リクエスト…続リリース方法の確立を願って

岳洋社

静岡県の玉手箱さんからのリクエストです。
はじめに。
2000年の夏に、(株)岳洋社さんから、シーバステクニカルノートテイク2という別冊が発刊されました。
その中に、題の内容の記事を発表させて頂きました。実は96年に旧アングリング誌の記事へのアンサーという形にもなっています。
どちらも古い記事ですが、内容は今でも充分通用します。
昨今は、◇◇グリップ等、道具の普及や、多くの方々の努力で、当時より確実に良い方向へ向かっていると感じています。そのかわり、急激なソルトルアー界の変化もあり、この件について、各世代間や経験度合いを越えて落ちついた意見交換ができる場が、案外少ないようにも思えます。
ちょうどよい機会ですので、ベテランの方には確認をお願いして、そして、これから長くソルトルアーを楽しむ若手には、ここに至った経緯を知って欲しいと思います。
これらの知識と意見を得るには、志ある者が、労力と金と熱意をもって、何年もかかりました。私でも、証拠が足りないからもっと、と言われても、そう簡単には繰り返せないのです。
しかし、ただの一意見としても我々だけの知識にするのは、もったいないので、批判なり、反論なりを含めて、皆さんの考察の一助になればと思います。
では下に、訂正無しで、全文掲載します。(長い文章なので覚悟してネ。)
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☆続リリース方法の確立を願って
リリース全般についての私の考えは、以前SW誌の方で話したとおり(エッセイ3の【23】リリースと食べること)なので、ここでは確実に生かすための魚の扱い方を考えてみたい。
先日、インターネット上で魚の低温火傷(?)について話題が上がり、若いルアーマンに魚の扱いに迷いがあることを知った。中には勘違いの意見もあったが、それぞれが心優しいルアーマンであることは疑いようがなかった。
話題の発端は、どうも私が某A誌96年10月号に書いた「リリース方法…」の一文にあるらしく、それが4年半を経て一人歩きして様々な曲解を生んでいるようだ。責任を感じると共に、そのことを真剣に考える人が増えたことは嬉しくもある。
甘いと言われようと、私には当時よりは現場での魚の扱い方は改善方向にあるように見える。できることなら、現在も続行中の研究が目標とした成果を得てから発表したかったのだが、5年たってもまだ試行錯誤の状態である。せめて、この間に解った事だけでも参考になればと思う。
◇要約
まず、あの記事を読んだ事のある人はもうベテランと呼ばれる年齢であろう。一応次ぎに要約してみるが、この話題が初めてという方は、できれば先輩に頼むなどして、なんとかあの雑誌のバックナンバーを読んでみて欲しい。(なんと別会社の本を読んでというわけだが、本誌の編集長は太っ腹だから大丈夫だろう)
5ページ分を要約すると、こうなる。
ヒラスズキの生態を知るために、仲間や専門研究者と共に、魚の捕獲から始まった。準備に数年かけ、方々で釣った魚を無傷で研究所の水槽に移した。
ところが、安心したのもつかの間、傷ひとつない魚体に翌日から数日後に、捕獲時に触った手の跡が浮かび上がり、日にちがたつにつれウロコがとれ、血がにじみ、やがて一月もすると皮まで溶けて無惨な状態になってしまった。生態研究以前の問題である。
また、腹部分を持ったり、押さえたりした魚体は当日元気でも、その後急速に弱る。解剖すると内蔵に出血が見られた。 問題は主に触った手の温度と魚との温度差にあるらしく、春から初夏とはいえほんの一秒程で影響の現れたものもいた。捕獲後しばらくは綺麗なので、当事者も信じたくない結果であった。今までの自分のリリース方法を省みて愕然とした。 そこで、全く触らずに、口の薄皮に大型ストリンガーで穴を開けて捕獲してみるとダメージが少なかった。
それらの結果を写真数点と共に、生かそうとリリースするなら、各自再考し、方法を確立しなければならない、と書いた。
◇反響、その後
発売日になると、早速、質問と反論が相次いだ。匿名の者からは夜中の2時まで電話が鳴り続いた。
実は、発表前に、せっかく定着してきたタグアンドリリース活動に、水を差すことになりはしないか心配し、有識者と相談していた。それで行き過ぎのないように内容をヒラスズキに限定し、まだ少ないデータと寄生虫の話は誤解をまねきそうなので伏せた。生々しいカラー写真は白黒にして発表したのだった。
それでも反論は続いた。ある程度予想はしていた。なにしろ、あの結果に最初にショックを受けたのは、私や関わった仲間なのである。自分たちの今までのリリース方法を否定されたような気がして、魚を大事に扱ってきたと思っていた人ほど認めたがらなかったのである。
仲間の内の一人は本気で悩んでしまい、何時間もありのままを知ることの大事さを話し合った。
応援してくれる方々も多かったが、反論は私の筆力不足ということで、できるだけ答えてきた。幾つか例をあげると、 たまたま釣った魚がそうなったからといって、全部がそうなるとは限らない。 自然環境と水槽とは違う。そのまま放していれば生きているかもしれない。
理由はともかく、とにかく放していればよいのだ。少なくとも生きる可能性はある。
データが少ない。もっと証拠を見せて。といったものがあった。
これらの疑問は研究初期に私も感じていたことなので気持ちは解る。もう一度、又聞きではなく、私の書いたものを落ち着いて読んでくれとお願いして、真意を理解してもらった。リリースすることが無駄なんて、けっして言っていないのだ。 また、実際に見てみようと、手伝ってくれた人の中では、優しく取り込んだつもりのヒラスズキが数日後死んでしまい、自分で納得するために、数ヶ月後再び重いクーラーを1㎞も運んで捕獲してきた。触らずに水槽に運ぶことの大変さを知るだけに、この人には頭が下がった。
このヒラスズキは捕獲時52㎝1.57㎏で、現在は65㎝3.48㎏になって今も元気に生きている。体型も申し分ない。自然海水を循環させている水槽は完璧に働いている。…
◇追加報告
あれから5年近くたつ。かって、私の書いたことに訂正するところは特になく、追加するのみである。
捕獲時にダメージの少なかったものは、研究者の根気と努力の治療で今も生きている。雌も雄も数匹ずついる。43㎝921gだったものは、59㎝2.24㎏になった。ただし、この成長は参考にしないほうがよい。その体型から水槽内の環境は良かったとするだけで、自然環境下ではもっと早い。
理由は、外洋で捕ったヒラスズキは、他魚並みに人前で規定量の餌をとるまでに、なんと2、3年かかったのである。性質が極端にナイーブで、タイやヒラメ、マルスズキが数週間で遠慮なく餌をとるのに対して、この魚だけが拒み続けた。
絶食が一月も続くと致命的だから、その間隠れて、最低限の餌だけをとっていたようだ。自然界と同じように物陰から反転するように食う。
南日本の河口で捕れたヒラスズキはいくぶん慣れが早かった。捕った場所で性質が異なるところもおもしろい。
不断の観察を続けてきた研究者の報告では、たまに少量の麻酔を海水に溶かして、魚体を調べたところ、程度によるが指一本分の溶けた皮は、いずれ治りウロコが再生してくる。ただし5年近くたっても、ウロコが小さく不揃いで、跡はよくわかるという。
実釣でも外洋では極めてまれであるが、傷の治った跡のある魚を見ることが出来た。それにしても、治った跡がわかるとすれば、釣った魚の中にその数があまりに少ないのは何故か。
◇寄生虫 (及び海生甲殻類等)
我々の海の中のイメージといえば、テレビや写真の影響からか、透明な海水の中で魚が悠々と泳いでいるといったものだ。たまに、死にかかった海のヘドロなども映すが、誰も好んで濁った海には潜らない。数m先が見えない海中は映像になりにくい。
私は大部分をしめる、もう一方の海の中をあのときまで見ていなかった。本当の自然環境下を知ろうと努めて、あちこちを訪ねた。漁師が地方名でイヨという寄生虫の話をしてくれたので、春から初夏に外洋の職漁船のタイとヒラメの網上げに同船してみた。はたして、体表の傷ついた魚は実際どうなるのか、その一例をこの目で見てみようということだ。
現場について、網上げされた魚の体表には網にかかってからの時間が長いほど、マッチ棒の頭ぐらいの寄生虫がビッシリと取り付いていた。売り物になるものを手際よく分けながら、季節と海域によってはいつものこと、と漁師がいった。
よく見ると、体表の傷ついたところ、肛門、エラといったあらゆる穴から入り込んでいる。網に絡まって身動きできない魚などはピクピクしているのにすでに内臓が食われて無い。一日で白骨化しているものもある。タイ、ヒラメと食いついて、エイ、鮫は後回しのようだ。
研究者の言葉で、この水槽内は寄生虫と雑菌がいない分、自然環境下よりずっと優しいと言っていたことを思い出す。
その後、浜でもウェーディングして確認してみたが、特に外洋にいるものが素早く取り付いてきた。健康な魚ならこの寄生虫も反対に餌にするはずだ。
豊かな漁場というのは、すべてを含めて活性が高いということだった。これらを見て、魚の粘膜がいかに重要かをあらためて思い知らされた。
◇確認
私は低温火傷とか尾が腐るとかの不確実な表現を使った覚えはないのだが、いつのまにか言葉が一人歩きしてしまった。 実際のところ、まず温度差と体表に触れている時間が問題であり、手や触れるものの温度と、水温の差が開けば開くほどダメージの現れるのが早いし、深部に及ぶ。
たとえば、初夏の磯で温度差が20度以上あったときのものは一秒触れていただけで翌日から影響が出始めた。写真撮影などで10秒持ち続ければ、一ヶ月以内に皮まで溶けるといったところが実感だ。先ほど書いたように、肉の露出は海の中では致命的な場合がある。
ただし、これは外洋のヒラスズキについてである。マルスズキはもう少し強い。
私の責任において魚の温度差に対する体表の強さに順番を付けると、弱い順に、アジ類、メッキ「ロウニンよりカスミが弱い」ヒラスズキ、マルスズキ、タイ、ヒラメ、ハタ、イワナ、コイといったところか。ウロコの大きさは関係ない。底物は案外強いが、それでも淡水魚より外洋魚のほうが弱い。パワーとか見かけではない。コイはともかく、実験してみるとイワナはけっこう強かった。
たぶん、淡水などの閉鎖された環境では、短時間での水温の上下が海水より遙かに大きく、少々の水温変化では他に逃げるわけにもいかないので、元々適応力があるのだと思う。
対して、特に外洋系の魚は、わずかの水温差で移動してしまうし、また逃げられる場所でもあるわけだ。わざわざ適応する必要がないからかもしれない。
◇具体的方法
温度差が問題なら対処方法も見えてくる。確実に生かしてリリースしたいと思うなら、海水中でペンチ一発で外すことが一番だが、写真を撮ったりするために持つ必要がある場合は、下あごを持つか、下あごの薄皮にギャフを通す。(もちろん、その後普及した◇◇グリップ類でもOKです。)
口周りの傷は治りも早いし、寄生虫の心配も少ない。
体を持ちたい場合は、濡れた手袋でヌメリを取らないように、口と、肛門より尾側に手を添えるぐらいにする。タグを打つ場合は、海水上か、温度差を考えた滑らかな物の上で素早く、しっかりと打つ。
それと、腹に手をあてて、内蔵部分を凹ませてはならない。地上の動物とは違って、元々均等の水圧下でしか生きていけない体の構造なので、一部分の圧迫は想像以上にダメージが大きい。大型程、自重で内臓がやられる。
また、バス持ちといわれる口の持ち方も同様で、後々まで口をアグアグして回復が遅れてしまう。
反対に思ったより強いと感じられる報告もあった。小型で釣ってすぐ濡れた新聞紙にくるんで海水のないまま手早く水槽に移したものは生き抜いたと聞いた。
季節でいえば冬前後はあらゆるものの温度差と寄生虫の観点から、スズキのリリースには都合がよい。もっともリリース後の生存効率がよいと思われるときに、産卵期というわけだから複雑な気持ちも残る。
厳しいのは細菌のこともあり、やはり夏前後だ。かといって、夏場のリリースが無駄といっているわけではない。方法が解った今、ますますトライしてみようという気持ちがある。 それには、暖かい季節ほど濡れた手袋をするなど、いっそうの配慮がいる。
ちなみに、低温側には魚の体表は耐性があるらしく研究現場ではしばしば冷やした海水で麻酔の代わりをするそうだ。
◇イメージの修正
セラピーの中には動物に触れて、心を癒すとかいうのがあって、テレビではイルカセラピーというのも見た。イルカはなで回しても平気なのであろうが、あれを見た子供が、かわいいからといって普通の魚をなでたらどうなるか。子供に罪はないが勘違いはいずれ正さねばならない。
あと、魚は死ねば沈んでゆく。この事実は案外重要である。私たちが海を美しいと感じるのもそのおかげだ。しかし、勘違いも助長しているのだ。たまに、死んだ魚が浮いているが、それは、2週間ほどでガスが溜まって浮くまで、カニやエビや寄生虫から逃れられた個体である。または、急な酸欠などによって、海そのものが死んでいるときだ。その場合は食らうほうにも活性はない。たいていの魚は死んだら我々の目に触れることはない。
◇まとめ
以前は現象そのままを書いて、判断は読む人に任せる方法をとったが、あまりにも質問が多かったので、今回は立ち入ったことまで書かせてもらう。
実際の海の中のすべてを見ることは誰にも出来ないので、様々な意見があるのは当然だが、唯一断言できることがある。 それは、死ぬか生きるかの分岐点があるのは確実ということである。
私の見てきたことが、たまたまそうであっただけという判断をされてもかまわない。一例でよいのだ。
重要なのは、生かそうと魚を放すのなら、なるたけ手で触る時間を一秒でも短くすることによって、必ず、分岐点が生きる側に近づいていくことである。
かつて私も今までやってきたことを省みて、途方に暮れたものだ。でも今はむしろ晴れやかな気分である。この5年の間、いつも完璧にリリースできたわけではないが、かなりの魚は確実に生きていると信じられるようになった。以前は信じたいという気持ちはあったが、どこかあやふやだったのだ。
間違ったイメージに囚われた希望的、楽観的な考えだけでは魚にとっては迷惑というものだ。前進するためには見たくも聞きたくもない事もそれが本当なら消化していくしかない。
◇最後にお願い
こんな事を書いてきた本人もほんの5年前までけっこういい加減なリリースをしていたことになる。書いてきたことをすすめはするが強要するたぐいのものではない。そして、安全上の事もあるからあまり無理しないで、できるだけでヨシとしようではないか。
また、余計なことかもしれないが、他人や雑誌などの写真の魚の持ち方を高圧的に非難し合ったりするのは短絡的に過ぎる。ルアーマン全体はどんな持ち方をしていようと、気持ちの上では他の分野よりよほど優しい仲間なのだ。まずは、身近な仲間にすすめてみてほしい。
魚に優しく接するぐらい、人間や仲間にも優しく、といきたいものだ。
日本は釣りのルールという点では欧米を参考にしているが、世界を回って見てみると、放すにせよ、食べるにせよ、国民全体としては、この国ほど魚そのものに対する思いの深い国は少ない。その思いが良い方向に向かっていくことを信じてみたい。
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長文、読了ありがとうございました。
今日ではネットもあり、様々な専門家の意見を調べられると思います。至らないところがあれば、ご指摘よろしくお願いします。
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ひとつ訂正しておきます。文中、寄生虫とありますが、正確さに欠けるようです。それだけではなく、海生甲殻類、例えばスナホリムシ等も含まれます。調べてみると、けっこうポピュラーです。

次記事『感想と返答」に続く・・・

Posted by nino