実戦上、これ以上飛ばすだけのために後部ウエイトを増量すると、このルアーの場合、水中に突入したときにミサイルのごとく一直線の長い泡を引いてしまい、直後のバイトを妨げる恐れがあると判断しました。(ナブラでさえ沈ませる理由)現仕様ではそれを曲線になるようにしてできるだけ抑えています。

 

この仕様はすでにルアー自体を比較的軽くすることでそれに対処したK2F142、K2F162があるからできたことで、お互いをフォローし合えるようにしました。

重量級リップレスミノーによるテクニカルな釣りをお楽しみください。

 

 

次回、近いうちにこのルアー特有の方法がある潜行深度の調節についてお話したいと思います。

 

TKLM140G 発売予定

コロナ禍で開発途中のスケジュールに狂いが生じたものの、TKLM140Gは今月中旬から出荷開始の予定です。

映像のほうも間に合いましたのでご覧ください。

年頭の挨拶で今年は設計難易度MAXのルアーを作ると宣言しました。同じもののサイズアップ版は作りたくないこともあり、以前から温めていた構想の実現にチャレンジしたわけです。

 

TKLM140Gではセオリーであった逆オニギリ断面を捨て、水に食い込もうとするリップに相当する部分をあえて最小面積としました。この部分の面積を増やし、リップ状に張り出すほど普通のミノーに近づいていきます。

さらにこれもセオリー破りで、オモリや重心を可能な限り上部に置き、一方ラインアイは下方の引っ張り上げる位置にしてあるので、そのままだと投入後の泳ぎ出しですら危うい不安定な代物です。これを何とかして解決し、望むアクションを得るためにGシステムという新機構を導入したわけです。

テストではシステムを完全カット(写真参考、接着固定等)したものを用意して比較したりしてシステムを改善していきました。

イメージでは表層ペンシルとミノーとの中間に属するタイプで、その点TKRに近いのですが、深度変化の少ないTKRと比べてアイで引っ張り上げる分、水面に近づこうとするので、‘泳がせながら’、小魚のモジリを演出できます。わざわざ止めて浮かせるとかしないでも、波高等で変わりますが、スピード変化だけで良いのです。

また、泳ぎのアッピール能力が極めて高いという強みもありますが、反面、強弱を意識して使わないとやり過ぎとなって、せっかくのスッキリした小魚シルエットを生かせません。

 

同じ140mmクラスで使用難易度から言えば、K2F142T2が優しく、次にTKW140、K2F142T1と続き、今度のTKLM140Gの難易度は高めとなりますが、その一撃性や爆発力は上回るものがあると思います。

発売まであと少し、よろしくお願いします。

追記、製品案内には先行してGシステムの詳しい説明ページへのリンクがあります。

Gシステム詳細はこちら

 

仮説~確信へ

来月発売予定のTKLM140Gに繋がる話になります。

私の全経験を注ぎ込んだK2F142は発売から12年を経て、現在も一定の評価をいただいていると思います。変わらぬご支持をありがとうございます。

このルアーからテンションコンセプトという概念を導入しましたが、年月を掛けないと確証できなかったことがありました。それは古くから定説となっているマッチザベイトに関することです。ルアー選択はその時捕食しているだろう小魚のサイズに合わせることがセオリーだと言われます。それに同じルアーサイズでもファット、スリムとかあって、ルアー全体のボリュームで合わせるという考えもあります。

しかし、経験を積むに従って魚がメジャーを持って眼で測っているとは思えず、側線との複合感覚で判断していることに気付きます。小魚が水を押しのけたり、押し出したりするのを敏感に感じることができるのならば、ルアーの性質を変えてやればマッチザベイトの呪縛を解けるかもしれないと。そこでリトリーブ抵抗が極端に小さいルアーを作れば140mmあっても魚側からすれば120mmと感じてくれるはずだと信じて作ったのがT1でした。その後使い勝手重視で普通の抵抗に近づけたT2ができたことで、長い実証が始まったわけです。

長引いたのはリリースが定着して、釣った魚の胃の内容物を知る機会が減ったことと、私や仲間、ユーザ-さんの報告でたまに食用にした時の胃の内容物を調べた結果が貯まることを待ったからです。結果は仮説通りでT1(テンション低)で釣れた魚の胃の内容物は小さ目の小魚が多く、T2はサイズ也で普通といったところでした。その差は顕著で数倍違うというご意見も頂いています。

つまり、テンション、引き心地、水の押し出し、押しのけが少ないルアーはサイズより小さいルアーとして使えるということです。弊社ルアーに限らず、ルアータイプによってどんな選択をしたら良いのか、ヒントにもなるはずです。

 

さて、ここで今度のTKLM140Gに繋がります。

リップ付きで比較的安定した泳ぎのK2Fにはテンション表示してありますが、TKLM系統は一括りに表示できない理由があります。

それはテンション小~極大までの幅がありすぎ、またそれを楽しむルアーでもあるからです。元々、90mmサイズから対大物用を謳ってフックも大き目です。トゥイッチしたときの水の押し出しが強く、任意に相手に気付かせ、その後アクションを控えめにして食わせたり、パニックアクションで逃げることもできます。もちろん使い方は自由ですが、任意で最小~最大アッピールのあいだを行き来できると、それで釣れた時にはより釣った感(釣れた、ではなく)が増すのだと思います。

 

TKLM140Gはさらに一撃性をスケールアップするために様々な工夫を凝らしました。発売予定まであとひと月を切り量産の準備をしているところです。仕様等の詳細は近くお知らせしますのでよろしくお願いします。

 

さらばK-TEN初号機、海に沈む。

全自動重心移動ルアーの元祖の映像をこの機会に残しておくことにしました。
パテント申請前にプラスチック化を目標に試作したものです。
手作りのシリコン型を使って、サーフボードと同じ製法(FRPとグラスファイバー)による最後の一本。

製造後36年を経て、現在使われているABSより素材の変質が激しく進んでいて割れることも覚悟で投げることにしました。

写真(映像)は、まだ20代の私。
この場所も後年商業施設のために埋め立てられてしまいました。

もう遺物ともいえるルアーですが、構造的には現在より優れている部分もあります。移動ウエイトルームは普通、金型から抜いて成型するため天井を設けるのですが、これは背中から一枚板を差し込んでウエイトを押さえています。このほうが空気体積を大きく取れるのです。
シェルが3分割になるのでコストは上がりますが、突き詰めたルアーを望むときには有用な構造で、いずれは採用したいものです。

それに飛行中は大きなリップを自動でたたみますし、投入時のウエイトショック軽減のために緩衝材としてバネも入れてあります。

後作にバネを使わなくなったのは、飛行中、サミングとかスプールのラインの食い込みとか、わずかな段付きショックが掛かっただけでウエイトが戻ってしまい失速する場合があったからです。また実用化にあたってできるだけ構成部品数を減らして、シンプルにすることが求められていたこともあります。

ようやく梅雨が明け、新作のTKLM140Gのテスト映像を撮るついでに撮影したのですが、数十年ぶりに泳がせたルアーは初心を鮮やかに思い出させてくれました。
あの試行錯誤の毎日と比べれば、少々の難産ぐらいで立ち止まるわけにはいかないのです。

 

貫通ワイヤーの今後

直メールで貫通ワイヤーについてのご意見をいただきました。了解を得たのでここで詳しく書くことにします。

私の設計したプラスチックルアーは、Mシリーズを除いて全て貫通ワイヤーを採用しています。

初期にコストの問題で8カンだった幾つかは、後年、貫通式に作り直しました。Mシリーズはコンセプトの中に、軽さ、があったので専用の横棒を挿入したアイにしてあります。

主な目的は想定外の魚が掛かったときの対応と製品強度のムラを無くすためですが、初期の雑誌記事の中で私は、自分の作ったものがゴミとなって海底に横たわるのはイヤだ、とも書いています。

もちろん、しっかり作った8カン方式のアイでも滅多に壊れることはありません。ご意見の中にも魚に壊された経験が無いし、必要ないのでは?特にBKF75にまで貫通ワイヤーというのは?価格が上がるだけでは?とあります。

 

しかし、たまにだからこそルアーが原因でせっかくのチャンスを逃したくないのです。例えば、BKF175のワイヤーは工業試験所の静荷重検査で200㎏まで耐えますが、それでさえ、しょせん金属、捻じられたり横方向に強い力が掛かり金属疲労が重なれば、20㎏ぐらいの魚に破断させられることがありました。また、ここブログ内、「思い出の一匹」にBKF90で24㎏もの魚を釣り上げた方がいます。想定外がそこそこ起きるのが海の釣りです。

それにしても75mmにまで貫通式とはオーバースペックでは? これには別の考えを追加させてください。

貫通式にこだわるのは強度だけではありません。プラスチック製(ウッド製も)のルアーはいずれ必ず劣化します。皆さんも海岸に打ち上げられたルアーを見たことがあるでしょう。中には何年も放置されてボロボロバリバリ壊れるものもあります。(原因は光、熱、水、化学変化等)

問題はこれに至る過程です。劣化していつ壊れて魚に逃げられるのか不安なとき、8カンに比べて貫通ワイヤー方式のものは最後まで実用に耐えるわけです。ルアーは壊れたらゴミとなります。嬉しい例外は、それまでに思い出を伴なえば飾ったり記念に保管されたり価値のレベルアップがあります。

そして釣りそのものが消耗品が多く、ゴミを発生させやすい趣味でもあります。これを自覚したとき、BKF140からですが、できるだけ長く使えるものを作ろうと誓いました。山屋出身のせいもあり、自然の中に自分の痕跡を残すということに痛みを伴うのです。

あのとき、コスト的な意見に押されていたら、30数年前のルアーが今も安心して使える状態ではなかったでしょう。K2Fを手掛ける前、あるユーザーから、もうルアーは押し入れに一杯あって一生買わずに済むと言われたとき、私の考え方だと、ルアーで儲けるなんて無理だとサトリました。

デメリット

貫通方式、特にフローティングでは、元々単なる飛距離や泳ぎの振動数には不利な方法なのです。何故なら限られた浮力の中で、ワイヤーを挟み囲む樹脂の重さ、ワイヤーそのものの重さ、丈夫に作ろうとする肉厚の重さが前提とされていて、重心移動できる錘は8カン方式に比較してかなり軽くなってしまうからです。

ボディを薄くして移動システム以外の構成物を減らし、移動錘に重量を集中させるほど、飛びや泳ぎの向上を図りやすくなります。しかし、私は重心移動を最初に提案したものとして責任があります。K2F142で強度を落とさず、錘を軽くしても飛ばす方法があることを証明した後は、これ以上の飛距離競争には参加するつもりはないのでご理解ください。

今後

コロナ禍が落ち着いてくれば、またエコとか、マイクロプラスチックの話題が再燃するでしょう。そう遠くないうちにルアーも問題視されると思います。環境問題は世の中全体のあらゆることが絡み合っていますから事は複雑です。リサイクルやレジ袋のこと、何が本当に環境に優しいのか、調べれば調べるほどに疑問が湧くことでしょう。調査がエントロピー関連までいけば見えてくるものもあります。

ひとつはっきりしていることは、物を長く使うこと、これに尽きるのですが、これには経済活動している多くの人が気に食わないはずです。大量消費しないので儲かりませんから。それよりも耳障りがよいのでレジ袋の何十倍もの水をつかって紙袋にしたり、何倍ものコストをかけてリサイクルしたり、製品代の何倍もの運送費を払って補助金を貰うほうを選ぶわけです。生分解の素材でも耐久性からすると使用先は限られます。

 

貫通ワイヤーは寿命を迎える最後まで長く使い続けるための私なりの現実的な答えです。

20年ぶりにBKF150の制作依頼を即答で受けたのも、もっと飛ばせとか、もっと安くとかではなく、魚に壊されると聞いたからでした。今度のTKLM140Gも最近作った新型ルアーの中では不利を承知で一番肉厚にしました。ガウス加速器で何とかしようと思っています。

自分の考えを追い続けることは、人に強要をしないでも異なる立場の人から見ればワガママと映るのでしょう。それでもめげずに30年以上貫通ワイヤーを続けてきました。もうしばらくの間、このまま行かせて下さい。よろしくお願いします。

 

写真下は、ウッド製とABS製(上から1番目、2番目)を15年以上庭に放置しておいたものです。ウッドコーティングは剥げ、ABSに陽に当たったところは白濁して脆くなっています。おそらく魚を掛けたら一発で割れるでしょう。でもワイヤーは健在です。まだ思い出を作る力は残っています。

 

TKLM140G 開発状況3 決断

まずは心のつぶやきを・・・

フィールドテスト中、ようやく完成か・・・長かったが為せば成るものだ。投入、着水、ガウス加速器発動、Rユニット作動、リセット、また投入・・・

たまに作動しないときがあるな。90%というところか。その後は作動確認が気になってしかたない。丁寧に投げ方を変えてみたりする。

待てよストレスだぞ、これ。90%とはいえ続けて作動しないときもある。ガウス加速器を応用できた世界初の製品としてこれでいいのか?それに投げるたびに作動が気になるってどうなんだ?若い時ならこれで妥協しただろうか?それにTKLMらしさが何か足りない。

100%にする方法は本当に無いのか?散々設計図を見直してきただろう。磁力の性質、調整は?

海岸に立ち尽くすこと、2時間・・・

 

機構の面白さを追求するあまり、あれもこれも詰め込み過ぎたのかもしれない・・・

重要度の順番でいけば、釣れるルアーを作ること、ガウス加速器はその助けとなるはず。まずこれを完璧にこなすことだ。着水後Rユニットに流し、そこに球を留めるために数々の制御をしているが、はたして必要なのか?RユニットがメインのTKW140に比べれば、その効果はわずかなものだ。Rユニット(今作では動力伝達ルーム)をパワートランスファーとして特化すれば100%に近づけるのでは?

しかし、カオスといっていい着水時はどうなるんだろう?射出された鉄球が何回転してどう暴れるかなんて予測不可能だろう。いかなる条件下でも加速器の限られたパワーを本体に伝達するには?

Rユニットは元々、外部の力をエネルギーとしていて回転力が増すほど効果があるが、今回は内部から得た回転力や慣性力をルアーに移すことが目的だから、現象が真逆なところがあり、回転部分の名前もパワートランスファー(動力伝達装置)というのが相応しいのかも。

パワートランスファー内では短時間で射出パワーがルアー本体に移って減衰し回転が収まってくる。それでいいわけだ。その分ルアー本体にパワーが伝わっているということだから。つまりルアーは泳ぎ始めるキッカケを得るので成功ということになる。

また試作品とは違って、パワーが減衰した時点で早めにリセット位置に球を戻せるのだろうか?そして運悪くパワーが減衰しないうちにリセット位置に戻ってしまうこともあるだろう。その場合は失敗なのか?

 

んっ?パワーが残ったままリセットされるということは、弱いながらも2度目のガウス加速器を作動させられるかも!(6ミリの鉄球が垂直重力落下でいうと1.7㎝で得られる加速エネルギー以上であればよい)今は重心移動メインウエイトは1個だが、2個目を入れて、このわずかな加速でそれを引き離すことができれば、ルアー尾部を数㎝沈下移動させるだけの新たなエネルギーを得る。その姿勢の不安定化が泳ぐキッカケとなればいい。PT内で球がどんな動きをしようとも、パワーを余すことなく使えることになる、はず・・・

以上、心のつぶやき、終わりw

再び、悪戦苦闘・・・

 

そして、できました。今度こそガウス加速器100%作動! 重心移動システムと完全にリンクします。PT(パワートランスファー)からの戻りを確実にするため、射出パワーの最適化、レールの形状変更(上から見た図の丸で囲んだ部分が重要で、射出されるとルアーが水中で左側↓方向に揺れることでその先の中心軸棒を避けるようにした。手持ちでは軸に当たる調整。手持ちでは下がスムーズだが海では上が正解)また移動球を一つ増やして3種類、材質変更、計4個に。それと釣りの動作中、球は仕事しまくるのでショックアブソーバを追加。その他、細々と。

フックST46-1番を装着した重量級ルアーが軽快に動きます。ストレスフリー。止めたときでも揺れるという機能はTKW140に任せて割愛しました。

着水直後のカオスにおいて、射出エネルギーがルアーに移らないもしもの場合、戻りが速過ぎたときでも、球に残っていた慣性エネルギーで2度目の加速器が作動し、最後端の錘球を再解放して前後バランスを崩し(ラインで引き始めるときなので横ブレとなる)機能を取り戻すという保険付きです。要は泳ぎ出し重視で着水直後のバイトを誘発したいわけです。初動が冴えればあとはTKLM独特のアクションにスムーズに繋がります。

着水後、中身は笑えるほど複雑なことを勝手にしますが、使用上の配慮はいっさい無用。苦労は外に見せないタイプで至ってクールですw。また外見は極めてシンプルで水受け部が小さく(動かすキッカケに頭部左右非対称までしたBKLMの70%)、特に後方斜め下から見る遊泳中の小魚のシルエットを手本としています。、一撃性に優れた重量級TKLMの誕生です。

 

現在もネオジム磁石に付ける保護板の厚さを0.1mm単位で変えて調整中です。制作スケジュールギリギリまで続きます。磁束密度というのはわずか0.3mm違いで何割も変わることもあれば、角度10度違いで半減することもあります。

 

追記-だいぶややこしい事を書いてきた自覚はあり、共通した概念を持たないものを説明するのは難しいと反省しています。まだ数人しか数十メートル先のルアーの内部でガウス加速器が作動しているところなんて見たこともないわけで、梅雨が明けたらなるべく早目に映像にしてみます。

 

なお、お風呂モードは楽しいので残してあります。w遊んでやってください。2度目のガウス加速器作動も確認できるはずです。フックにはくれぐれも気を付けて。