ふたつのシーバシング…自選エッセイ集より【4】

 今日、生まれて初めてメガネを買いに行った。ラインも漁師結びなら見えなくてもできるが、ビミニツイストとなると、もういけない。遠くの鳥ヤマを探しすぎたとウソブクのはもう終わりだ。レンズの先にあるラインはどこまでもクリアーになった。
 思えば、長い間シーバシングをやってきた。釣り関係の知人の多くが活動の中心を遠征や巨大魚へ移していくのに、私は相変わらずスズキが好きで身近な海をうろついている。
 いっこうに飽きないのは、たぶん、大きくはふたつのシーバシングの振幅の中で、自由にやってこれたせいだ。一方は独りで自然と対峙する釣り。もう一方は仲間と楽しむことが第一義の釣り。どちらが欠けても、ここまで続かなかったと思う。
  ◇多様なシーバシング
 そのふたつの釣りの話をする前に多様なシーバシングがあることを確認しておくことにしよう。
 まず、釣りに付き物の、釣果優先数釣り志向がある。誰だって沢山釣りたい。私も過去やってきたことだが、いずれ卒業して欲しいという願いはある。
 つぎにあくまで大物志向という人もいる。たとえ年一匹でもデカイのを狙ってという釣り。
 また、ポイント研究に興味が集中して、釣れないのを承知で通う釣りもある。私も、一場所スリーシーズンをめどに次々と移動していた時期があった。ポイントを熟知して釣果が安定すると、興味が失せ、ほとんど行かなくなる。
 まだまだ色々あるだろうが、シーバシングのよいところは、たとえば、仕事が忙しい人には夜、短時間とかそれなりの楽しみ方ができることだ。
 失業中の人には、そういうときしかできない釣りがある。
 全般的には、ベテランになり知識も豊富になった頃から、社会的義務も増して、釣行時間がとれなくなっていく。それを嘆くことはない。各人のおかれた状況でシーバシングのスタイルを変えていけばよいのだ。
 それには、自分が何を求めて釣りをしているのか、再考してみるのはよいことだろう。
  ◇仲間と楽しむ釣り
 ルアーを始めた初期の頃は、ほとんど独学で試行錯誤を繰り返していた。今となっては、笑える話も沢山ある。たとえば、自分の釣ったことのある魚が正式にはヒラスズキというのを知ったのは、かなり後になってからだった。
 当時、ルアーに詳しい仲間さえいれば、そんなことを知るのに何年もかかることはなかった。
 今は、共にルアーを投げる友人達がいる。教え、教えられ、かっての苦労がウソのようだ。今なら、スズキが全員に一匹ずつ釣れれば、それで満足できる。俺のほうが、ちょっと大きいななどと言いながら、笑いあえる。
 また、お祭りのように、たまには適度な競争や大会も楽しいが、いつもは、まだ釣れていない人がポイントから投げる順まで、自然に優先される。それぞれが、かって、数釣りを経験し、いいサイズの魚を釣っているので、余裕がある。せっかく友人ときているのだから、全員のヒットを願う、そうゆう釣りだ。
 ボートでの内湾巡り。広いサーフでのキャスティング。静かな月夜のウェーディングなど。それらは仲間と共にあれば、なお楽しい。
  ◇自然と対峙する釣り
 もう一方のシーバシングは危険を伴うから、万全の準備と経験と運がいる。ひたすら、昂揚感とか、自然との一体感を追求したものだ。
 これによって、友人が亡くなったりしているので、くれぐれも、一例として理解してもらいたい。
 それは、昔、某誌の小エッセイに書いたとおりの「外洋、荒天下、朝時、美背景、低磯上、逆風、波被り、単独、スズキ、ルアー雄叫び釣り」というものだ。
 説明すると長くなるので、文字上から、雰囲気を読みとって欲しい。今も変わらず、わたしの最も好きな釣りである。
 スズキ好みの日並みは突然やって来る。前夜の予報から、全知識と勘を頼りにポイントを割り出す。そして未明のあうとばーんを少々反社会的速度で走り、魚に近づいてゆく。
 釣りは大概において、行ってみなければ判らないものだが、まれに、前日から確信できるときがある。なにしろ、車に乗る前から、すでに釣れているのだ。知識と経験は、深まれば、快感と直結できるのである。
 いつもは、魚を釣った瞬間に興奮のピークがあるが、その時ばかりは魚との間合いを詰めていく全時間がピークとなりえる。
 そして、期待どうりの結果を海に返して、さっと帰るのだ。あとは夜も明けきり、通勤で混み始めた道を余韻に浸りながら、法定速度で仕事へ向かう。眠い目を擦れば、先ほどの濃密な数時間が夢の中の出来事のようである。
  ◇振幅の中で
 参考として、私の釣りの極端な2例を書いた。本人は、この間をバリエーションを加えて、行ったり来たりして遊んでいる。
 仲間と共にあるのも楽しいが、独りで思い切りわがままにというのもたまにはいい。経験を積んで、独りで釣ることができる仲間同志が集うことはさらにいい。
 こうしたシーバシングをしていると、飽きないし、年を重ねるごとに悦ばしき知識は増してゆく。本当の収穫の時は、まだ先にありそうな予感がする。
 最後に、特に独りの釣りはリスクをともなう。くれぐれも安全にはぬかりのないように、頼みます。
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1999年11月にエイムックさんの「実践シーバス攻略テクニック」に掲載されたものです。自分の釣りについて書いてありますが、今も全く、変わっていません。(^_^)40歳前後の当時は、迷ってばかりと本人は自覚していたはずですが、こうゆうことはブレていないようです。

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