TKLM120【12/18】…錯覚

 小粒でヤンチャな弟、TKLM90の兄貴120。兄らしく90ミリに比べて、アクションのDNAは同じでも、全て控えめな設定にしました。
 このサイズで90のように動かすと、アッピール過大な局面が多々あったからです。浮力を抑え、同一水深にある時間を増やし、スライドの幅を狭め、ラトル音を消しました。
 ただ抑えるばかりだと、必要な初期レスポンスや望む動きが弱まってしまいます。そこで、リップレスシリーズの特徴であるオムスビ形断面を再考、さらに不安定にして、また2球をR曲面で支持することで、僅かな外力に反応するようにしました。
 
 しかし、これはこれでやりすぎると回転してしまうので、尾部を下げてフックの重みの助けで必要な安定度を確保してあるのです。
 極端に尾部を下げると空力的には不利になりますが、もう一つの利点を考えて採用しました。それは、スローリトリーブのときにローリング方向の動きでも尾を振るからです。錯覚に近いのですがウォブリングで尾が振れるのとは違います。  tklm1218
 元々、私の設計によるリップレスは動きの支点が普通のミノーとは異なります。通常のミノーのウォブリング支点は胴体の中心寄りにあります。尾を振ると同じく頭も振ります。だから、太いリーダーを使うと頭部の動きが阻害され、振幅が狭まるのです。
 対して、リップレスのウォブリング支点は頭部付近にあり、頭を降りづらいのです。エッ!でもスライドやダートするじゃない?それはボディが傾いたときに力を加えると、頭部の水受け面角度やボディの曲面によって、潜ろうとする方向の力を横に向けているからです。
 ボディの傾きは、ほぼランダムだからトリッキーなアクションとして現れます。したがって、静止状態からのトゥイッチよりも、リトリーブしながらのトゥイッチのほうがスライド、ダートさせやすくなります。(注!このルアーはこればかりが目的ではなく、必要とするときだけにしたほうが無難です。スズキに多用するスローリトリーブ中にも控えめに前記の性質が現れるので、普段は穏やかに使うことをお勧めします。)
 当然、リップレスに太いリーダーを使うと、リーダーごとズレなくてはならず、その抵抗が邪魔してスライド幅は減ります。反面、頭を中心に暴れることもできるのです。(リーダー太さで簡単チューニングも出来るということ)ややこしい話ですが、それがリップレスの性質なのです。(リップレスと名が付いていても頭下部にリップ状の突起があるものは通常ミノーとの中間的な性質を持ちます。)
 
 実際の魚はリップレスのようには泳がず、むしろ普通のミノーのほうが小魚らしく見えるときもありますが、ジックリ観察すると本当の魚の頭はあまり動きません。方向舵のような働きをしています。ルアーみたいに振動したら彼等も目眩がするでしょう。動きの本質から言えば、リップレスのほうがイイ線行っていると思うのはそういう理由からです。(それならジグヘッドにワームならもっと近いじゃないか?そのとおりですが、理由はともかく私はヤワラカイものには全く興味が湧きません。ワガママごめんなさい)
 
 ハードプラグルアーは制約だらけですが、そこが面白く、研究しがいがあります。実際の小魚は純粋なローリングやウォブリングなんてしないのに、それでも釣れてくれますね。
 魚にも、人間にも五感はあり、第六感、第七感ですら想像は出来ます。(知覚、味覚、臭覚、痛覚、音感、気配…)
 でも、一番大事なのは、もしかしたら―錯覚―なのかもしれません。しかも、お互いに……。
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Mさんからメール、戴きました。昨日6月30日、房総地磯、朝マズメ、TKLM120赤金で81センチのヒラスズキ。この頃行く度に釣ってます。決まっている休みなのにサスガです。

Q&A…鮫のこと

はじめまして。
いつもK-TEN Laboratory 楽しく拝見させて頂いております
房総在住のYと申します。
私もヒラに魅せられ5年目、まだまだわからないことばかり。
ルアーではいつもお世話になっております。
4月の記事でしたでしょうか 鮫に対する注意を二宮さんが促されていたので
私も気になっていたこともあり 大変恐縮ではありますが 質問させていただこうと
思い立ちました。
水温も緩むこの季節ウェットはすごく気持ち良く最高の季節なのですが
一つ気になることが、、、
鮫が怖いんです
時々気配のようなものを感じることもあります。(考えすぎだからかもしれませんが笑)
大先輩である二宮さんなので場所は隠しません
この時期、◇◇◇◇◇◇によく行きますが
潮位が低すぎると攻めづらいこともあり
潮位100cm前後を狙って渡っていますが
最初の長めの水路を渡る時など
どうも気になってしまいます、、、
以前仕事の都合で朝一4時前に入水したことがあるのですが
薄暗い水路をライトで照らしたら
実際1メートルくらいの鮫が目の前を悠々と泳いでいたこともありました
そこでアドバイスをお聞かせ頂きたいのですが
◇◇あたりで実際人に噛み付いたりするような鮫は
我々が渡るような浅い灘(水深1.5~2Mくらい)まで入って来るのでしょうか?
つい3日ほど前にも仲間が
◇◇◇で鮫にラインブレイクされています
御忙しいとは思いますが、
ご意見お聞かせ頂けたらあり難いと思いメール致しました。
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 お答えします。
 Yさん、この時期のヒラ、楽しいですよね。◇◇◇は、私も仲間も好きなところなので良く行きます。
 鮫についてですが、房総で被害を聞くのは数年に一回とか、確率的には低いので、一定の注意さえしていれば、怖れるほどではないと思います。
 この時期は、海産物が解禁になって、明るくなると海女さんも見かけますね。
 一定の注意が必要というのは、我々ヒラスズキを愛好するものがマズメ、夜、荒れ波といった状況の中にいることが多いからです。むしろ海のプロである海女さんや、漁師には、あまり縁のない状況です。だからプロに聞いても見たこと無いというかもしれません。
 それでも、定置網にはたまに大きな鮫が入って、騒がれますし、沖で数百匹単位の群れを間近にしたこともあります。普段はルアーにさえ見向きもしない鮫が、何かをキッカケに急に活性が上がるときがあるのです。
 私が危険を感じた経験は、海外がほとんどですが、実際に危なかったのは日本の、しかも房総で数十回は通っていたところでした。状況は、荒れ、強ニゴリ、マズメです。最初モジリに気付いたときは巨大ヒラと勘違いして、当然ルアーを投げました。でもそいつはルアーではなく、私に向かって来たのです。ブッタマゲテ逃げ帰りました。
 長年海にいて、たった一度の経験ですが、無視できないことなのです。たまたま足場が良くて、後退りできなかったら?と思うとゾッとします。
 ◇◇◇の最初の水路は浅いけども底が砂地ですね。だから、メーターオーバーぐらいの鮫なら入ることはできますが、ちょっかい出さなければ大丈夫でしょう。いずれにしろ、暗いうちは、慌てず速やかに渡ることです。
 
 ヒラスズキのルアーマンにとって、確率的には鮫よりも、やはり大波のほうが危険です。お互い気をつけて、楽しみましょう。

梅雨の晴れ間

 昨日は50代4人+子供で東京湾ボートフィッシング。このメンバーだと、ルアー、餌、酒と、その時々で相談して、今一番したいことをするお気楽釣りになります。
 出港は9時、遅。んっ?エンジンがかからない!子供は心配しているようだけど、こんなことでは動じない大人達。そのうちなんとかなるだろうと一杯。
 港で整備していると、たまたま港にいたOさんの友人が船を貸してくれるといいます。ありがたい、出港。
 海は穏やかで、気温も丁度良い。東京湾中エアコンが効いているようです。
 最近はスレまくっている海保周りでフッコを少々。型の良い鯖が回ってきて、子供にもヒット、リップルにもヒット。 今年はずっとロングロッドに慣れてしまっているので、久しぶりに持つ7fが楊枝みたいに感じます。
 後はキス釣り。大型船が入れない浅場に行くと小型ながら釣り放題。といっても、このメンバーだと食べる分だけ釣って、後は歓談。好き勝手にやってます。 シメはメバル。これも必要分だけ釣ってお終い。お疲れ様。思えば、今年になって、海でK2Fに触れなかったのはこの日だけ。良い休日になりました。
 
 昨日、28日は気象学でいうところの、雨の特異日。今年はたまたま陽気に恵まれたものの、一年で一番雨の確率(53% )が高いそうです。
 私はこの日が誕生日。ジジイ連には船上でシャンパンを開けて祝って戴きました。ありがとう。
 特異日だと知ってからは、雨を嫌うとかえって憂鬱になるので、努めて雨を好むようにしてきました。
 そういえば以前、ニュージーランドの二週間の釣旅でご一緒した、写真家の佐藤秀明さんから「雨の名前」という本を戴いたとき、雨の表現の豊かさに驚いたことがあります。詩人の高橋順子さんとの共著です。
 そこには、雨の名前が422語、雨の写真が148点、詩とエッセイが35篇、記されています。
 今日の雨は何雨かな?この本を開くと雨が好きになっていきます。(もちろん災害になるようなのは別ですけど…) 

第一リップ決定

  現在、K2Fは写真のリップ形状を指定して、型を作っています。あがりは7月上旬予定。まず、数十体を組み立て、カラーリングが済むのは中旬ぐらい。   またしばらくテスターさん達には待っていただくことになります。そこから最終段階のテストをお願いします。もうロストを気にせず、思い切り投げられます。 
 それまで私は、担当とカラーリングの選定作業。実は、カラーについて、ここ数年は市場ニーズと営業担当に任せていました。
 そうすると、いわゆる売れないカラーは淘汰されていきます。いつのまにか私にとって、昼間、実戦で戦えるカラーリングが少なくなってきました。そこで、反省しました。
 私の提案カラーは、機能カラーリングです。色だけというより、色諸々の配置に気を使ったものです。ウケルかどうか判りませんが、それぞれ明確な目的を持ち、結果も出ています。もうしばらくナイショですが、それを五体ぐらい加えます。 
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 今日は暑くなってきました。まだ時間があるので、これから河口に行ってきます。幾つか借りてあるロッドを変えて投げてみます。
 磯のほうは、仲間がコンスタントに釣ってくるのでお任せ。例年、この時期、南風吹き始めのサラシさえあれば、真っ昼間でも釣れるのは房総の浅磯のイイところ。ただし、ほとんどヒラフッコ。たまにハグレマル。

?リール

  地元、九十九里の八百善釣具店さん所蔵の?リールです。面白いので写真、撮らせて貰いました。
 旧リョービ製の試作品かも、ということらしいのですが、製造年、名称等は不明です。機構を詳しく見ると、相当古いことは確かです。
 
 何が面白いって、左右両用にするために現在のようにハンドルを外して、好きな方に取り付ける方式ではなく、ギヤボックスを180度回転させるという、わざわざ難しいことをしているからです。
 ここまでなら、なんだそんなことか、となりますが、考えてみて下さい。普通にリールを180度回転させたら、どちらかを逆回ししなくてはなりません。
 それが、このリールは左右とも同方向で巻けます。何やら、リールの内部で複雑なことをしているようです。 
 だからなのか、故意にそうしたとは思えない動きを伴います。巻き始めたらハンドルを止めても、ローターは惰性で回ったままになるのです。例えば、自転車のペダルを止めても車輪は回り続けるようなものです。初めてこれを手にしたとき、◇マ◇製?と思ったのは、そのためでした。また、自転車のペダルの足踏み動作のように、一回転させなくてもハンドルを往復運動させるだけでローターを回せるのは、たいしたものです。
 しかし、意志に反して動くローターは実用的とは言えません。それにメインシャフトが細すぎます。その他はラインローラーの側に誘導ローラーが付いていたり、自動ベール返しなど、感心できる作りです。
 
 勝手な想像をすると、ハンドル関係の特許を避けようとしたのかもしれません。本気で全く新しいリールを作るつもりでいたとすれば、無謀とも言えるような挑戦です。でも、私、こうゆうものを作ろうとした人に敬意を表するものです。こうして、今も大切に保管されているのは、やはり何かを感じたからでしょう。 

再び堤防へ、フック決定

 仲間やテスターさん達の協力もあり、K2Fの熟成は終盤に差し掛かりました。彼等には、少ないプロトを使い回しして貰い、色々と不便な思いをさせてしまいました。気兼ねなく投げられるまでもう少しです。
 これまでのフィールドは、ほとんど磯場中心で、たまに汽水の河川、外洋が難しいとき内湾を選びました。これからは漸くシーズンインしたシイラや青物も試さなくては。
 
 昨日は久しぶりに堤防でチェックです。透明度の高い広い港がなかなか見付からず、午後3時からテスト開始。堤防からしか出来ないことをやります。
 それは、50メートル先のルアーの挙動をジックリ見ることです。普段、目の前でルアーの動きを見ますが、着水直後から10メートルのルアーを見続ける機会はあまりないものです。大切なのはむしろ此方です。
 
 ナイロンほどではないにしろ、PEでもルアーを手元で見るイメージとは、かなり異なります。(ジグの場合は全く別物)だから、一人が堤防に沿うように投げ、引かれるルアーをもう一人が歩いたり、走ったりして、追い掛けてチェックします。投げる方に名手を選ばないと怖い思いをします。できれば、潜って下からも見たいところです。(昔はけっこうやった。磯でもサラシでも。美ら海水族館ぐらいの設備が使えれば最高なんですけど。)
 港の縁には車止めの突起があるので、何度も繰り返すと、たまに蹴躓いて落ち掛けたりします。  
 そこで、K2Fですが、概ね想定通りでしたが、フックサイズを変えると迷いが生じてしまいました。今週中までにサイズを決めて、発注しておかないと予定通りにいきません。
 カルティバST46の1番か、太軸のST56の2番を候補に挙げているのですが一長一短がある。標準をどちらにするのか。(たまには私の悩みにお付き合い下さい(^o^)
 仲間の意見も割れています。BKFだと、これくらいの差はものともせずに許容するのですが、どうもK2Fは様々な点で影響が出る。
 例えば、飛距離について。ルアーにはフックの重量で飛びが増すタイプもあれば、逆になるタイプもあります。K2Fはちょっと変わっています。
 逆風下だと、重く大きいST46の1番のほうが飛ぶときがありますが、バラツキがでる。ロッドによっては、投げるときのフックのブレが、本体に移ってしまうからです。平均飛距離にすると、小柄なST56の2番のほうがかなり上になる。(注、ルアーによって、この結果が逆になることもある)
 フッキング率については、さすがに大柄なST46の1番が有利そう。2番のほうは小型のヒラに弾かれた記憶が重なります。でもランカーはこっちに実績がある。
 では、フッキングに至るまではどうか?レスポンスやトゥイッチの対応力ではST56の2番になる。また、浮き上がり速度も速く、根をかわし易い。反面、波に揉まれた時は、浮力が少なくなるST46の1番が有利なときがあるし、強引なファイトをするにはこれくらいの強さは欲しい。2番だと太軸とはいっても微妙なところか。
 でも、重量級フックは、塗装に厳しいし…。魚の反応の良かったほうは……。
 
 で、あれやこれや考えた結果、標準仕様に装着するのは、ST56の2番。スプリットリングは5番にしました。今決めました。これから担当にTELします。 ST46の1番は必要に応じて、ルアーマンの好みということに。
 もちろん、これらフックの重量内であれば、様々なフックが、フローティングルアーとして使用できます。シンキングになっても構わない場合や、オフショア等は、今後、色々なフックを使って報告しましょう。目安にして下さい。 

K2F概要…エスケープワイヤー

 昨日、K2FのABS本型の成型品があがってきました。何度経験しても、この時ばかりはけっこうドキドキします。
 設計通りに製作されるはずとはいっても、樹脂の収縮が思わぬ所に出てきたり、細かな所まで充填されているか、確認するまで安心できないのです。ここから先の設計変更は、可能であっても費用が掛かり過ぎることもあります。(だから、色々な成型品を見ると、作った後にどこでもオモリを置けるようにしてあったり、保険を用意して、作り直しを避けているものが多いのです。ただ、そうすると、本来必要としない部分も残ってしまう。スッキリ作るほうが遙かに難しいし緊張します。でも美しいと私は思っています。)
 しかし、ここで妥協すると、後々、水漏れの原因になったり、システムの作動不良に繋がります。不具合があれば素直に認め直さなければならない。
 特にK2Fは内部に繊細な造形が多く、型から抜くのにも考えなくてはなりません。担当から、余計なこと(新しい試み)は、リスクがあり、あまりしてくれるな、と言われていたのですが、心配した箇所も問題ありませんでした……で、一発目で上手くいったことになります。関わってきたスタッフと私に、オメデトウ。(今日から早速リップの確認にテストに行ってきました。いけそう。) 
 例えば、エスケープワイヤー部分ですが、これまで報告としてK2Fの概要の説明を書いてきましたが、これが遅れたのは型から抜くまで上手くいくのか判らないと言われていたからです。
 一見、地味な工夫です。3Dレーザーカットワイヤーを、後部の球の当たる位置の所だけ外へ逃がしています。外皮に近いところに最薄部ができることになる。
 その目的は、内室を守る接着部分の面積は絶対減らさず、かといって球はこの位置が理想なので変えたくはないし、後部もこれ以上太くはしたくない等。様々な相反する要求を、全体の強度に影響しない方法で解決することでした。
 丸ワイヤーを使うと、接着面を裂いてしまう力が働きますが、レーザーカットワイヤーはこの辺りの断面はほとんど四角、正確には長方形です。裂く方向には力が掛かりづらい。前後しっかり着いていれば全く問題ありません。貫通ワイヤーでありながら、ほとんど太くせずに、目指していた強度が得られました。 
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 昨日、13日一種の記念日ですが、テストから帰ってきたら、M氏からメール。房総某磯で反応良かったとのこと。K2Fプロトで釣った叉長81,5の磯マルの写真が。ヒラはランディング寸前でバラシとか。
 この時期、大きなルアーで釣るには気合いがいるけど、リッパ。テスト、続行お願いします。暖かくなっても魚はまだまだいるようです。
 そして、今日14日も同所に行き、帰りに私の家に寄ってくれました。(M氏、ちゃんと仕事してます。それもかなり忙しい)ヒラフッコクラス数匹。驚いたのはK2Fに35センチのヒラが掛かったそうです。記録ものです。 

犬になり鮭になった話…自選エッセイ集【27】

先日、長年馴染んだ鼻ヒゲを剃った。ついでに髪も短くしたが、まあ、こちらの方はあまり変わりないようだ。
おかげで翌日、近所の近視のオバサンに挨拶しても、素通りされてしまった。後で聞くと、そのときは坊さんにも、ヤクザにも見えたそうである。
これには理由がある。信じられない話だが、ある日突然、私の鼻の嗅覚が、一時的とはいっても約一週間、何十倍にも鋭くなってしまったのだ。なるべく話がおおげさにならないように、いつも気をつかっているつもりだが、内心は数百倍だったのではないかと思っているぐらいだ。

原因は、はっきりとはしないが、たぶん、カゼをひいたとき、すすめられるままに数種類の薬を服用したことがきっかけだと思う。ビタミン剤以外はめったに口にしないのに、このときは大切な行事を控えていたので、漢方薬と合成薬を混合して飲んでしまった。
すると、カゼをひいているはずなのに、額は冷たくなってくるし、気分がますます悪くなってきた。さあ、それからがジゴクである。ボーッとしてはいても、何故かあらゆるもののニオイだけが気にかかる。というより、まず我が家の中が臭くて居られない。外へ飛び出しても、何処かでビニールでも燃やしているようなニオイがする。とにかく、風下にいると、遠くにいる人のニオイまで感じてしまう。ここが田舎でなくて都会なら卒倒してしまっただろう。しかたなしに家にじっとしていても、やがて人は眠らなくてはならない。その布団がヒドイ。
鼻ヒゲにも様々なニオイがこびり付いてしまい、我慢できずに剃ってしまった。
そしてなにより、ヘビースモーカーだというのにタバコが吸えない。入院したときでさえ、点滴しながらでも吸っていた私がだ。丁度いいからやめたらと言ってくれた人もいたが、だいたい、吸えないから止めるとは日頃の、ぽりしぃに反する。止めるなら、止めようという意志をもって止めたい。
そこで、今はそんな気はないから、吸えるタバコはないかと銘柄を幾つか試してみた。どうも洋モクがいけない。なんとか吸えるタバコは国産の強めのものに限られてしまった。酒もしかり、いい酒しか飲めぬ。
また、あたりまえの食事ができないことが辛かった。すべてが薬っぽい。普段好きな物がことごとく口に近づけられない。唯一食べられたものが、バナナだ。それも後半の半分だけ。どうも前半部分は不快なニオイがしていただけない。毎日がバナナ。とにかくバナナ。コンビニの弁当はもう二度と口にすることはないと思った。

不快な方のニオイは記憶に引っかかるものがあった。それはかつて、アメリカでうっかり嗅いでしまった、車に轢かれたスカンクだ。動物全般が生理的に嫌う、慣れることのない、いやなニオイである。 この世はスカンクの屁で充満しているとまではいわないが、いつのまにか、口で息をしている自分に気付いたのであった。
そう、犬になってしまったのだ。犬は種によっては人間の何万倍もの嗅覚の持ち主だという。普段は口で息をしていないと、とんでもないことになる。警察犬に犯人の所有物を嗅がせれば、跡を追えるとか聞くと、スゴイとか思ったものだが、あの時の自分ならできそうだった。それほど人間のニオイはきつい。

また、鮭が故郷の川に帰れるのは、海に溶け込んだ水のニオイをたどってと聞いたときは、これまた、どうゆう鼻ならそんなことが可能なのか理解し難いものがあった。それが今は案外、簡単なのかもしれないと思っている。
嗅覚という原始的な感覚は、視覚とか聴覚のような感覚とは異なって、一度に曖昧なものすべてが飛び込んできたときでも、実に鮮明に識別できる感覚なのだ。基本的に好きか嫌いか、あるいは目的のものか別のものか、これだけだ。
私でも、臭い水道のプール内に、もしも我が家の井戸水が流れ出しているなら、迷うことなく、たどり着けそうな気がしている。
こうして、私は一週間ほど、犬になり、また、鮭になった。どうせなら、別のものになりたかったのだが。

後日、TVで、シックハウス症候群の番組があった。患者の話を聞いていると、私の症状に似ている部分がある。
要は化学物質過敏症のことらしい。特に新築した家から発する揮発成分とか、ホルムアルデヒドとかいうものに、異常に敏感に身体が反応してしまうとのこと。患者にとっては深刻なことで、ローン支払い中の新築した家に住めず、わざわざ古い家を借りて生活している人もいるという。
私とすべてが同じわけではないが、化学物質系のニオイがダメだった点は似ている。スカンクの屁もどちらかといえば自然界には有り得ない意図的に作ったようなニオイだった、だから強力なのだ。お世話になった、バナナの名誉のために大きな声ではいえないが、たぶん、前半部のあのニオイは残留した農薬ではないかと思う。
そして、バナナは、まだいい方なのだ。食中毒を出さないためといって、防腐剤などを規制値ギリギリまで大量に添加しているであろう食品は巷に溢れている。私など、体に相当蓄積しているはずだから、おそらく死んでそのままにしておけば、腐らずにミイラになるかもしれない。

さて、現在の私はといえば、ご心配なく。元の鈍い感覚の人間に戻っている。どんなタバコでも吸えるし、安酒もうまい。我が家も居心地がいい。布団もいつものように清潔に感じる。ただ、食品のラベルに書ききれないほどの添加剤のあるものには、記憶が蘇って、さすがに手を出さなくなった。
それと、超嗅覚のとき、ぜひ嗅いでおきたかったニオイがあったのだが、チャンスを逃してしまった。それが、何なのかは、ヒ・ミ・ツ。
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2001年5月に岳洋社さんの「SW」に掲載されたものです。先のコラム…ベルサイユのヒラ【2】の中でニオイについて書いているうちに思い出しました。
ラストの、嗅いでおきたかったヒミツのニオイは、コラムにあるように、弾けるサラシにニオイが含まれているか、試してみたかったのです。そのときは読んでも何のことか解らないと思えて、ヒミツにしたのです。顔をサラシに突っ込んでいる男がいたら変、でしょう?
写真は、どうせならスカンクより、良い香りのするものにしました。昨日から咲き始めた睡蓮です。
これを観察していると、溺れないように、水位の変化を花自身が予想しているがごとく、花茎の長さを余裕をもつまでナナメに伸ばしてから、絶妙のタイミングで咲きます。
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いよいよ今日、K2F142のABS本型の成形品が届く予定です。先に書いたように、これから微調整としてリップを再度付け直す作業が始まります。あいにく今日は雨。明日以降、海に入り浸りになります。

コラム…ベルサイユのヒラ【2】

 五月になると、我が家にバラが咲く。母が植えた一本の小径の赤いバラを、花瓶の中で根の張り出しを待ち、それを庭のあちらこちらに植えて増やしました。
 かれこれ二十年。園芸家からすれば、放置に近く、適当に刈り込みをしているだけです。それでも毎年、花数見事に咲きます。雑草のよう。
 もっとも、庭の五カ所に植えた中で、二カ所は数年保たずに枯れました。そこは日当たりも申し分ないのに何回トライしてもダメでした。
 残ったバラは、余所の家の花期より少し遅れて咲きます。セオリーとしての肥料をやっていないこともあるのでしょう。毎年、気候に左右されて満開の時期が変動します。 
 それで気付いたのです。庭の三カ所でずれて咲くバラが、全部満開となる日に房総のとある磯に行くと、決まってヒラが待っていることを。普段、そんなに釣れるところではないので始まりは偶然のこととして気にもしなかったのですが、日を開けずに釣行していた頃なので、年を重ねるうちに、このバラとそこのヒラが連動していることを確信しました。大釣りになるか数匹なのかは、当日の風の具合によるのですが。
 友人のKさんが、どうしてもヒラを釣りたいというので、理由を言わずにその日を指定してみました。当然釣ってきました。 
 人工的に手を加えない花というのは、咲く前に準備期間があり、咲き始めもあるきっかけがあります。人工的に外気温と日照時間を調節することで、花期を決めることも出来ますが、自然はフェイントだらけで一様ではありません。狂い咲きもありえます。普通は、変動する気候の流れ全体で花たちなりの判断をしています。
 それにしても、陸上と海中では季節の推移が異なっているはずです。それなのに外気の変動に付いてくる…。理由を探しました。たぶん、サラシにいるヒラは、魚類の中でも珍しく、外気の影響を受ける場所を好む魚だからだと思います。
 外気でかき混ぜられているサラシは、水温に敏感な彼等にとって、特別な場所です。極短時間で外気に近づく温度もそうですが、もうひとつ、バラのニオイとは言わないまでも、磯端に吹き渡る五月の新緑の風のニオイを彼等も嗅いでいるかもしれない。
 …注!ニオイについては少々ロマンチックに過ぎたようです。ただ、魚の嗅覚は優れているとされるので、そう思いたいだけかも。…実際の五月の磯は、昼間最も潮の引く季節なので、全般に浅い房総の磯は、それまで海面に隠れていた海草類が露わになって、独特のニオイがします。 また、ヒラが生息する(世代を重ねられる)北限といわれる房総では、どうもヒジキの分布とヒラが連動しているようなところがあり、それより北上すると、海底の植生が一変して、ヒラもいなくなります。
 元々、同じ自然界に居る魚のネーミングもサクラマス等、他の事象の名が冠せられることが多く、季節的な連動はよくあることです。一部の植物が、もっとピンポイントでマッチしているのかもしれない。
 
 あの頃、取材を受けて、タックルボックスという雑誌にベルサイユのヒラ(ベルサイユのバラという漫画、宝塚の劇があったから)という題の記事になりました。編集方針が、ほとんど面白おかしく、ときに真面目という雑誌でした。質問に答えて出来てきた記事にビックリ。アンドレには参りました。
 
 あれから何年経ったのか…。近頃、家のバラとヒラが連動しなくなってしまいました。同じ場所に行っても、イナイ。どちらがズレたのか?今年は両方です。ヒラは陽気さえ良ければ、少数なら絶え間なく居る感じもあるけど、まとまって動いているようには思えないのです。抱卵も個体によって、数ヶ月も差がある。
 異常気象とか温暖化ですべて済ませるのは、まだためらいがあるので、もう少し先まで判断保留のまま通ってみることにします。ヒラスズキが我々と同じニオイを感じていると信じて。 

コラム…間合い、のこと【1】

 Gトレバリー狙いでは、使用ルアーが以前より全般的に重くなりました。100g以上のルアーがよく使われています。フルスイングしての遠投性や、アッピール力を求めて、タックルの強化を伴って定着しました。
 大きな魚を数多く釣りたい、道具の精鋭化は当然の要求でしょう。
 しかし、ごくたまに釣れる大型魚はランディングしやすくなった反面、多数のレギュラーサイズには、いささかオーバースペックである場合が目立ちます。
 かつて、GTやマグロなど大型魚狙いに遠征を供にした仲間達も、体力面の心配から次第にそうした釣りから足が遠のくようになってしまいました。最近のヘビータックルで投げ続けるのは勘弁してと言います。
 数投に一匹ヒットするようなパラダイスなら良いのですが、そういう所に行くには日数が要ります。若さと金と暇を同時に得るのは難しい。
 
 大物狙いを謳うソルティアシリーズにも130gまでのラインナップがありますが、今の私だと、このポッパーを丸一日フルスイングするとなると、楽しみより苦痛が上回るかもしれない。ここ一発、必要なとき数投ならば良いのですが。
 元々、純粋に私の設計したソルティアポッパーは170ミリ、80gだけなのです。これを作るとき、GTを釣るという主目的はもちろんのこととして、一日中投げられる重さは?、引き抵抗は?と常に自問しながら数値を割り出したことを覚えています。
 先の遠征から遠のいた人達もこれくらいのルアーに合わせたタックルだったら、また気楽に出来るだろうし、10kgに充たないGTでも充分楽しめます。それにはボートの操船も、同船者で打ち合わせして、無理なく届くところまで近づけばいいのです。
 理想の専用タックルも行き過ぎると、元気な盛りの、競争大好きな、体力上等の者しか出来ないハードルの高い釣りに成りかねないということです。本来、その気になりさえすれば誰でも出来る釣りでした。
 以上の事は、GTに限らず、マグロや最近のジギングにもいえるのではないでしょうか。ある船長から、ジギングルアー船の客足が落ちた、リピートが少なくなったと聞けば、理由のひとつにジグが段々重くなって、単純に釣りがキツクなったこともあるのではないかと思います。 かつて60gで釣っていた場所も、今は二倍以上のジグが普通に使われています。確かに船をポイント上に付けた直後が最大のチャンスで、最初に着底させた者が有利であり、重いジグが初見の魚を拾い易いのは事実です。乗り合い船で重いジグが流行るのは必然でした。ジグの善し悪しなどあまり影響しない一撃だからです。一人だけ軽いジグでは不利なばかりか他と絡んでしまうでしょう。
 でも、仲間内である程度統一すれば、もう少し軽くしても釣果にそれほど差があるようには思えませんし、魚のサイズに合わせたタックルが使えるようになります。
 
 昔、これと似た状況が、別のジャンルの餌釣りにありました。
 磯からコマセをカゴに詰めて、大型浮子共々遠投し、ヒラマサ、ワラサ、ハマチ、メジナ等を狙う釣りが流行りました。
 メーカーから挙って磯遠投専用タックルが発表されて、私も一式買ってみました。最新の遠投タックルには、すぐ結果がでました。従来品を使用している釣り人の更に沖合で、コマセをばら撒くので我々にしか釣れません。
 しかし、シーズン中にも皆が似たような道具を使い出すと、遠投合戦が始まったのです。また、それに抜け駆けするような投げ専タックル組も現れました。魚を抜き上げて曲がりもしない竿。引かないとか言ってぼやいていました。
 で、どうなったか?次第にコマセを追う魚は遠ざかって、終いに誰も届かなくなりました。当初から、磯際のフカセ釣り派からは批判を浴びた釣法でした。
 現在は必要なときの一釣法として落ち着いたようです。
 餌釣りには相変わらず学ぶことがあります。何故、鮎の友釣りはリールを使わないのか、号数で分けた磯竿の調子の必然は?一言でいえば、釣趣を求めて長い間に洗練されたのです。
 また別の言い方をすれば、「間合い」です。ルアーFは魚との間合いを計る釣りです。対象との適切な距離感を保つということなので、魚との、というだけではなく、ルアー選びも含め、それぞれの道具や釣法やアプローチについても言えることです。
 ルアータックルには、この辺りに気を使った製品はまだ少ないように思います。よく見渡せばあるのですが、人気が無かったりします。間合い、を無視して手っ取り早く魚を取り込むことに熱心なのはトーナメント用だけで充分です。
 何が、自分の釣りに合うのか、見付けるのは時間が掛かりますが、見付かればもっと釣りが楽しくなるはずです。