ヌメリと花

生き物

五月からは、房総の磯は全体的に活性が高かったです。もちろん日並みに恵まれれば、の話ですが。今月いっぱいは、いけるでしょう。
暖かくなってくると磯周りでは、小さなアブが発生することがあります。こちらの活性が上がるのは困りもの。釣れないときに肌を露出させて昼寝なんてすると、大変なことになります。

さて、今回は日頃、不思議だなーと思っていることを。
釣り上げた魚を見て、なんて綺麗なんだろうと感心することがよくあります。外洋の魚は特に。

あたりまえの事のようですが、これの理由を説明することは案外難しいことに気付きました。生きているから体表の色が美しいとかは判りますが、それにしても体表に汚れひとつ付いていないのは何故か?

サーフで釣れた魚を砂の上にズリ上げたりすると、砂まみれになります。魚には独特のヌメリがあるから、暴れたりすると悲惨なことに。でもウエーディングしたりして水の中からそのまま上げると砂一つ付着していません。
それは透明度の高いトロピカルな海でなくとも、ここ九十九里のように常時細かい砂を巻き上げているような濁った海から釣り上げた魚も、やっぱり綺麗です。エラの中も鮮血のように赤い。
それどころか、水道水ですら付きまとうはずの水アカにも無縁です。
砂に潜る性質のあるヒラメやエイなども同様です。

一説にあるように、水中だから水と一緒に流れ落ちるという答えだけでは、どうも納得できないのです。それに、一方では体表を美しいまま保つには限度があることも見ています。湾内の一部では、明らかに汚れている魚を釣ることがあります。単なる物理作用ではないということになります。

同じようなことが、いつも見ている花や葉っぱにもあります。
雨風やホコリに虐められても、花の表面をよく見るとホコリやチリ、汚れといったものが、ほとんど付着していません。

試しに造花を、庭植えの花々の傍らに刺しておくと判りやすい。日が経つにつれ、鮮やかだった造花はごく普通に汚れてしまいます。フッ素系の撥水剤をかけておけば、雨による汚れは暫く防げますが、ホコリには無力。ワックスをかけた車でもそうですね。

もっとも花や葉に、汚れが付きづらい理由は、ある程度解明済みと聞いています。顕微鏡で表面を見ると非常に微細な突起が無数にあり、それが外界との境界にバリアーを張っているのです。これが無く滑らかだと、すぐ汚れてしまうようです。研究すれば、様々なことに応用できそうですね。水垢の付かない便器なんてものも出来るかもしれない。 …
魚の体表が汚れない理由は、これよりちょっと難しいと思います。なにしろヌメリですから。
空中でそれだけ取り出してみると、まるで接着剤。反撥水作用のある代物で、むしろ汚れを呼び込みそうですが、実際はご覧の通り。
どう考えてもヌメリには幾つかの特殊な能力がありそうです。細菌すら防ぐシールドを張りながら浸透圧の調整を邪魔しない、なんてゴ◇テックスも真っ青。
これも研究すれば面白いかもしれません。私は臭いの苦手なのでダメですけど。

たぶんヌメリは見かけ以上に速く体表から分泌し続けているような気がします。それで水に触れる境界面では、常に休まず化学反応が起きているのではないか?例えばごく表面、つまり古いほうのヌメリが少量ずつ分解されて落ちていくというようなことが考えられます。(資料を見たわけでも、習ったわけでもないので間違っていたらゴメンナサイ)
興味はあるのですが、生きたままの魚に水を掛けながら、まともな顕微鏡で観察することは至難です。

いずれにせよ、私の個人的な意見になりますが、最後に一言。
サーフでスズキを釣り上げたとき、たまに付いた砂を優しく払ったり、拭ったりしてからリリースする方を見かけますが、どうもそれは余計なことで、離すのならヌメリの能力を信じて、そのままのほうが良いと思います。

Posted by nino