禁断の重心移動システム…自選エッセイ集【26】

SW,岳洋社

10年前のエッセイ?を載せます。(これを書いたのは2000年、2月)
最近の市場に出回っている重心移動システム入りルアーの幾つかを見ると、また注意が必要と感じました。メーカーの設計者さんを含め、ハンドメイドを楽しまれる方も、読んでみて下さい。

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あと数年過ぎれば、K―TENシステムのパテントは、その権利期間を終える。それからは、誰でも、何処のメーカーでも自由に使用できるようになる。
そこで、そろそろ、お話しておきたいことがある。
既に、市場では様々な重心移動タイプのルアーがある。それぞれが、パテントに触れないように、形式を変えた重心移動方法を採用している。効果的なものもあれば、無いものもある。この先の発展が楽しみなものもあるが、中には、製作者の誇りを疑うものもある。
それらを見ている限りは、心配する問題は、まだ起きてはいないようだ。しかし、現在ではなく、この先のKーTENシステムには、やはり注意がいる。この方法を採用するには、ある自制心を必要とする。

パテントが解放されたときに、少し物理を知った設計者やハンドメイドを作る人なら、しばらくして、あることに気付く。
色々と試しているうちに、さらに飛ばそうと、錘を重くしたりする。ここまでは実に簡単なことだ。また、それに対応するように磁力を強めていくだろう。やがて、運にも左右されるが、とんでもないことが起こる。
十数年前、実験でフェライト磁石に比較して、遙かに強力なネオジュウム磁石を使っていたとき、それは起こった。 何個か作った内のひとつが、ルアーそのものの重量は変わらないのに、まるでターボがかかったようにすっ飛んでいったのだ。再現させようとして、何度も試すと、あるタイミングに限ってその現象が起こることに気付いた。しかし、それは数十回とは繰り返せなかった。
ルアー尾部の隔壁を突き破って、鉄球だけが遙か彼方へ消えていったのである。

磁力を強めていくと、当然鉄球は、なかなか離れない。現在販売しているものは、バックスイングぐらいの僅かな力で、鉄球が移動するようにしてあるが、これがもしもフルスイング時にひとさし指のリリースポイントと、タイミングが一致したらどうなるか。
磁力の制御が微妙だが、凄まじいエネルギーが一気に放出されることになる。 タイミングがあえば、加速力が重なって、ルアーは放物線を無視したような軌跡で、異次元の飛距離を見せる。これだけならけっこうな話だが、タイミングがずれればルアー本体は一撃で破壊されるほどの衝撃を受ける。
それではルアーが壊れないように作れば良いではないかと思うだろう。私も考え、緩衝材としてソルボセインなども使って試したが、現実的な方法が見つからなかった。それにこうゆうものはどこまでという歯止めが利かない。
プラスチックやウッド、または薄い金属ぐらいの材質強度では、経年劣化の分まではとても保ちそうになかった。
誘惑に負けるわけにはいかない。そこで私はこの考えを封印した。パテントで守られていたことも幸いした。
そして、その危険さを知り、初代KーTENは磁力を落として移動錘の設定を、さらに控えめにして発表した。……
ゴルフボールは叩くという違いはあっても、半径2mに満たないスイングで、軽く二百mは飛んでゆく。ただし、もしもラインが結んであったら、そんなには飛ばないはずだ。
ところが、投げ釣りの錘は、抵抗のあるラインを引っ張りながらも二百mを超える。半径3mのスイングエネルギーは適正な錘を、ライン無しなら三百m以上飛ばせることになる。
具体的な方法は伏せるが、磁石を応用して、ある解放装置を作れば、それを超えることも可能だ。〔これを書いた◇年後、容疑者Xの献身という映画の冒頭で、福◇雅◇扮する物理学者が強力な電磁石を応用した鉄球の解放装置を披露している。〕
これは、もうりっぱな銃器並みの破壊力といえる。まして、最近はタングステンすら使うようになった。
ことわっておかなければならないが、タングステンは磁着しないので、KーTENシステムでは使えないとされてきた。もちろん、使えないから苦言をいうわけではない。素材としての可能性はあると思っている。そこで、自らも、タングステン系の重心移動システムを作ってみた。 確かにタングステンそのものは、磁着しないが、現在の技術は、それに限りなく近いものに磁性を持たせることができる。私は、それを自制心をもって、比較的軽いルアーに採用した。(TKLMとM)いわば、メッセージとして、小さなタングステンしか使わないことにした。
タングステンというのは、兵器に使われる徹甲弾の材料でもある。弾頭を鉛に変えて、この堅く、重い材質にすると、その名のとおり、通常弾を跳ね返す装甲でも貫通できるという。その使用には、適材適所がある。  

ルアーフィッシングでは、フルスイングしたら、ラインが切れて、ジグがすっ飛んでいった経験をもつ人は多いだろう。だから、想像力が働いて、川などで対岸に人がいるのにジグやジグミノーをフルスイングする人はいない。しかし、プラグを投げる時は先に何があろうと、普段の飛距離で判断するから、フルスイングすることが多くなる。
これからは、本体強度を無視した過剰な重さの移動錘を使っているルアーなら、各自壊れたときも想定して、注意するべきだと思う。なにも難しくない。ジグと同じように、前方に何もないことを確認してから投げるようにするだけだ。
私も作り手として、いっそうの注意をしていくが、ルアー製作者の方々にも、万全の配慮をお願いしたい。(これは磁石使用のルアーに限らない。特に移動錘を使ったルアーは全て、度重なる着水の衝撃と紫外線による劣化を考慮すべき。)
釣りで怪我することは、絶対避けねばならない。
おわり。

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2000年、3月に(株)岳洋社さんの「SW」に掲載されたものです。
上写真は、K2F122の後内部。相当、気を使いました。
下写真には、反転した直後のK2F122が見えます。
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送って頂いた写真から、記念に。 ↓

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房総のSさんから。
混んでいる磯場から、ひらめきで旧ポイントへ。142にて。

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神奈川のMさんから。
河口から6キロ上流。フック3番。
アップクロスにて流芯の先に投げて
早めのリトリーブで潜らせ
流れに入るときにテンションを緩め
流芯の際で漂わせて。

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ありがとうございました。

Posted by nino