海岸線の話

また以前書いた記事を、自分への反省を込めて載せておきます。(どこに寄稿したのか失念してしまったので出版社さんゴメンナサイ)
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
海岸線の話

諸外国と海岸線の長さを比べれば、日本の総延長距離は、意外にもトップクラスだという。しかも、地理や気候的に恵まれて、人跡未踏の海岸線はない。人間が利用可能な、つまり、我々海の釣り人が入れる場所の長さは、実質、世界一かもしれない。
ただし、周知の通り、この数十年で、埋め立てや護岸工事によって、自然のままの海岸線は激減した。
都市の近辺は、コンクリートで埋め尽くされている。何かしらの所有権の付いた海岸線もその長さに含まれているのである。訳も分からないうちに、子供の頃の記憶の中にある海は一変していた。

さすがに最近では、環境保護の世論に押されて、一部の利権の横暴は許されなくなってきた。
例えば、命豊かな東京湾の三番瀬という干潟、浅場の埋め立て計画も大幅に縮小されるという。干潟というのは、生物はもちろん漁師にとっても、釣り人にとっても、聖域のような所だから、こういったことは歓迎できる。しかし、埋め立て計画は縮小であって、中止ではない。ジワリジワリ自然の海岸線は失われていくのは変わりない。(注、その後、幾つもの自然保護団体や、その活動に賛同した粘り強い人々の声が行政を動かし、埋め立て計画は中止となった。)
問題はこの一連の、計画の立案から、その縮小まで、ほとんどの釣り人にとっては、決定後に知らされるか、納得するしかないということのほうだ。出来上がってから反対することの困難さは、過去幾つもの例がある。

海そのものは日本国民どころか、人類全体のものという理念はあるだろうが、実際のところは、主に各国の企業体や漁師、そして我々レジャー派の三者が利用している。それも交差してだ。
例えば、湾内のシーバスポイントは正式には企業の敷地内ということで、立入禁止である場所が多数ある。
今は遠慮しつつ入っているのが現状だろう。釣り人の事故やマナー違反が続けば、より強力に排斥されてしまう。
また、職漁師は生活の場である海を釣り人に荒らされない限り、黙認してくれているといったところだ。
以前、ヒラメの放流に関わったときに一部の漁師達の本音に触れて、戸惑ったことがある。要は自分たちの海に勝手なことをするな、ということだった。
いかに大多数にとって良いと思われることでも、全く別の立場のものもいる。放流するということに、ヒラメ漁師は喜んでくれたが、ボラ漁師はヒラメを釣りにくる者が増えれば、車のライトで海を照らすことも多くなり、ボラが網に入らなくなるから放流すらダメだという。  ずっと連なる均一の海岸でも、所有権の存在もあるし、各漁協の管轄が区分けされているので、交渉は一カ所ではすまない。この時は、よく話し合い、挨拶にまわり、ようやく理解を得たが、権利が云々というよりも、人として向かい合うほうが解決が早かった。……
このように、我々の釣りは法的に、より優位な者の厚意か黙認というかたちの上に成り立っている場合が多いのだ。せっかくの厚意と黙認を今は大事にするしかないのだろう。
当面は、法の整備を待っても三者に都合のよい法令はなかなかできそうにない。
だから、せめて、それぞれの地元の海岸線の権利などがどうなっているのか、調べてみてほしい。何気なく入っていたポイントの問題を知っておくべきだと思う。そして、仲間にもそれを伝え、我々が海でどうすればよいか考え、三者が共存するためのマナーを身につけておく必要がある。
自然はみんなのものだからと、ノーテンキに構えていると、いつのまにかコンクリートの壁ができたり、正式な立ち入り禁止場所になっていたりする。

私の地元の九十九里浜では、昨年(注、平成十年四月)から、車両乗り入れが規制された。ハマヒルガオやコアジサシなど動植物を守るためだという。自由が失われるのは残念だが、こうマナーの悪い車が増えては仕方がないことだ。賢明な措置だろう。
そして、駐車場として、乗り入れ可能な区域も四十七カ所指定された。

私個人は、十年前から車で海岸に入ることはしなくなった。それまでは、海岸線最強の車、四駆で、軽く、タイヤの大きいジムニーに乗っていたのだ。
それが、海岸線のことを調べるにつれて、首都圏には正式に大手を振って車で入れる海岸など、ほとんどないことを知り、その車を処分した。
その後は、スポーツカーに切り替え、釣りの便利だけを追うことより、釣行全体を楽しむことにした。今はS2000。駐車場がないと、どうにもならない車に乗っている。
これ以上、自由な釣り場を失いたくないものだ。各地の釣り場がいつまでも保全されることを願う。終。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

これを書いてから今日までに、私自身が案件について何か出来たのかと考えると心許なく、多忙にかまけてささやかな事しか出来ませんでした。
その後、大阪湾の釣り禁止問題が起きたり、東京湾の海苔棚等でのボート禁止区域が拡がったり、堤防等の立ち入り禁止場所が増えたりしましたが、ほとんど傍観者になっていました。

今の私に出来ることは、このまま海のルアーフィッシングが存続するために、どのようなルアーを作っておけば良いのか、またどのような釣りならば事が起きたときに許されるのか、考え続けること。
正直に言うと迷うことは多いです。

昨日は十数年前Sパーティでお会いした船長と仲間で東京湾某所に行ってきました。海苔棚もあるけど、まだ禁止区域になっていない所です。
干潟もそうですが、古くからある海苔棚は、餌場として適度な水深と産卵場所に近いこと、巻き網漁が不可能等、好条件に恵まれた東京湾スズキの豊かさの核となる場所です。
例年この時期は最も簡単にランカーを釣ることが出来るので、ボートが集結するのは当然です。ただし、相当の自制心を持たないと、ここもそう遠からず禁止海域に入るかもしれません。(掲載の数年後に釣り禁止になりました)

私たちは、海苔棚ロープには間違っても引っ掛けないように沈む系のルアーは使わず、K2FとBKF175で通してみました。魚探でベイトを探ることで、海苔棚に近づかなくても、オープンなところでもヒットします。Sさんの175にはワラサも。
何度も50~60サイズがボート際で引き返すのを見ましたが、ルアーを換えずに続行していると、たまに掛かるのは全て80オーバーなので皆満足していました。ランカーが全員に行き渡ったところで帰港。

相変わらず素晴らしい場所ですが、ここで良い思いをした方々や業者は、これまでの過程と現状を心に留めておいて欲しいのです。次に行動すべき事は何なのかを考え、伝えるために。

Posted by nino