ルアーテストのこと

新しいルアーを試作しているとき、自宅が海の側ということは便利ではあります。そのために此処に居るとも言えます。友人からは何時でも釣りが出来て羨ましいとも言われます。
確かにルアーの物理的な動きの調整をしたりするのには、常に海水が傍らに在るというのは有利です。

しかし、実際は近くだけで実験をすると、本来多様であるはずの海を勘違いすることがあるので、なるべく方々へ出向くようにしています。磯も河口も千差万別ですから。

試作ルアーを投げるときは、挙動を見ることと、静かに考察をしたいので殆どルアーマンのいない昼間です。それでも何処から見ているのか、しつこくルアーを投入しているせいか、たまに翌日からルアーマンが先行して投げていることがあります。
其処がポイントなら良いのですが、実はテスト最終段階になると、釣ることより試作ルアーの紛失が怖いので、敢えて余り魚が掛からない場所を選んでいることが多いのです。
今更、そこはポイントではない、と言っても良いのか悪いのか?悩んでしまいます。

また製作側特有の事情として、どうしても投げるのは今開発中のルアーが主になります。現在のように実験対象がK2Fの大、中なら自分の普段の釣りに当てはまり気持ち的にも問題ないのですが、これがかつての175やトレバリー用、はたまた内湾向け75等、普段ならその場でチョイスするはずのルアーサイズとは極端に離れたものを投げ続けねばならないときは、たまに困った事が起きました。
例えば、それが大きなルアーの時、秋ならともかく、小さめなルアーも用意しておきたい春なども通して投げ続けるので釣りそのものは、いらぬ苦戦を強いられる事があります。
トップ開発中の年であれば殆どそれのみとなりますから、ルアーに合う場所を新たに捜したりもしました。
製作にあたって本当は完成品を何シーズンも確認したいのですが、それを真面目にやると、それこそ一本のルアーを作る度に十年は費やすことになってしまいます。現実的ではありません。だからそれを僅か数シーズンで形にするために経験やノウハウを蓄積しつつも相当無理をすることになるのです。

面白いのはそうやって強制的に、つまり自由にルアーチョイスが出来ず、それだけしか投げられない立場に自ら追い込むと、自分でも意外な結果に恵まれることがあります。それはルアーに対する頑なな思い込みを融かしてくれることにも繋がりました。
例えば私が外洋で釣った、一番小さいスズキは小ルアー使用時ではなく未だに開発年の175によるものです。そして数はともかく年間を通すと型にはとても満足した年でした。
またトップ開発年では、磯でも反応の良いときが予想以上にあることが判ったのも収穫でした。必要なら、年間トップだけでも、楽しむ方法はあるものです。
もうひとつ私が設計した中で最低サイズの75の時は、外洋近くの自宅から高速道路で東京湾へ通うことになり、かえって大変でした。それに殆ど75のみで年間通してみると……これは想像したとおりでした。数には恵まれましたが。

このところ穏やかな日が続いてテスト日が不足がちですが、ロッドを持たずとも海岸に行って、今度のルアーの性格付けを考えたりしています。142が過酷な条件下で活躍する設定だから、これは…少し優しい性格を持たせようと思います。

Posted by nino