Rユニット…TKR130について

今回は、アベシゲルさんからのリクエストでTKR130M(H)について、です。
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このルアーは、2002年5月、チューンドK-TENとして2番目にリリースしました。一番目がTKLM90ですから、このシリーズのコンセプト、オンリーワンに、いかに忠実であったのか解って頂けると思います。
市場に当時としては斬新なTKLM90が、そこそこ受け入れられたおかげで、長年暖めていたアイデアを実現できることになりました。今、振り返っても、そのサイズ、姿、動き、高コストからして、あの時しか出来なかったルアーだと思います。

このルアーの目的は、ウォブリングとかローリングとか、いわゆるルアーの動きを根本的に変えることでした。
それまでのリップ付きのミノーは全て、ルアーを強く引くと必ず動きが大きくなります。早く引けばウォブンロールの振動は速まり、やがて暴れます。私は長年これをコントロールすることを考えていました。
実際の小魚を観察すると、身体をくねらせて尾を振り、推進力がつくと後はスーッと惰性で流すように移動しています。 ルアーのようにスピードを上げる毎に派手になるのとは真逆と言ってもいいぐらいです。(注、それでも釣れているのはルアーの違和感こそ武器に成り得ているからですが)
この性質はルアー形状を工夫することとテクニックで、ある程度の再現は可能ですが、目指すものにはほど遠いものでした。

そこで、自然観察で得た魚の動きを再現するために、まず一度、ルアーの見掛けは勿論、大きさや釣るという事まで忘れることにして、唯のひとつの物体として研究してみたわけです。速く引けば引くほど動きが止まる物体のことを。
それにはジャイロが有効だということが解りました。古くは地球ゴマというオモチャ、外郭は静止していても内部が高速回転しているので倒れないコマがありました。要は安定を図るための機構で、二本足ロボット、二輪車など様々な分野で応用されています。
問題は、ルアーにはそれらにはあるモーターとかの動力が無いことでした。ジャイロを動かすにはウォブリングなどのエネルギーを使うしかないことになります。そうすると、引き始めのウォブリングを巧く回転力に換えて、ルアーの動きを中和出来るとしても、その後はどうなるんだ?と次から次へと疑問が湧いてきます。
この辺の説明は実験とか計算式とか面白くないものが多いので割愛しますが、どうにかルアーの動きの中心位置から、どれくらいの距離に装置があれば、またどの角度であればジャイロが働くのか解りました。超デカイ、妙な物体の完成です。とても小魚には見えないけれども、少なくともその動きには満足しました。
しかし、これを魚形に近づけるのが厄介でした。また、ルアーの前部に重量物を置くので、飛びには最悪の配置です。しかも、ルアーの重心位置を中心として、ジャイロと反対側、つまり尾の側に重量物が対置されるとジャイロが働かないのです。
それ故に苦肉の策として、飛ばすためというよりバランス取りのために球一個だけの重心移動システムになっています。もしもシステムが無かったら、非常に投げづらい実用に耐えないルアーになっていたでしょう。…
そして実釣試験を経て出来上がったのがTKR130M。昔ウッドで一個だけ作った試作機から何年を経たのか記憶が霞んでいますが、ようやく形になったのです。私にとっては、動きの両極を手にしたことの意味は大きく、それは今後、両極の間を必要に応じて自由に行き来できる、ということなのです。
Rはロータリーユニット(ジャイロ)の略。Mはミノーの略。Hはハイファイリップレスの略です。姉妹品の130Hとはユニットの重量、形態とも異なり、見掛けは似ていても性質は全く別物です。

引き始め、ゆっくり動かすとウォブンロールですが、徐々にスピードをあげてゆくとRユニットが作動してS字状にスーッと流れるような動きに変化します。動から静へ、普通のルアーとは逆です。
使い方は、この変化ポイントを把握するのがコツなのですが、ある程度見晴らしの良い足場で自分のリトリーブとルアーの動きを感覚的にリンクさせておかないと能力を充分引き出せないので練習が必要なルアーなのかもしれません。
このルアーを使うと、魚の反応がちょっと変です。本当は、釣れない魚が釣れて、釣れていた魚には見向きもされないというぐらいの劇的な効果を期待していたのですが、其処までの差はありませんでした。
ただ、このルアー故なのか、あるいはいつもの自分の引き方とは変わらざるを得ないためなのかヘンなことが度々起こるのが面白いです。それは、このサイズと潜行深度を使える状況下で、いつものポイントで釣れると判ります。

現在このルアーは、その格好、サイズ、マニアック度、操作方法等、ハードルの高いルアーなので、各地で少人数のファンに支えられているルアーとなりました。
小型化を求められてもいますが、精度やコスト的に無理があり、当分実現しそうにありません。でも、これで得たノウハウは以後私の設計したルアーに生きています。例えばK2Fにも簡易型のRユニットを採用してありますが、現行の回転体の質量を上げると130Mの性質が垣間見れます。
今後の実験で、青物にベストなものがあれば発表の機会もあると思います。

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中写真は、小型化を模索してあちこちから手に入れた携帯電話用振動装置に使うオモリ数種。
130M、H用Rユニット部品。受けボディ本体とオモリ、ベアリングの代用としてのパイプ3個と心棒の6部構成。これで数万回転の動作確認をしました。
中下写真は、付属のスローブースターリップ。よりスローで使いたい場合と、プラス20センチの深度を。
下写真は、タトゥーカラーの模様の図案に書いてある文字です。よく見ると対称的に二つのRユニットという文字を図案化して丸く囲んであります。適当に付けたわけではないですヨ。

 

追記・・・Mは残念ながら令和になって廃番になっていますが、その革新はHとして、また簡易型Rユニットとして今も弊社の多くのルアーに引き継がれています。

Posted by nino