貫通ワイヤーの今後

貫通ワイヤー

直メールで貫通ワイヤーについてのご意見をいただきました。了解を得たのでここで詳しく書くことにします。

私の設計したプラスチックルアーは、Mシリーズを除いて全て貫通ワイヤーを採用しています。

初期にコストの問題で8カンだった幾つかは、後年、貫通式に作り直しました。Mシリーズはコンセプトの中に、軽さ、があったので専用の横棒を挿入したアイにしてあります。

主な目的は想定外の魚が掛かったときの対応と製品強度のムラを無くすためですが、初期の雑誌記事の中で私は、自分の作ったものがゴミとなって海底に横たわるのはイヤだ、とも書いています。

もちろん、しっかり作った8カン方式のアイでも滅多に壊れることはありません。ご意見の中にも魚に壊された経験が無いし、必要ないのでは?特にBKF75にまで貫通ワイヤーというのは?価格が上がるだけでは?とあります。

 

しかし、たまにだからこそルアーが原因でせっかくのチャンスを逃したくないのです。例えば、BKF175のワイヤーは工業試験所の静荷重検査で200㎏まで耐えますが、それでさえ、しょせん金属、捻じられたり横方向に強い力が掛かり金属疲労が重なれば、20㎏ぐらいの魚に破断させられることがありました。また、ここブログ内、「思い出の一匹」にBKF90で24㎏もの魚を釣り上げた方がいます。想定外がそこそこ起きるのが海の釣りです。

それにしても75mmにまで貫通式とはオーバースペックでは? これには別の考えを追加させてください。

貫通式にこだわるのは強度だけではありません。プラスチック製(ウッド製も)のルアーはいずれ必ず劣化します。皆さんも海岸に打ち上げられたルアーを見たことがあるでしょう。中には何年も放置されてボロボロバリバリ壊れるものもあります。(原因は光、熱、水、化学変化等)

問題はこれに至る過程です。劣化していつ壊れて魚に逃げられるのか不安なとき、8カンに比べて貫通ワイヤー方式のものは最後まで実用に耐えるわけです。ルアーは壊れたらゴミとなります。嬉しい例外は、それまでに思い出を伴なえば飾ったり記念に保管されたり価値のレベルアップがあります。

そして釣りそのものが消耗品が多く、ゴミを発生させやすい趣味でもあります。これを自覚したとき、BKF140からですが、できるだけ長く使えるものを作ろうと誓いました。山屋出身のせいもあり、自然の中に自分の痕跡を残すということに痛みを伴うのです。

あのとき、コスト的な意見に押されていたら、30数年前のルアーが今も安心して使える状態ではなかったでしょう。K2Fを手掛ける前、あるユーザーから、もうルアーは押し入れに一杯あって一生買わずに済むと言われたとき、私の考え方だと、ルアーで儲けるなんて無理だとサトリました。

デメリット

貫通方式、特にフローティングでは、元々単なる飛距離や泳ぎの振動数には不利な方法なのです。何故なら限られた浮力の中で、ワイヤーを挟み囲む樹脂の重さ、ワイヤーそのものの重さ、丈夫に作ろうとする肉厚の重さが前提とされていて、重心移動できる錘は8カン方式に比較してかなり軽くなってしまうからです。

ボディを薄くして移動システム以外の構成物を減らし、移動錘に重量を集中させるほど、飛びや泳ぎの向上を図りやすくなります。しかし、私は重心移動を最初に提案したものとして責任があります。K2F142で強度を落とさず、錘を軽くしても飛ばす方法があることを証明した後は、これ以上の飛距離競争には参加するつもりはないのでご理解ください。

今後

コロナ禍が落ち着いてくれば、またエコとか、マイクロプラスチックの話題が再燃するでしょう。そう遠くないうちにルアーも問題視されると思います。環境問題は世の中全体のあらゆることが絡み合っていますから事は複雑です。リサイクルやレジ袋のこと、何が本当に環境に優しいのか、調べれば調べるほどに疑問が湧くことでしょう。調査がエントロピー関連までいけば見えてくるものもあります。

ひとつはっきりしていることは、物を長く使うこと、これに尽きるのですが、これには経済活動している多くの人が気に食わないはずです。大量消費しないので儲かりませんから。それよりも耳障りがよいのでレジ袋の何十倍もの水をつかって紙袋にしたり、何倍ものコストをかけてリサイクルしたり、製品代の何倍もの運送費を払って補助金を貰うほうを選ぶわけです。生分解の素材でも耐久性からすると使用先は限られます。

 

貫通ワイヤーは寿命を迎える最後まで長く使い続けるための私なりの現実的な答えです。

20年ぶりにBKF150の制作依頼を即答で受けたのも、もっと飛ばせとか、もっと安くとかではなく、魚に壊されると聞いたからでした。今度のTKLM140Gも最近作った新型ルアーの中では不利を承知で一番肉厚にしました。ガウス加速器で何とかしようと思っています。

自分の考えを追い続けることは、人に強要をしないでも異なる立場の人から見ればワガママと映るのでしょう。それでもめげずに30年以上貫通ワイヤーを続けてきました。もうしばらくの間、このまま行かせて下さい。よろしくお願いします。

 

写真下は、ウッド製とABS製(上から1番目、2番目)を15年以上庭に放置しておいたものです。ウッドコーティングは剥げ、ABSに陽に当たったところは白濁して脆くなっています。おそらく魚を掛けたら一発で割れるでしょう。でもワイヤーは健在です。まだ思い出を作る力は残っています。

 

Posted by nino