異国の釣り師と……自選エッセイ集より【15】‐S

週刊つりニュース

 今まで、国内の釣行記は幾つも専門誌などに発表してきたが、海外での経験を話したことはなかった。(96年時点で) 理由は様々だが、主に私の志向が、リゾートのガイド付きの釣りとは離れているせいだろう。
そこで、今回は、大物の話はともかくとして、印象深かったアメリカの釣り人達との交遊のひとつを書こう。
相手は、リゾートで会う外国人ではなく、日本で私達が普段、浜や磯からシーバスを釣っている時に会うような人達である。
彼らの日常の釣りが知りたかったので、ロス近郊の海岸から、バハ半島にかけて、浜の投げ釣りから、三千円程度の乗合船、ベニヤ船でのルアーまで同行してもらった。
中にはひと月もトレーラーを引いて日本縦断ぐらいの距離を釣り歩く猛者もいる。(アザラシの入れ食いとか面白い話は多々あるのでいずれお話しする)
後々わかったことだが、本当に打ち解けたのは三度目からで、彼等にしてみれば、それまで異国からわざわざ釣りに来た私を、観光客相手の愛想で迎えたにすぎなかった。
私のほうも、長らくアメリカ人というのは、やはりハンバーガーの国で、何処か大雑把で、白黒はっきりさせないと付き合えないと勘違いしていた面があった。 乗合船で、チップを払って助手に魚をさばいてもらうと、豪快に、白身魚ならヒラメも鯛系の魚もイシモチ系の魚も、一緒くたで同じ袋に入れてしまう。この国の食文化を疑っていた。

目が醒めたのは、ベトナム帰りの釣り師何人かと知り合ってからだ。
言葉で伝えきるのは難しい話なのだが、荒っぽい人もいる反面、異様に優しい人がいて、魚の扱い方ひとつとっても違うのだ。リリース云々ともまた別の話で、もっと本質的な、命に対する深い態度といったものである。
きっと、この人は誰も見ていないところでも何気なく、あのような魚の持ち方をし、速やかにシメることだろう。
よく日本人は、白黒明確にするのが苦手で、ワビ、サビ、曖昧さが身上で、アメリカ人はその逆だと思いがちだが、彼等にもグレイな部分は在る。しかも日本人より重いグレイだと思う。
あれだけの人種混淆の中で、微妙な違いを際立たせず互いに上手くやっていくために、その表現方法を持つことを、あえて拒んだようなところがある。
ビジネスや観光でアメリカ人と付き合うと、このグレイな部分が見えないので、失敗もあるだろう。いや、もしかしたら何に失敗したのか気付かないかもしれない。(私も過去二回はそれなりに仲良くなったつもりでいた)
季節を変えて、共に釣りをすること三度目で、私はようやく理解できた。
それと同時に、彼等の中で、今まで相手にしてくれなかった名人が、明日帰国という日に、ロス近くのレドンドビーチで、ごくありふれたシャローの釣りに誘ってくれた。
何から何まで、まるで作法でもあるかのように教えてくれた。もっとも素直になれた一日だった。
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1996年3月に(株)週間釣りニュースさんの発行した媒体に掲載されたものです。乗合船で、ジャックポット(その日一番の大物を釣ると次回の船代がタダ)取れたのですが、その決定方法が、ライバルの魚を見せ合って、周りの拍手の大きさでした。

Posted by nino