バキュームキッス…自選エッセイ集より【20】

SW,岳洋社

ルアーマンは、フッキングの瞬間に声をあげるときがある。思いつく所では、ヒットォー、ヨシッ、クッタァーとか、人それぞれだ。バス釣り育ちだと、フィーッシュとかフィッシュオンとかも加わる。
中には、いきなりバレナイデーと叫んだりする人もいる。私だと、ほとんど無言だが、餌釣り出身のせいか、たまにノッターというときがある。
昔、TVで若いバスプロが、フィッシュ、フィッシュと連呼していたのを初めて見たときは、あまりの違和感に目が丸くなったものだ。訳すと、魚、魚と叫んでいるのだから、聞き慣れるのには時間がかかった。
フィッシュオンというほうは、万国共通で魚が乗るという感覚があるらしく感心した。
◇問題
魚がルアーを食おうとして、フッキングする、ごくわずかの時間にラインから伝わる情報は、分析を拒む程の量がある。 熟練するのに従って、一瞬にして本物か根がかりかを判断できるし、感覚の研ぎ澄まされたときなどは、サイズすら判ってしまう。
そして、相手の魚もまた一瞬のうちにシマッタコレハホンモノデハナイと察しているはずだ。問題は、これの少し前、魚がルアーを食おうとするところだ。
◇吸い込み型
我々はよく、魚のバイト、つまりルアーを噛むといったりするが、これは正確さに欠ける。ルアーのターゲットのほとんどは、餌を噛んで補食しているわけではない。カミカミ型ではなく、吸い込み型なのだ。
口から餌を海水ごと飲み込んで、うまい具合に大きく開いたエラ蓋から海水のみを排出する。だから、まれに、勢い余ってルアーがエラ蓋から出てしまうことがある。魚にソバを与えれば、外国人よりは器用に食えるはずだ。
サメのようなエラの形をしたものは、若干このときの負圧は低いので、これは噛んでいるという表現がしっくりくる。もっともサメは、二重に並んだ歯で噛んだ後、ついでにノコギリのように横方向に歯ぎしりする。カワイクナイ。
◇負圧とロッド
魚は吸い込み型の食い方をしていると納得すれば、釣技も変わってくるし、幾つかの疑問も解けてくる。
まず、何故ロッドティップが柔らかいほうが確率的に食い込みが良いのか解るだろう。正確には、各魚種の負圧力、つまりバキューム力より強い力が、反力としてルアーにかかっていては口の中に吸い込めないのだ。(実際は、フリーのフックだけが吸い込まれることもあるからフッキングすることはある。)ティップの硬いロッドを使うときは、持ち手を軽く握っているほうが、吸い込まれやすいといえる。
こんな事を言うと、強くて早いリトリーブでは釣れないの?と思われるだろう。この場合は、ルアーと魚の動きの軌跡が交差したときに、引っかかるようにフッキングしていることになる。当然スレが多くなるし、弾かれたと感じる場面が増える。
◇ラインテンションとルアー
そして、竿だけではなく、ルアー、フック、ラインといったものも魚の口の負圧発生時点の様子に深く関わっている。しかも、互いに影響しあっているのだ。
たとえば、伸びのあるナイロンと伸びの少ないPEとを比較すれば、一見ナイロンの方が吸い込まれやすいようだが、事はそう単純なものではない。
ルアーをリトリーブするとき、ラインには常にテンションがかかっている。引いたときルアーを重いと感じていれば、ラインテンションは強く張られていて、引き重りしなければラインは弛んでいる。 テンションが強ければ、それはロッドティップが硬い場合に似てくる。
したがって、あくまでも全般的にではあるが、ラインテンションが強まるルアー、つまり抵抗の大きなものは、ルアーの動きがよく伝わり、当たりが取りやすい反面、飲まれにくく、アワセにコツがいる。対して、抵抗の少ないルアーは動きがつかみづらく、当たりはとりにくいが飲み込まれやすく、自動的に針がかりしやすいということになる。
どちらが自分の釣りに相応しいかは好みだし、どちらが有利なのかはTPOにもよるが、これを意識すると道具の選択にも幅ができるだろう。
この数年でルアーシーンに定着してきたリップレスタイプのミノーというのは、泳層や泳ぎの他にも幾つか特徴があり、同型同サイズなら通常のリップ付きミノーよりラインテンションを低く保ったままでいられるため、幾分食い込みそのものには有利なわけだ。以前試作した小型リップレスミノーだと、飲み込まれることが頻繁におこった。
もっとも、リップレスといっても中には頭部の水受け面積の大きいものもあり、それは通常のミノーと変わらない釣れ方をする。
また、ピンポン球のような大きな浮力を持つルアーが水面上にあるとすれば、魚の負圧力を越えてしまうので、フッキングに至る確率は減ってくる。
ジグで使うアシストフックも、負圧力で、たとえジグそのものが吸い込まれなくても、フリーに動くフックのみが吸い込まれて、具合良くフッキングしているわけだ。
◇ふたつのタイプ
ルアーを設計する上で、魚の口で発生する負圧の事を積極的に考え始めたのは、リプルポッパーを改良した頃からだ。魚は出ても乗らないといった、ポッパー特有の欠点を、負圧をキーワードに設計変更してみた。
実験釣行でフッキングミスが減ったことを確認できたことから、高抵抗タイプのK―TEN(リップレスを除く)とは、別の一群のルアーの構想が生まれた。
ユーザーの要望を元に作り上げた、Mに固有の性質を与えるため、すべて低抵抗タイプとしたのは、そういう経過があってのことである。
そして、ふたつを使い比べると、面白い現象がおこる。高抵抗タイプでよくフッキングミスする人(場合)は低抵抗タイプを使うとバラシが減る。そして、その全く逆の事もあるのだ。
ルアーの個性以上に、ルアーマンには引きぐせ、あわせぐせ、つまりは個性があるのだった。
現在、ショップには溢れんばかりにソルトプラグが並んでいる。質、量とも世界一だ。その中から、魚に対してだけではなく、自分と相性の良いルアーに巡り会うには釣行を繰り返し、試すしかない。
それにしても、ヒットの第一声が、スッタァーとか、バキューム、バキュームとなることは、当分ないであろう。
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2001年の1月に岳洋社さんの「SW」に掲載されたものです。先日、TELで、TKLMが何故飲まれ易いのか?質問を受けました。その答えを補うものとして、これを載せておきます。また、ラインテンションの事は、今度のK2Fに積極的に応用していきます。

Posted by nino