手作り穴開け道具

ウッドK-TENが廃番になって五年近くが経ちました。そのまた一年ぐらい前までは数あるシリーズ全部の穴開けという行程だけは、直接私が作業していました。
四十行程以上ある作業のうち、重心移動システムの要である穴開けだけをするために、成形したルアーを自宅まで送って貰っていました。
組み上げると外からは見えないため、人任せに出来ない箇所だったからです。

今のABS製ミノーには、当然のごとく組み込まれているシステムでも、相変わらずウッド製量産品では見かけません。とても採算が取れないからでしょう。
たまにハンドメイドを楽しむ方がトライしていますが、多くは木を二枚貼り合わせる方式のせいか量産には苦労しているようです。
私も個人的に作っていたときは、二枚の板それぞれに球が移動する部分を、あらかじめ掘っておき、貼り合わせる方法でした。
しかし、この方式は左右のズレが生じやすく、満足のいく精度で量産するには相当の機械設備を用意する必要があります。そこで、考えた結果、成形したルアーの頭部と胴体をいったん二分して、胴体に縦方向の長い穴を開けることにしました。
これなら設備にお金を掛けなくても、工夫と技術とアイジョウがあれば可能な作業です。

しかし、始めた当時、ミノーは元々細いうえ、尾に行くに従って更に細くなるのですから、そこにドリルの長さいっぱいまで縦穴を開けることは非常に難しく、笑えない数の不良品が出ました。
せっかく成形したウッドを壊しての失敗ですから二重のロスになります。ウッド本体が設計より僅かでも細いと、最大で50パーセントの廃棄率が出たときもありました。

写真の装置は、これらの失敗をクリアーするために、ありとあらゆる工夫をして出来上がったものです。
機械精度そのものは最初に使っていたもののほうが高く大柄で、カッチリ固定ができ、ドリルもブレず、完璧に近いものでした。ただし、削る相手が細くはなく、木目の無い均質な材料に、短い穴を開けるだけならば、です。
実際は、細くて均質でもなく、手作業で成形したウッドのサイズ自体が厳密にはバラバラなうえ、木目があるので深い穴の途中でドリルがたわみ、逃げてしまうのです。一瞬で横からドリルが飛び出しオジャンです。…
これを解決するために、全角度方向に可動可能で完全固定ができる受けジグであることはもちろん、必要に応じて1ミリ程度任意に回転中のドリルを横移動できる装置にしました。
ドリルの先が思わぬ方向に逃げようとしたとき、エイヤッと力を込めると、あら不思議、ドリル先が方向を変えるのです。こうして開けた穴を光にかざして見ると、尾に近い穴の奥はうっすらと明るくなっているほどギリギリなのです。

そして、運良くシステムを組み込むことが出来た胴体と、頭部をエポキシ接着剤で元に戻します。これは本社での行程になります。斜めカットなのは接着面積を確保するためです。(ラスト一年間は機械で成形したものがあり、そのカット面は垂直です。)
木を分断してあると、強度的に不安になりますが、実験をしてみるとメリットのほうが多いのです。
木は木目に沿って微細な穴がたくさん開いていますから、ルアー前後の間に一枚の防水壁がないと、使用時の僅かな亀裂から水分が浸入して、移動鉄球が早めに錆びてしまうのです。
他に錆び対策としては、穴開け後に135サイズで100本あたり、アロンアルファ20CCを注入してあり、乾いた後、再度穴をドリルで磨いていました。 今だから笑えるのですが、水分と反応して硬化するタイプのアロンを大量に使うと、その白いガスで飛んでいるハエさえ落ちてくるほど強烈な刺激臭があります。誰もがやりたがらない作業でした。

初稼働から二十四年。埃を被ってからは六年経った装置…。邪魔なのに未だ片付ける気にならないのは、時々昔の自分に会えるからです。歳と時間を経て、全てが向上したわけではないのです。どう見ても衰え、失いかけていることもあります。そういうことを他人は教えてくれません。だから昔の自分に今の自分を見張らせて、ときに叱って貰っているというわけです。

また何処かのメーカーがウッドのハンドメイドで重心移動ミノーを作ることはあるのでしょうか?ざっと見回すと当分は無いような気がします。まともな物を作ろうとすると高コスト、非効率、反量産性の塊だからです。

それどころか、ウッドハンドメイド全般、高効率と品質の安定を目指しているせいか、旋盤で加工できる形、つまり材料を回転させて削れ、成形ができ、机の丸い足の一部のような形のものが増えているようにも見えます。
ヘタをするとK2F一本組み上げるよりも速く成形できそうなハンドメイドもあります。
ウッドハンドメイドには、それにしか出来ないことがあるはずです。
私はつい作り手のほうから見てしまうので塗りの美しさだけではなく、もっと手が掛かっているようなハンドメイドを見てみたいと思っています。

Posted by nino