F・ショーで仮発表した次世代K-TENについて

K2Fプロト 初代BKF発売から20年。良き思い出を紡ぐために、共にルアーを投げ続けてきた同志、皆様のおかげで、今日を迎える事が出来ました。感謝です。
 新型を設計する前に自問する日々が続きました。時代は、次世代、我々からすれば息子達へと移りゆくとき。今は、作り手から泳層はおろか、魚種や使い方まで指定されるルアーがほとんどという時に、新たにBKFの後継を作る必要があるのか?また、BKFのファットで高浮力ゆえの操作性と一撃性。自由な引き方やリップの調整で、各フィールドに合わせるといった工夫が楽しめるルアー。マーケティングから外れ、二度と作れないルアーを廃番にせず、さらに発展できるのか?
 その答えは、私の製作意欲の源泉を辿る内に在りました。K-TENを作り始めた当時、各地に行き、その先々で有能な釣り人やルアービルダー達に出会いました。中には、K-TENを使って、これが在れば自分の作ったルアーはもう要らないと言い切った人達もいました。自作した最後のルアーを私にくれたこともあります。彼らと共に釣り、酒を酌み交わし、約束しました。
 それは、不変のコンセプトを貫くこと、生臭さを消し、ハードで、よりルアーらしくあること等。要は彼らに恥じないルアーを作り続ける事を誓ったのです。思い出す度に力とアイデアが湧いてくる。飽くことなくルアーを楽しむ術を知っているのは、我々自身でした。20年目の今なら、出来る。そう思いました。
愛称
 私の設計によるものは、個別の名は無く、BKFとかTKLMとかMとか、品番そのもので味気ないと言われることがあります。それは印象を固定するような名を付けると、使い手が各自で愛称を付けづらくなるからです。できれば、あの元ビルダー達にはお気に入りの名を付けて使って欲しいし、買って戴いた方はもちろん、製作スタップにもそれぞれ固有の名を付けて遊んでくれることを願ってきました。私自身、勝手に名付けて楽しんでいます。どれとは言えませんが、スランプバスターとか、シンクロトロンとか他愛のないものですが、愛着は新たになります。お勧めします。
 また、ネーミングだけでなく、先の理由で、形態も機能上どうしても譲れない所以外は、あからさまに私の痕跡が残る装飾的なものは、いっさい削り取ってきました。(今後予定する一種は例外)その結果、自然にシルエットだけで個別に認識できるルアーにもなっています。
 今度リリースする、K-TEN2,0  K2F142(これまた味気ない(^_^))は、外見上、飛距離の改善のため、幾分細めとなっていますが、目はペイント、鱗、エラは無し。その代わり、内部は10項目以上にわたっての改善と、新たな工夫に溢れています。(概要に詳細)
 
  プロトは既に出来ていますが、夏頃まで実釣で熟成します。完成したら、まずここで発表したいと思います。BKFユーザーには何が改善されて、何を失ったかまでも味わっていただきたい。そして、息子世代(できれば娘も)には、ルアーには、こうゆう方向も有りなんだということも知って欲しい。特にシーバスは我々の釣り方や道具の選択次第で如何様にも変わります。手強くも、優しくもなれる魚です。自身で一匹の価値を上げる事ができる。これを忘れると数年を待たずに物足りなくなります。ルアーマン各自にオリジナルな釣り方があるはずです。

ミノーとしてのベーシック〔M88~M168〕

M148 重心移動のパテント権利が切れる頃、Mを製作する前の事です。今後の事を予想してみました。たぶん、各メーカーは、私が初めてその効果を手にしたときと同じことをやるだろう。すなわち、錘を重くし、移動する長さを限界まで伸ばしたものが作られることは明かでした。

二十数年前、初めてシステムを組み込んだ時、市販を前に数年に渡り強度テストを繰り返していました。破損が怖くて安全なところまでデ・チューンしたもの。それが初代K-TENです。今となってはいささか遠慮しすぎた感もありますが、それゆえ当時のルアーが今も現役で作動するのだと思います。それぞれ20%増量していたら、大変な事になっていたかもしれない。
後になって、雑誌に、こうすればもっと飛ぶようになるが、特にマグネット式は衝撃も最大になるので自制心が必要と、安全面から注意を促したことがあります。しかし、すぐ、もっと飛ぶようになるという部分だけを強調したルアーが出てきたので面食らいました。また、適当にシステムを組み込み、自ら、こんなものは使えないと負の部分を際立たせた論調もありました。さらに、とんでもないゲテモノも現れて、行く末が心配になったのです。

権利は切れても、始めに重心移動を提案したものの責任があります。また、重心移動そのものを守りたかった。それが、ニーズから少し外れたとしても、余力のあるうちにMシリーズを作っておくことにした理由のひとつです。
ユーザーからのチューニング希望を聞くと、K-TEN系すべて、もっと重くしてという声が数多くあり、反対に錘を減らして、もっと軽くしてということは極めて少ないのです。重心移動システムは確かにもっと遠くへという願いを実現させるものですが、本来、軽いルアーを重量をほとんど変えずに、性質を保ったまま、より飛ばすことのできるシステムでもあるのです。しかし、予想どおり、その後、軽量を謳うルアーは何処も作りそうにありません。これではあまりに一様過ぎる。行き過ぎです。

重量ではなく、あくまでバランスと空力を活用したルアー。軽いルアーの性質は、ときに大きな強みとなります。重心移動以前は、普通に使っていたタイプなのですから。
深度コントロールが容易くレンジのスピーディな変更ができ、アクションが独特。着水で魚を驚かせることが少ない。ライトタックルが使え、魚の力を引き出すことが出来る。等。
つい先日まで、当たり前のようにあった、飛ばないけれども良く釣れるベーシックなミノーに、洗練されたシステムが組み込まれたもの。重心移動が広まってからは当分発売されそうにないジャンルのルアー。
予想が外れたことがあるとすれば、当初、その万能性から初心者向きとした性質が、時代の変化で、むしろ状況チョイスのできるベテランにこそ相応しいルアーになったことです。

設計時に描いたMのイメージ原画

唯一無比〔TKR130・H〕

 TKR まず、リップレスから説明します。細身で小さいルアーに慣れたアングラーだとこの姿を見ただけで拒絶反応が起きそうです。それに、頭部カット面の角度付けが、普通のリップレスとは逆なので、これが水中を軽快に駆け巡る様を想像もできないかも知れません。
 でも、大丈夫。60㎝以下の魚を無視できれば、強い味方になります。それは生体の動きに極めて近い性質があるからです。
 ダートやスライドができるといっても、ほとんどのルアーは、上から二次元的に、そう見えているだけです。普通のルアーはジャークやトウィッチすると、大きな深度変化を起こし、右斜め下とかにバランスを崩しているので、上から見ると錯覚で真横に動いているように見えます。これでも釣れますが、まだ理想には遠いと思います。
 三次元で検証して、本当に、つまり水面とほぼ平行にスライドダートしているルアーは少ないのです。まして、全スピード域でそれをクリアーするルアーを、私はTKR130H以外知りません。唯一無比の能力です。
 他に無いというと、反発されたことがあるので、そうゆうときは実際に試して納得してもらいました。水深20~30㎝の広い浅場(またはルアーの設定深度にプラスして)か浅い河川のダウンストリームでトウィッチしてみればいいのです。
 表層指定のダート、スライド系ルアーは、たいてい底に当たるか、飛び出します。130Hはたとえ高速でも水面直下を維持してアクションします。本物の小魚は、横に動く度に頭を底にぶつけたりはしません。
 注意点としては、前部のRユニットの質量がリップ付きの兄弟より上げてあるので、スムースに投げないと、たまに飛行姿勢が崩れます。また、その潜行深度が極端に浅いことから、大波では使い辛くなります。実釣では、ただ巻きして、深度を維持しながら、軽くトウィッチするのが基本的な釣り方です。色々試すことをお勧めします。
 たまにこのルアーの性質を自ら理解し応用しているアングラーと話すと、その見識の深さと釣果に驚かされます。戴いたメール等では、青物や磯スズキの他に、リバーシーバスでも使い易いという報告が増えてきました。特に浅い急流域のあるダウンストリームで引くには最適ということです。ただ、その場合、元々純海水設定なので、フック、リングを一番手、下げて比重を淡水に合わせる必要があります。
 このルアーのみに攻略可能な、未だ眠っているポイントがあるかもしれません。最近の私が開発中のルアーの他に持ってゆく数本の中に必ず入っているルアーです。今まで通せなかったルートを試せることと、ほとんどトップなのでヒットの瞬間が良く見えるからです。

リップレスミノーの経緯〔BKLM140・115〕

BKLM115 84年5月の釣り雑誌にリップレスミノーの記事があります。プロトは、かなり以前から作られていました。元々、重心移動が無い時代に、先行するラパラ、ロングA、レッドフィンに対抗するべく作ったルンゼというリップレスミノーが始まりでした。リップを小さくしていけば飛距離が伸びる。全部取っちゃえ、と始まりは単純でした。

そのうちに、明確に泳がなくても釣れることを知りますが、まだ不足を感じていました。この試行錯誤の頃の記事を読み返すと、出来るだけリアルに(一枚ずつアルミの鱗を千枚近く貼ったこともある)細身に、また、リングをケブラーに換えてサイレントが効くとか書いている自分がいます。今から思えば、私も本格的にスズキを狙って数年、望むことは最近の若い人と同じ、きっと誰もが通る道だったのです。

その後、紆余曲折があり、88年にウッド製を市販したところ、見た目と動きが当時流通していたミノーの概念から離れていたせいもあり、あまり売れなかったのです。ここまでは、今も流行りのシャロー専用設定でした。それでも、一部の河口や干潟をテリトリーとするアングラーから少しずつ支持を受けて、なんとか90年の安価なプラ製の発売まで漕ぎ着けたわけです。ただコストの関係でK-TENのアイディンティーのひとつであるワイヤーの貫通式を採用できなかったことが心残りでした。潜りすぎないようにロッドを立てて、ゆっくり引くと小物を避けてランカーを誘えたので、(小型で細身のルアーを早引きするとフッコのオンパレードになった)干潟最強の声はあったものの、誰もがポイントを大切にするあまり雑誌にはほとんど掲載されず、細々と、サーフや河口用として認知されていきました。 
やがて、その独特の性質であるスライドやダートが、シイラや青物にも効くことが解り、強度と高速対応を迫られるようになります。そこで、若干潜行深度に幅を持たせた現行型BKLM140,115が登場するわけです。(ここでワイヤー貫通式にしました)

K-TENリップレスの暦からすると、シャロー専用から始まり、広い泳層幅をもつタイプ、チューンドで再びシャローと、変遷しています。
こうして書いていると色々思い出します。リップレスをハンドメイドで作ろうとすると、初めのうちは動きや安定を図ることが難しいので、完全にリップレスではなく、リップの代わりになる突起を残したくなります。現在出回っているハンドメイドをルーツとするリップレス系が、何処か似た形になるのは当然かもしれない。私もそうでした。ただし、角度を付けたリップ状のものが僅かでも付いていると、引けば頭が下がるというミノーっぽい性質が必要以上に残ってしまいます。私はこれを何とかしたかった。ボディからリップを引っ込めた完全なリップレスでありながら、僅かな力で泳ぐもの。(BKLM140は苦心の末、左右非対称形にした)

長い時間をかけて、水受け面を本体断面内に収め、求めたアクションを実現することが私のリップレスの歴史でした。だから皆さんが進化したリップレスの形と思っているものと、私の実感とは逆なのかもしれない。後から発売されたものが常に新しいとは思えないのです。
シャロー用リップレスが全盛の現在、広い泳層を探れ、自由度の高いBKLMは、リップレスとしては珍しい部類になりました。貴重なので、しばらくこのまま残しておきます。泳層を意識して、ゆっくり引けば表層を狙え、中速で潜らせて、浮き上がり中に微妙な演出を加えれば、大型魚好みの動きがでます。それに多少の波気をものともしません。
残念ながら、飛距離は最新の物と比べると物足りなく感じるかもしれません。鉄球をタングステンにするだけで更に飛ぶようにはなりますが、実験すると耐久性や大物を誘う力、等、失う物が多過ぎます。現行の型を使う限り、やはりこのままがいいようです。

 

泳ぐ、泳がない。〔TKF130〕

TKF130 店頭にシャロー専用ミノーが急に増えた頃、シーバスの場合、良く動くルアーより、あまり動かないルアーのほうが実は釣れるんじゃないか、という説が広がりました。旧BKLMユーザーやデッドスローの得意なルアーマンには、半ば当然の事だったと思いますが、何故か新鮮に聞こえたようです。
 注意して聞くと、ブラックバスから海へという流れで新たな釣り人が増えた事や、釣り易いルアーの出現などと、ネット時代が重なったため、新説のような扱いになったのでしょう。
 しかし、当初、泳がないと批判されたこともあるリップレスミノーを作った当人としては、その先に見えるものもあります。
 泳がない方が釣れる、これも真実。ただし、余りに一面的です。確かに泳層が特定できればそこそこ釣れます。小魚の生態の一端でもありますから。本当の答えは、魚が嫌う動きもあれば、好む動きもあるというところです。(動かなくても釣れるということを認知された今は、その解答を知らなくても、とりあえず釣れるルアーは作り易くなったのかも知れない。海の場合、動かせて釣れるルアーを作るには、相変わらずもっと研究が必要です。)
 過去、どうゆう動きなら良いの?という質問には、直接会った方には答えてきました。私なりの試行錯誤の末、(例えは悪いが)ヘビのような柔らかい要素のある動きと、スライド系の動きは魚に好かれる事が多い。ルアーが止まっていても、わずかな外力で震えていれば、良い。
 反対に、もっとも悪かったのは、満月のように大きく動く完璧なウォブリングでした。(難しいが作れる。)
ただ、これに少しずつロールを加えると魚の反応が激変する一点がある。
 ローリング主体は一撃性に欠けるが無難といったところ。動き過ぎず、擬似的に震えている要素が含まれているからです。
 目立ち過ぎればスレやすく、スレを怖れれば見逃される。だから、七味のように色々とブレンドしているのです。(以上、あくまで私の見解。)
 TKF130は、逆説的になりますが、良く泳いでも釣れるルアー(笑)です。開発時には当時たくさん売れていたルアー(知人のデザイナーのもの)のように、という声を多く聞きましたが、流行のルアーはすぐに何処でも作ります。そこでワガママさせていただいて全く逆としました。動かない系のルアーがダメな時にでも放ってみてください。きっと、驚きます。使い始めは、性質を覚えるまでスローが基本ですが、実用スピード域は広いです。
 それと、サーフのヒラメとの相性も総合的に合っています。ぜひ試してください。
 私は、漁具を作っているわけではないので、同様に釣れるのなら、やはりルアーらしく動かせるものを作りたいと考えています。 

嬉しいのはトップだから?〔BKRP140・115リップルポッパー〕

BKRP115 たまに釣友やユーザーの皆様から、釣果報告のメールを戴くことがあります。作り手の幸せというか、この仕事をやってきて本当に良かったと思えるときです。
 特にリップルポッパーで釣れたという話には、文面に特徴があり、他のルアーのものより文章そのものが長いことが多いのです。そして、意外なことに魚のサイズは平均的には中型でした。(中には日本記録の報告もありましたが)
 ミノーでの釣果報告には、サイズや数が突出したものが多いのですが、リップルポッパーでの報告には、やっと出た60センチ一匹でも熱いものがあります。文面から滲んで見えるものが、私にも初めてスズキが釣れた頃を思い出させてくれるのです。
 メソッドも各個人で、夜のデットスローから、昼間のサラシ上を滑らせたり、と様々でした。
 トップだから嬉しいというだけではなく、魚とのコンタクトまでに濃密な時間があるが故に、印象に残るのだと思います。
 元々、このルアーは、バスのようにピンポイントでアクションさせるトップウォータープラグというより、広範囲のフィールドから一気に魚を引き出すためのものです。
 そのため、ミノー的な要素を取り入れて、潜ったり、泳いだり、引き波を立てたり出来るようになっています。ボリュームのあるシェイプは強気の現れでもありますが、釣るという
能力には磨きをかけてあるので安心して使ってください。
 あなたに合ったメソッドを探すことができれば、きっと、あの水面炸裂を目撃できるでしょう。

K-TENブルーオーシャンに込めたもの

BKF115 世界初の全自動重心移動システム内蔵のプラスチックプラグとして、発売されてから二十年以上が過ぎました。
 当時、和製の海用のルアーがまだ少なく、私も外国製のルアーを使用していました。夢としては、それらを越えたいと思いつつも、敬愛する故、真似するわけにもいかず、全く異なる姿と能力を身に付けるには困難を極めました。
 開発当初、全国のルアー事情に精通するほど、それに対応することの難しさが身に染みました。要求される課題が日に日に増していったのです。
 飛びはもちろん、超低速から超高速までアクションし、表層を引けることはもちろんその気になれば1・5m程度潜らなければならない。そして流行の兆しが見え始めたシイラや青物を相手に壊れてはならない。今と違って、ルアーローティションが少なく、一本で数万回のキャストに耐えねばならない。少々磯にぶつけてもハゲるだけ。
 対応しきれない要求には、リップを削るだけで簡単に応えられるようにしました。高浮力故、重量アップなどの改造も容易い。そして、あくまでルアーらしく、暖かく。
 こうして得た汎用性を、各地のパイオニア達が理解し、応用し、紹介してくれたからこそ多くの支持が集まったのです。
 このルアーは自らのイメージに忠実に従うように作りました。現在のルアーと比べて泳層ひとつとっても意識していないとハズシます。しかし、それはルアーマンを育てることにもなるのです。勧められたルアーを、漠然と投げて釣れたら、何故釣れたか、今ひとつ判らないでしょう。
 BKF系は、本体だけで泳ぐので、リップを全体的に削っていけば、あなたの望む泳層専用に出来るのです。現在、相当数のBKFが世の中に出回っています。自分が
紛失したものは、他人が拾っているはずだし、その逆も有りです。
 ジグや沈むルアーと違って、フローティング主体なので、販売数のほとんどは、まだゴミにならず在ることは、私や、開発仲間の誇りです。たとえ、ネットで百円で売られていても、です。
 この先、古い物を安く手に入れたり、家の片隅に眠っているBKFがあれば、リップ改造してみて下さい。リップレスミノーのノウハウが凝縮してありますから、115,140など全く取り去っても水面をヨロヨロ泳ぎます。安定を望むなら5ミリでも10ミリでも残しておけば良いのです。安心して下さい。あなただけの最新ルアーに変身するかもしれません。

M Sound 〜「ルアーの発する音」に対する一つの答え

音については、色と並んで過去最も多く質問がありました。今は魚に関する文献を捜せば、それなりの解答を得られるかも知れない。一釣り人より大学の先生のほうが説得力がありますから。
ただ、実践派のルアーマンはそれだけでは納得できないでしょう。

M Sound
私自身、八十年代始めの釣り雑誌に、完全サイレント化したルアーを使っているなどと書いています。音には、かなり悩んだ時期があった。
あれから、三十年近くたって、現在はどうかというと、それほど神経質にならなくても優先されるべきものをしっかり作ってあればカバーできると思っています。
作ったルアーも簡単に魚が釣れるものほど、音を残してあります。(音がすると食わないという論説に偏らないように)学術的な答えではありませんが、人間だって、金を払ってまで聞きたい音もあれば、犯罪になる音もある。きっと魚だって同じだと思います。
伝統漁法では音で集魚させる方法もあるし、ガソリンボートとディーゼルでの違いも体感しました。ロサンゼルスでは、生餌を使う船のエンジン音に付いてくる魚に邪魔されて、本命にルアーが届かず、魚から逃げ回った経験もあります。
昨日、好きだった音が、それに伴うイヤな経験をすれば嫌いにもなりえる、と流動的なものです。色々な経験や実験を経て、おおらかになりました。
しかし、例外が可能性としてあります。今後、バスのトーナメントのような方式が海で盛んになると、超ハイプレッシャーな環境ができます。普段なら、まあ、いいかと諦めるようなときでも無理にでも釣ろうとしますから。そこまでしなくてもと思うようなものも使われます。
そうすると、音だけでなく、ルアーから魚に対して発せられる刺激は、すべて諸刃の剣になりえるのです。おおらかな世界とはほど遠くなります。
Mサウンドは、音について私なりの、一つの解答です。全部が控えめだけど、音符に相当するものを幾種類も持っているので、ルアーマンが意識して独自の音を組み立てられます。
ボッ・シュ・ポン・スゥー・ガポッ!
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写真は宇井さんの一本。

M Quietに込めた思い

 Mサウンドと兄弟になります。ルアー自体が余計なアクションや音の発生を抑えてあることから、その名がありますが、もうひとつ使用するに相応しい状況の例えでもあります。
 静かな河川の流れや、小魚の気配がある静まりかえった海。たまにありますね。クワイエットを漂わせて、ときどき、ほんの僅かアクションを加えます。ポチャッと小ジャンプ、軽いスケーティング、引き波を立ててもイイ。いずれも魚を驚かせないように優しくアッピールするのがこのルアーの持ち味です。
 浮子が消し込むようなアタリもあれば、ボフッと水面が盛り上がるときもあります。
 静寂の中での繊細な釣り。だからこそヒット後は格別の興奮が得られるのです。
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 募集…あなたの思い出の一匹‐4に登場のサイさんのお話は、まさにMクワィエットのモデルケースだと思います。
 (カテゴリー→イベント等→思い出の一匹‐4)

偶然の賜物〔TKLM9/11・12/18〕

 88年頃から98年頃までウッド製のリップレスを作ってきましたが、何十とある行程のうち穴開けだけはほとんど私がやっていました。(ラストの1年ぐらいは高精度で加工できる所で)量産品ながら、ハンドメイドであり、ひとつずつ微妙に違いがあります。このことが後年、ある知識を与えてくれたのです。TKLM911
 ウッドのリップレスを使用していると、ごく稀にアタリルアーがあることに気付きました。何故か、やたらに魚の反応が良いものがある。何十本の中に一つ有るか無いか、です。アタリルアーの分解は勇気がいりましたが、理由が知りたかった。そして、とうとうアタリルアーの共通点を見つけました。それは、偶然に近く、神秘と言ってよい性質でした。シンクロとか共鳴とかのとても再現が難しいものです。TKLMには、それを少しだけ込める事ができたのです。
 90㎜のプロトタイプは、当時の干潟等で釣れ過ぎ、呑まれ過ぎで仲間内では封印されたものです。K-TENの暦からするとデザイン自体はBKLMより前のものですが、例のシンピの威力は絶大でした。それに新型の重心移動システムにより飛距離は1グラム単位あたりでは最強になりました。
 そこで、奇妙な努力が始まります。大物用として付けた大きめのフックは、目的がもう一つあり、口周りで引っ掛かり易くして、呑まれ対策でもあります。浮力を調整して極端な小物には弾かれ易くもしました。カタカタ音も、あえて残してあります。元々、リアルである必要もない。つまり、釣れなくするほうにも配慮した唯一のルアーかも知れません。それでも良く釣れることは、皆さんご存じですね。
 この頃、一見、違って見えるけれども、コンセプトやシルエットや動きの原理がカブるルアーが幾つか出てきました。これを進化と言うのか私にはわかりません。そして当然、丁度良い塩梅にするということはできません。このタイプを使うときには、頻繁に呑まれるので、バーブレスにすることをお勧めします。
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(質問があったので)……エッセイ【26】バキュームキッス…にTKLMが呑まれやすいという理由が書かれています。