諸刃の剣…自選エッセイ集【24】

  ◇前置き
 次回の記事はお知らせとして既に用意してあるのですが、それまでちょっと間があるので、また古いエッセイをひとつ挟んでおきます。
 ブログ内に載せてあるエッセイの大半は“かなり以前に書いたもの”なのですが、私なりの理由があります。
 経験上、十年を経て今だに読むことが出来れば、その先十年経っても読めるはずだからです。私の書いたものの内、流行の時事ネタや自身にも理解の浅い事等が入ったものだと、当時の受けは良くても時代の流れは速く、今読むとピンとこないものもあります。
 だから時のフルイにかけて耐えたものを順不同でここに載せることにしているのです。
 釣りの世界に限らず、たぶん最近の自民、民主関係の喧噪も、十年も経ってから振り返ってみると、今の感想とは相当違うはずです。世の中、移ろいやすいです。また、だからこそ二度と無い現在の経験がとっても貴重なものだとも言えるのですが。
 
 前置きが長くなりましたが、以下のエッセイは、私がMシリーズを手掛けていた2001年に書いたものです。
 何から学び、何をしたかったのか、よく判ります。参考にして下さい。
 
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   ◇諸刃の剣
 
 一時期、海のフライフィッシングに凝ったことがある。もう、かれこれ十年になる。内湾のような静水域のフッコを釣るのは、スタンダードな方法と道具で、そう苦労はしなかった。船上からの目前にいる小型のシイラなどは、むしろルアーより釣り易かった。 
 予想以上に手こずったのは、得意なはずの外洋のヒラスズキのほうだった。なにしろ、風波のある足場の悪い所である。初めてフライをリトリーブしたときは、寄せ波のほうが早くて、デシーバータイプのフライが押されて開いてしまい、小魚のシルエットを保つのも難しかった。
 また、サラシの中では、根本的にアッピール力が足らず、ピンポイントを直撃しないと気付かれもしない。そんなときは、友人が隣でルアーを一投すると、簡単にヒットしたものだ。。
 そして、風波に踊るラインの扱いに手間取っていると、磯場に付いた貝やカニが、ちゃっかり蛍光色のラインを挟んで離さない。彼らは、適度な柔らかさとコシがあるフライラインがお気に入りなのだった。
 
 やがて、四苦八苦しているうちに研究も進み、意地もあり、どうにか何匹かのヒラスズキをサラシの中から引きだすことができた。
 結局、ロッドはシングルからダブルハンドへ、フライは、柔らかいながら、いかなる時もシルエットを保つタイプになり、よりアッピールさせるためサイズは十六㎝まで巨大化した。それを、あまりキャスティングしないで、ロッドの長さを利用して次々とポイントを叩いてゆく。それが一番反応が良かったのだ。
 ようやく見つけた、快適な方法のはずだった。はて、しかし、何か引っかかる。
これはどうも大昔からあるスズキの伝統釣法のようではないか。それに気付いたとき、熱が少し醒めたような気がした。
 ここまでに、私の背中に、どれくらいの数のフライフックが刺さったことだろう。今は、ルアーのほうが楽しい場合はルアーで(ほとんどだが)、フライのほうが楽しそうな場合はフライでと、こだわりはない。
 
 フライのヒラスズキについては、たった数年の経験ではあった。しかし、サラシから飛び出た三十回程のチャンスと、やっとランディングできた三匹からは、多くの事を教えられた。それは、現在のルアー作りにも生かされていると思う。 まず、三十回もフライに食い付いたのを見ているのに、釣れたのは、その十分の一。ラインが弛んでいたり、フックの位置や機能のせいもあるが、もしもルアーなら半数バラシたとしても十五匹は捕れた…。そう考えたくなるが、たぶん違うだろう。何故なら、フライには、どう見ても同じ魚が何度もアタックしていたからだ。ルアーなら、一度口を使った同じ魚が三度出ることは滅多にない。これに気付くまで、一見フライでの釣行日のほうが、運悪く魚がたくさんいると勘違いしていたものである。
 同じ魚が何度もアタックする理由は、単純だ。アッピール力が弱い分、スレにくいし、素材が柔らかく、口に当たっただけなら、餌かどうかの判断を保留している状態が続く。また、ピンポイントを直撃したときの着水音で、驚かせていないからだろう。
 これは、ヒラスズキだけに言えることではない。ポイント位置が正確なほど、着水には気をつかったほうがよい。バスで使うノーシンカーワームの効力も、まず警戒心を刺激しないからだ。また、マグロでも、ナブラの中に重いジグをズボッとさせた一瞬で、ナブラ自体を沈めさせてしまうときがある。クロマグロが、特に軽いミノーに反応が良い(釣り上げられるかは別として〉のも、こんなところに理由のひとつがある。
 よほど何かに狂っていないかぎり、頭の上に石を投げ入れられて、逃げない魚はいない。 …
 
 反面、注意しなければならないのは、魚との距離が離れている場合、例えば、三十㍍の深場からトレバリーをトップウォーターに誘い出すのは、それなりの方法があるということだ。それに、タイの漁法のひとつに、ヒモで繋いだ金属のカップを振り回して、カポーンと水面に叩きつけて呼び寄せるといったものもある。これとて、至近距離でやっているはずはないが。
 
 夜間の釣り中心だと目撃できるチャンスは少ないだろうが、投入したルアーが、いきなり魚の頭上近くに派手に着水すると、逃げてしまうことがある。それなら、どれくらいの間があれば食う可能性があったのか。また、どれくらい離れていたのなら気付かれもしなかったのか。
 当然、その分岐点の数字は相手にする魚やルアーの種類、濁り、サラシ、投入の仕方で変動するだろう。シイラなどは着水したルアーに、何十㍍先からブッ飛んでくるときがあるし、スズキはといえば、十㍍を越えることは稀で、ほんの数㍍までが普通だろう。
 一匹が釣れた結果には、極めて具体的な数字が隠れているように思う。それはリトリーブ中でも同様だ。海の釣りだと広いものだから、つい投げるのもいいかげんになりがちだ。魚との適正な間合いは、やはり、ある。少し注意するだけで、きっと今までなら釣れなかった魚に会えるようになる。
 
 着水音を含めたルアーの形態やアクションによるアッピール度というのは、諸刃の剣かもしれない。それが弱すぎると気付かれないおそれがあり、強すぎればワンチャンスをものにしないと後が続かない。
 それぞれを相応しい場所で使いたい。弱いならポイント直撃か、探る間隔を狭く連投する。強いなら、なるべく一投に気を使い、間隔は広めで、潔い釣りになる。魚に合わせて効率で選ぶも良し、好みの釣りスタイルに合わせるのも良し。そこにルアーの妙味もあるわけだ。
 
 ここからは、宣伝になってしまうかもしれないが、今シリーズ化しているMというルアーでは、アバウトに投げても魚を驚かせないように、またポイント直撃ができるように不自然な着水音をとことん抑えてある。
 水面でのインパクトという点では、わずか数ミリのカット面があると、かなりの衝撃を生ずる。それは着水した部分と反対側にあっても沈み込むときに発生する。だから、全体はもちろん、アイ取り付け部の形状にも留意した。リップ角度においては、サイズの大きいもの程、抵抗のないよう寝かせてある。シャロータイプでありながら、セオリーとは逆の角度にしてあるわけだ。
 これは、TPOによって、有利にも不利にも働く性質なのだ。望む結果は、我々のルアーチョイスと投入の方法にかかっている。

Posted by nino