ルアー形状の進化?

今回はルアーのハンドメイドを楽しむ方々にも参考になる話を。
普段、ルアー作りに関しての質問は、色塗りの方法とか構造のこと、アクションとかのことが多いのですが、企業ヒミツに触れない程度には答えてきました。 その中でもルアー形状に興味がある方は、飛行機などマニアックな知識を持って質問してこられるので、答えに窮したこともしばしばでした。 そこで私の設計したものだけですが、図示して説明してみます。
一般的なルアーの、特にミノーと言われる種の基本形状は網羅していますから、後は応用ということになります。
しかし概念では判っていても、図6番に至るまで数十年掛かったことになります。いわば私の歴史(大げさか)。後の方が進化したと言えるほど単純ではありませんが、少なくとも前段階が無ければ次が実現しなかったのは事実です。  

飛ぶルアーをハンドメイドするとしたら。
◇1…この形を採用すれば、飛ばす方向、すなわち尾が太く重いものが作りやすいので、重心移動システムが要らないぐらい飛びに限っては有利になります。重く作れば山ナリキャストでも飛びます。システムが無いときに私も良く作りました。
欠点は、やりすぎると魚形状から離れることと、アクションが限定されます。これはジグミノーでも同様です。

◇2…ウッドMKF時代、これは海ルアーを作る前に、トラウト用四種を作る必要があり、需要に沿うようにと社の方針で魚形を死守することになりました。 鉄球が尾部に移動するわけですから、元々尾が太くなりがちなのを、相当無理してギリギリ細くしてあります。重心移動システムの穴を開ける作業に慣れるまで、特に初期は不良廃棄率50パーセントなんて時がありました。
さらに飛ばすための、尾部を太くする提案は見送られました。

◇3…ABS製BKFになると、ウッド時代に散々悩んだので、魚形を維持した上で尾を太くする方法を採用しました。 横から見れば明確な魚形、でも上からよく見ると頭と尾をほぼ同等幅としました。例外として125サイズだけMKFのように、どこから見ても魚形としました。細身で抵抗が無いので、そこまでする必要が無いだろうという判断でした。

◇4…Mシリーズになると、別の目的があったので(Mの欄に詳細)、中途半端なことをしていては軽いルアーを飛ばすことは到底できないと考えました。 それまで抑え気味だった方法論を解放して、なおかつそれが機能的な美しさと感じられるように配慮したものです。上から見ると、尾のほうが歴然として太く、頭部はナイフと言っていいほど薄く鋭いのですが、全体を見れば魚形を保つことに成功しています。
貫通ワイヤーを採用していないので、構造的にも制約がないことも幸いして、今見ても完成度の高いデザインだと思っています。

◇5…チューンドシリーズは内容、形状、コンセプト共、その名の通り様々です。統一した形を採用していません。

◇6…最新K2Fになると、飛ばす概念的なことはMで完成していたので、これをヘビー化すれば設計は簡単でした。しかし、せっかく二十年ぶりのBKFの後継として作るものとして、そうした安易さが自分で許せませんでした。何をもって今まで知識を溜め込んできたのだ、と。…
そこで再び、横から見ても、上から見ても魚形を維持することに拘ってみたのです。以前は仕方なく。今度は積極的にそれを求めました。
昔のプロペラ機ならともかく、現在の最新鋭ジェット戦闘機は、先が細くても空力が完璧なら安定して飛んでいます。 実を言うと、空力を追い求めていった結果の形の中に、当初美しさに欠ける部分が目に付き、困りました。それが、実験を重ね、これ以外の形には成り得ないと確信出来るようになると、やがて欠点が美しく見えて来るのが不思議でした。

こうして1~6まで見ると、結局、1を採用しなくても能力的には空力と内部構造バランスで同等となり、形状的には2のウッド時代に戻っています。(K2Fの曲面構成は遙かに厳密で複雑ですが)だから、見た目の形状には進化という物差しだけでは計れないところがあるのです。ハンドメイドでミノーを作るとき、こうしたごく基本的なことを知っていると自分の願うコンセプトに、より近づけるのではないでしょうか。

比喩として飛行機、プロペラ機、ジェット機とか使っていますが、例え話だけでなく、実際に形状概念がプロペラ機風なら、逆風は別としても単純に重い(この場合推進力)ほうが飛ぶのです。
今度のK2Fの多数のモニターさんのおかげで判りましたが、少数ですがK2Fより◇◇のほうが飛ぶと言うとき、ほぼ共通した原因があるのでした。(前記事参照、K2F‐Fテスト等内、「アンケートより…飛びを中心に」)
要は初速が与えられていないのです。初速そのものは原理的に引き抵抗が少ないルアーのほうが空気中でもより早く振る事が出来るので、有利になります。(フルスイングできれば)
ジェット機として設計したK2Fは、山ナリキャストでは順風でもない限り、本来の能力を発揮出来ません。直線的な軌道が鉄則です。それでこそ逆風、つまりその分、普通より空気抵抗の高い状態の中を突進することが出来るのです。
ベンチマークとして比較した飛ぶという評判のルアーに、逆風を含めた客観的なデータで越えたので発表したわけですが、越えすぎた分、デ・チューンして軽くしたぐらいなのです。

それは、飛びだけの不毛な、危険さえある競争をしないためです。
ジェット機に勝つには簡単です。ロケット、つまりルアーにとって推進力である重さを上げれば良いだけになるからです。(それでも水に浮くという制約内では困難ですが)。
かつて注意を促したことがあるように、重心移動システムで、考え無しにこれをやると故障が多発します。
ロケット、ミサイルは帰って来る必要がない点も似ています。ルアーは帰ってくること、それも帰り方が大切なものです。

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各地からK2Fでの釣果報告が届いています。
今回は以前テストでお世話になった、五島のシケマンさん(写真中)、クウルさん(写真上)から。 かの島とはいえ、条件的に厳しい中の珠玉の一尾と、祝いを共にした数匹。一言では言えないドラマ有り。

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