ミノーとしてのベーシック〔M88~M168〕

M148 重心移動のパテント権利が切れる頃、Mを製作する前の事です。今後の事を予想してみました。たぶん、各メーカーは、私が初めてその効果を手にしたときと同じことをやるだろう。すなわち、錘を重くし、移動する長さを限界まで伸ばしたものが作られることは明かでした。

二十数年前、初めてシステムを組み込んだ時、市販を前に数年に渡り強度テストを繰り返していました。破損が怖くて安全なところまでデ・チューンしたもの。それが初代K-TENです。今となってはいささか遠慮しすぎた感もありますが、それゆえ当時のルアーが今も現役で作動するのだと思います。それぞれ20%増量していたら、大変な事になっていたかもしれない。
後になって、雑誌に、こうすればもっと飛ぶようになるが、特にマグネット式は衝撃も最大になるので自制心が必要と、安全面から注意を促したことがあります。しかし、すぐ、もっと飛ぶようになるという部分だけを強調したルアーが出てきたので面食らいました。また、適当にシステムを組み込み、自ら、こんなものは使えないと負の部分を際立たせた論調もありました。さらに、とんでもないゲテモノも現れて、行く末が心配になったのです。

権利は切れても、始めに重心移動を提案したものの責任があります。また、重心移動そのものを守りたかった。それが、ニーズから少し外れたとしても、余力のあるうちにMシリーズを作っておくことにした理由のひとつです。
ユーザーからのチューニング希望を聞くと、K-TEN系すべて、もっと重くしてという声が数多くあり、反対に錘を減らして、もっと軽くしてということは極めて少ないのです。重心移動システムは確かにもっと遠くへという願いを実現させるものですが、本来、軽いルアーを重量をほとんど変えずに、性質を保ったまま、より飛ばすことのできるシステムでもあるのです。しかし、予想どおり、その後、軽量を謳うルアーは何処も作りそうにありません。これではあまりに一様過ぎる。行き過ぎです。

重量ではなく、あくまでバランスと空力を活用したルアー。軽いルアーの性質は、ときに大きな強みとなります。重心移動以前は、普通に使っていたタイプなのですから。
深度コントロールが容易くレンジのスピーディな変更ができ、アクションが独特。着水で魚を驚かせることが少ない。ライトタックルが使え、魚の力を引き出すことが出来る。等。
つい先日まで、当たり前のようにあった、飛ばないけれども良く釣れるベーシックなミノーに、洗練されたシステムが組み込まれたもの。重心移動が広まってからは当分発売されそうにないジャンルのルアー。
予想が外れたことがあるとすれば、当初、その万能性から初心者向きとした性質が、時代の変化で、むしろ状況チョイスのできるベテランにこそ相応しいルアーになったことです。

設計時に描いたMのイメージ原画

Posted by nino